無縫地帯

日本出版者協議会が「アマゾンよ止まれ」と叫んでいる件

amazonのポイント制が、事実上の本の値引きであり日本国内の再販制度に抵触するからか、業界団体が騒いでいますが、ブログで騒いで何の意味があるのか良くわかりません。

山本一郎です。冷たい麦茶がおいしい季節が続きますね。

ところで、日本出版者協議会が公式ブログで「STOP!! Amazon!!」というかなりセンセーショナルなタイトルの記事を掲載し、それが一部ネット民の間で話題になっております。

STOP!! Amazon!!●出版社へ呼びかけ(日本出版者協議会 2013/8/9)

なんでしょう、このナウシカが叫んで止める王蟲の群れみたいな感じは。
若い人にはまったくピンとこない比喩で申し訳ございません。

このブログ記事の主旨は、Amazonが実施している学生向けポイントサービスは再販制度や一般書店の存在を脅かすものであり、これを阻止するために各出版社がAmazonに対してポイントサービスの対象から自社製品の除外を求めるように立ち上がれと呼びかけるものです。

ネット民側の意見がどういうものかは、はてなブックマークのコメント等が参考になりますが、やはり単純なエンドユーザー視点としては再販制度への疑問などが多く見られます。

STOP!! Amazon!!●出版社へ呼びかけ: 日本出版者協議会(はてなブックマーク)

日本出版者協議会のブログ記事にしても、はてなブックマークのコメントにしても、いずれもポジショントーク的な要素が強いという感はありますよね。

で、日本出版者協議会のブログの過去記事を辿ると、実は今回の記事以前にも7月5日付けで同じように「STOP!! Amazon!!」の掛け声で始まる記事があり、こちらが色々と経緯も詳しく書かれていて興味深いです。

STOP! Amazon Studentプログラム!(日本出版者協議会 2013/7/5)

アマゾンがAmazonStudentプログラムと銘打って、10%のポイントサービスを始めて1年近くになる。昨年秋、10月11月と2度にわたって、私たちはアマゾンジャパン社に、10%ポイントサービスは明らかな値引きであり、再販契約に違反しているのは明らかなので、中止するよう申し入れた。日本出版者協議会
こちらの記事から分かる重要なポイントは、まず各出版社は直接Amazonとは契約しておらず取次店と契約していること、そして各取次店は日本のアマゾンジャパン社とではなく、米国のAmazon.com Int'l Sales, Inc.と契約しているという点です。また、取次店とAmazon.com Int'l Sales, Inc.との契約内容は守秘義務によって公開されていないということも分かります。

もっとも、大概の企業間契約は一般に公開されるものではありませんし、それを公開しなければならない義務も通常ありませんから、日本出版者協議会のブログで声高に「業界第一位[推定]の企業として、情報公開や法令順守が求められる」と書かれても、それは単なる言いがかりというお話でもあります。もし、そこまで強く主張するのであれば、まずは日本出版者協議会が自ら各取次との契約内容をブログ上に詳らかに公開してみると面白いのではないかと感じました。いや、別にやれるもんならやってみろと煽っているわけではありませんよ。違いますからね。

一連の「STOP!! Amazon!!」の運動ですが、理想としては取次に対してAmazonのポイントプログラムへは商品を出せないような契約を提示すれば良いのでしょうが、現実的にはそれも難しいのでしょう。でも、だからといってブログで「とめろ!」とか書いて止まるもんでもなし、問題提起するにしてもやり方ってものがあると思うんですけどね。

Amazonとの契約問題については、書籍以外の商品に関しても色々と話は耳にしますが、あれだけの大きな流通チャンネルになってしまったが故の圧力や、実質的に外国企業との交渉になるという点で、既存の日本流な考え方ではなかなか納得できる形にもっていくことができず不満が溜まっている例は少なくないようですね。かといって、それに代わるチャンネルが決定的に不足している状況も厳しいものがあるのかなという。そして、amazonはなんだかんだドライである分、決まったことはしっかりやってくれる社風でもあります。

で、Amazonを叩けば「街の書店」が守られるのかというと、それは全然違う話なのだろうなとも思ったりするわけですが、そういう本質論について問い出すと日本出版者協議会の中の人には迷惑な話になりそうですからそれはまた別の機会に。

もちろん、再販制度自体が結局市場や著者を護る機能としてどうなのよというお話にもなるわけでして、このあたり対策が上手く打てなければなし崩しに崩壊してしまう業界慣習になっていくのだろうなあと。これはもう、しょうがないよね。

いずれにせよ、日本で行われる海外企業・海外鯖や拠点によるビジネスというのは、往々にして日本国内の商慣習や法の統制が利かないところでやりたい放題になるわけで、以前の消費税が払われないビジネスも含めてそろそろ対策を考えないといけないなあと思う次第です。