無縫地帯

楽天が2億ドルで動画サービスという名目のクラウドソーシング事業を買収

いやー、楽天がまた買収攻勢で海外での勝負に打って出ていて凄いです。こころからがんばってほしいものです。

山本一郎です。睡眠時間もクラウドソーシングしたいです。

ところで、電子書籍事業ではいい意味でやや、何となく、微妙に、そこはかとなく、ほんのり、わずかに絶賛苦戦中とも見える楽天ですが、なにやら新たな端末モデルを先月末に発表しておりました。

Kobo、電子書籍端末の新ラインナップ4機種、10型Androidタブレットも含む(INTERNET Watch 2013/8/29)

残念ながらこれらの新機種は「日本での発売については未定」ということですが、楽天が今後国内でどう電子書籍事業を展開していくのか、あらゆる意味で気になるところです。そういえば、国内のKobo市場を定点観測していたブログ記事「月刊楽天koboちゃん」が一周年をもって休刊となったようです。

月刊楽天koboちゃん 2013年09月号 -一周年休刊号-(A Successful Failure 2013/9/1)

当初、この月刊楽天koboちゃんは、Wikipedia記事等によるコンテンツ数の水増しといったKoboの運営にまつわる問題点を指摘することが主な目的であったようですが、すでにそうした状況は改善され「最近のコンテンツ数の増加はほぼ純粋な書籍で占められている。コンテンツ数は既に国内トップと言って良いポジションにあり、質の面においてもベストセラーの充足率80%と評価できる水準にある」としています。
ようやく体勢が整った、という理解で良いのでしょうか。良いのでしょうね。「そろそろ反撃してもいいですか?」という画期的なキャッチコピーで宣伝戦略をやらかして欲しいところです。

また、同ブログ記事は世界的な電子書籍市場の動向について面白い論考を記しておりますので、以下にそのまま引用しておきます。

確かにグローバル市場を見た場合、koboの競合となるのはAmazonに限られるだろう。また、楽天が大きな投資余力をもつ点も見逃せない。初期の利益が出ない期間を我慢して競合他社に対抗しうるだけの投資を行う体力があるという事実は重要だ。当初日本の電子書籍市場を牽引するかに見えたソニーやシャープといった家電各社は既に市場から撤退しつつある。少なくとも彼らに楽天やAmazonに伍する投資を行う余力は残されていないだろう。事実上、これから数年の電子書籍市場はグローバルも日本国内もAmazonと楽天、この2社を中心に展開していくことは間違いない。A Successful Failure
確かにソニーやシャープの目は無くなってしまった感が強いです。その中で楽天の力業が今後も期待されるという感じでしょうか。こういうハードの主戦場で、役者が交代するというのは寂しいとも面白いとも言えるところではあります。

で、そうした優れた投資力を持つ楽天ですが、その能力がまた遺憾なく発揮される事案が明かとなりました。

楽天、動画コンテンツ配信のVikiを買収デジタルコンテンツ事業を第3の軸に(ITmedia 2013/9/2)
楽天、ストリーミング動画サービス「Viki」を推定2億ドルで買収へ(AllThingsD報道)(WirelessWire News 2013/9/2)
テレビ番組に字幕を付けて配信するスタートアップVikiを、楽天が2億ドルで買収へ(SD Japan 2013/9/2)

Vikiはボランティアのコミュニティメンバーによる他言語の字幕作成・付加が特徴のストリーミング動画サービスで、フールー(無料版)と同様動画内で流す広告の売上がいまのところ収入の柱となっている。同サービスは東南アジアを中心にユーザー数を伸ばしてきており、今後は中南米ならびに欧州への拡大を狙っているという。WirelessWire News
Vikiというサービスは日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、数年前から東南アジア市場を中心にコンテンツプロバイダ等の間ではかなり注目されていました。積極的な会社さんです。

世界各国の映画/テレビ番組にボランティアたちが字幕を付けて提供するViKi, $20Mを調達(TechCrunch Japan 2011/10/21)

ただ、いくら世界的な需要を見込める動画ストリーミングサービスだからといって、それだけでいまさら2億ドルもかけて買収するのはどうなのかとやや不審に思っていたところ、楽天のCEOである三木谷氏とVikiのCEOであるHovaghimian氏へのインタビュー記事が早くも公開され核心を突くような内容が語られておりました。

楽天がGoogle、Yahooを押しのけてビデオサイトのVikiを2億ドルで買収した理由―クラウドソース字幕翻訳をeコマースにも利用へ(三木谷浩史インタビュー)(TechCrunch Japan 2013/9/3)

「われわれは世界の数多くの国に進出中だ。楽天のビジョンは楽天市場を全世界に広げることだ。そのためには多数の言語への翻訳がきわめて重要な課題になる。Vikiのクラウド翻訳テクノロジーは、字幕だけでなく、eコマースでも利用価値が高い。それが楽天がVikiを買収した大きな理由だ。われわれはビデオのことだけ考えていたわけではない」と三木谷は語った。TechCrunch Japan
うーん、当然に大風呂敷を広げた話でありますが、それを差し引いても相当に用意周到といいますか、今後の展開を色々と計算した上での駆け引きだなと感心した次第。まさに投資力でまた一つ大きな勝負に出たということで、過去に挑んで失敗したテレビ事業の買収よりも時代の流れにはマッチしていそうです。

ところで、クラウドソーシングという仕組みは諸刃の剣といいますか、優れた品質の仕事を長期に維持することがどんどん難しくなるダンピングの世界でもあると感じるところがあります。規模が大きくなると、なかなか全体の品質を引き上げる方策が見当たらないのも留意点と言えます。はたして資本主義の最適化がそこに突き進むのはどうなのか色々と考えてしまいますが、今はただ見守るしかないというところでしょうか。

そろそろmixiちゃんを楽天に救済していただいて、世界に通用するSNSにするという夢を抱きたいんですが、駄目ですかそうですか。