グーグル会長が中国のサイバー攻撃を論述
サイバー攻撃を語る上で、最近特に指摘されるのが中国政府による攻撃関与の疑い。実際にgoogleで中国市場に進出、そして撤退したシュミット会長の中国に対する評論が特に話題になりそうです。
やまもといちろうです。別に漢字の山本一郎でもいいです。
先のブログ記事「Twitterもやられた…世界的にサイバー攻撃が増えている件」と関連するような報道があったので、軽く触れたいと思います。
英紙Telegraphが、Google会長エリック・シュミット氏と元米国政府特別顧問ジャレッド・コーエン氏の共著による書籍「The New Digital Age」の内容を紹介しています。本自体も興味深いんですが、一連のサイバー攻撃に関するコンテクストを踏まえるとまた違った読み方になってきます。
China the world's 'most sophisticated' hacker, says Google's Eric Schmidt(Telegraph 2013/2/2)
さらに、ヤフーでも配信されている"Record China"では、早くも上記記事の内容を簡単にまとめた抄訳が掲載されています。ちょっと端折り過ぎなところもあるかもしれませんが、エッセンスは確かにこんな感じの内容も含んでいるようです。
グーグルのシュミット会長が初著書、「中国政府はハッカー犯罪を支援」―英紙(Record China)
しかし、Google会長というポジションの人物が、今このタイミングで、ここまで強く中国と敵対するような書籍を出すというのは気になるところです。名指しで非難しつつ、「欧米各国政府も中国のやり方を真似て中国のネットワーク上の活動に対応すべきだ」と宣言するのは、どう考えても穏やかな事態ではないです。
実はこのシュミット氏、つい先日も北朝鮮を訪問しています。
グーグルのシュミット会長、北朝鮮を訪問へ(CNN.co.jp 2013/1/4)
北朝鮮訪問についての本当の目的が何であったのかは謎ですが、表だっての理由は、インターネットの自由とオープン制について意見交換することだったとされています。
訪朝後のGoogleのシュミット会長、「北朝鮮政府は国民にネットを開放すべき」と主張(ITmedia 2013/1/21)
一方で、ジャーナリストの冷泉彰彦氏はこの件について、シュミット氏はオバマ米大統領の意向を受けて動いたのではないかと、以下のような推察を行っています。
グーグルのシュミット会長は何のために北朝鮮に行ったのか?(2013/1/11)
冷泉氏の記事はあくまでも一つの仮説でしかありませんが、このような背景が北朝鮮訪問にあったのだとすれば、今回新たに出版される本がある意味で米国政府の中国に対する婉曲な、しかし強い意思表明ととれなくもないのかなと思ったりしてしまうわけです。
一方で、比較的サイバー攻撃について神経質な対応を余儀なくされているインテリジェンスサークルにおいては、過日Googleに対して行われた中国政府からのクラッキングが北朝鮮出身の技術者複数の関与によるものという未確認情報が流れました。北朝鮮が何らかの見返りをGoogleから得る代わりに、中国政府からの攻撃情報をGoogleに提供しようとしているという観測も流れています。
ちなみに、共著者のコーエン氏は現在、Googleのシンクタンク「Google Ideas」でディレクターを務める人物。米国政府特別顧問時代には、Twitterを使って様々な政治活動を行い、2009年7月のイラン大統領選では、イラン民衆がTwitterを使い続けられるようにと、Twitter社にシステムのメンテナンスを止めさせたことで有名です。政治的なポジショニングが明確な人物でもあるだけに、そろそろネットでの攻防が本格的な国家同士の抗争の前哨戦になってきたのかとも感じる次第であります。
外交を舞台にしたソーシャルメディアの伝道師。ツイッターのフォロワーは30万人(現代ビジネス 2010/7/30)
このような、いわば情報強者の最先端的な二人が、今ここでこのような本を著すということがどうも気になるところです……何事もなければ、寝た子を起こすようなことをわざわざ書かないわけですから、これを公知させたい意図はあるのでしょうし、ただただ純粋にインターネット世界の秩序と正義だけ語っても致し方ない。中国政府が悪質なクラッカー集団を組織して、制度的にも難癖をつけgoogleを中国市場から事実上締め出したことを、背後関係も踏まえていまさらに暴露することの意味というものをじっと考えてしまいます。