無縫地帯

ドコモのビッグデータビジネスはJR東日本のそれと何が違うのか

NTTドコモもJR東日本「Suica」問題に続いてビッグデータの元データ卸し事業に参入との由。個人情報ビジネスと揶揄する前に、現状と問題点はしっかり押さえておきたいところですね。

山本一郎です。地味な男です。

ところで、NTTドコモが契約ユーザーの動向データをベースにした統計情報を活用して、いわゆるビッグデータビジネスに参入すると発表しました。

モバイル空間統計の実用化および携帯電話ネットワークの運用データ利用について(NTTドコモ 2013/9/6)

iPhone販売参入の件に比べるとかなり地味ですが、各メディアもこの件を報じていました。

ドコモ、ビッグデータ販売へ…基地局機能活用(読売新聞 2013/9/6)
ドコモがモバイル空間統計を実用化、商圏調査でも利用可能に(ケータイWatch 2013/9/6)
ドコモがインフラ運用データを使った「モバイル空間統計」を10月から実用化、数百万円から(ITpro 2013/9/6)
ドコモ、「モバイル空間統計」の実用化を10月から開始(WirelessWire News 2013/9/6)

NTTドコモは、携帯電話ネットワークを利用し、地域ごとに、時間、年齢、性別、居住エリア別の人口分布を推計できる人口統計「モバイル空間統計」を実用化し、10月より提供を開始する。これまで共同で検証が行われてきた公共・学術分野に加えて、産業分野にも提供する。ドコモの子会社であるドコモ・インサイトマーケティングを通じたリサーチ事業として展開し、調査依頼に基づいてデータを提供する。提供価格はデータの規模により異なり、数百万~数千万円になる見込み。今後5年間で、数十億円単位の売上を目指す。ケータイWatch
JR東日本もつい最近、似たような事業開始を発表したところ派手に炎上する事件がありました。結果的にデータ販売事業は一時凍結した上で今後どうするかを再検討することになっています。

「行動が監視されてる感じが嫌」――日立の「Suica履歴情報販売」に批判の声(ねとらぼ 2013/7/1)
Suica履歴販売、有識者会議で再検討へJR東日本(朝日新聞 2013/9/3)

JR東日本の冨田哲郎社長は3日の定例記者会見で「事前に十分なご説明や周知が不足し、お客様にご迷惑、ご心配をおかけしたことをおわびしたい」と陳謝。今月25日以降、再開する予定だったデータの販売を一時凍結し、専門家の議論を踏まえて、事業のあり方を再検討する。朝日新聞
JR東日本の施策については、ユーザーへの事前説明がなかったことも道義的な部分で問題でしたが、それよりも技術的な部分において、総務省がパーソナルデータの利用規程として求めている「適切な匿名化措置」が施されていなかった点が指摘されています。

Suica乗降履歴データの外部提供で問われるプライバシー問題---JR東日本に聞く(ITpro 2013/7/24)

極端なケースとして、悪意を持った個人がデータセットを不正入手した場合、データだけから個人を特定するのは難しいが、友人と一緒に行動して特定日の乗降履歴をメモするなど、現実空間の情報と連結すれば、特定個人のIDの判別(再識別化)が可能になる。ITpro
一方で、ドコモの今回のモバイル空間統計事業は統計データの作成手順において、特定個人を判別できないような「非識別化処理」や、実データ以外の推計も加える「集計処理」、少人数エリアの数値を除去する「秘匿処理」などが施されると説明されています。

モバイル空間統計の作成手順(NTTドコモ)

モバイル空間統計は、一人ひとりを示すデータではなく、集団の人数のみをあらわす安全な人口統計情報になります。NTTドコモ
こうしてみると、ドコモとJR東日本でビッグデータ事業への取り組み方に随分と差異が生じてしまったものです。もちろん両社には個人情報を悪用しようというような目論見は無いものと信じたいですが、その両社が外部へ提供・販売するデータを悪意のある第三者がどのように利用するかまではコントロールできないわけですから、「適切」な処理を施すのは当然の義務となります。

今後、ビッグデータを扱う類似案件はどんどん増えてくることでしょうが、その時に各社がそうした義務をしっかりと果たしてくれることを望みたいものです。

で、当然のように、こうしたデータ収集に対しては感情的にどうしても肯定できない人達も少なからずいますし、そうしたネガティブコメントはTwitterなどでも目にします。データ収集を否定するのは権利として保障されるべきですし、その術としてオプトアウトが用意されているのは良いことだと思います。ただ現状はそうしたデータ収集にまつわる説明やオプトアウトの方法が分かりにくいというのも、却って不要な猜疑心を煽る形になっているのかもしれず、この辺りのバランスをとるのは難しいなとも感じます。

こうしたデータ収集事業に対する気持ちの落とし所として参考になりそうなツイートがありましたのでご紹介しておきます。

ちなみにモバイル空間統計で自分のデータも売られるならその利益を還元しろ!…という考えもあるかもしれないけど、目標通り年間数十億円になっても1契約者あたりにすると年間数十円。各産業分野にとっても公益的な使われ方になることを鑑みれば、そこを細かく言う価値があるか微妙かなと。江井 祐司
そうか!だからTポイントカードの還元率は(ry