無縫地帯

第20回東京国際ブックフェアが熱かったようです

ブックフェアの話題を取り上げてみたんですが、なんか尊皇攘夷的な話が盛りだくさんで面白かったです。

山本一郎です。ブックはブックでも賭け事のほうが好きです。人生そのものが博打だからです。

ところで、東京ビッグサイトで「第20回東京国際ブックフェア」が開催されていたようです。

国際ブックフェアが開幕電子書籍の最新技術も紹介(47NEWS 2013/7/3)
「第20回東京国際ブックフェア」「第17回国際電子出版EXPO」が開幕(INTERNET Watch 2013/7/3)

直接足を運ぶことができず残念ですが(あーざんねんだ)、各メディアで電子書籍関連での新しい発表などが報じられるのを興味深く拝読している次第です。

東京国際ブックフェア、今年は何が新しかったか(ITmedia 2013/7/4)

上に挙げた記事によれば、いよいよ国内でも1000円を切る低価格な電子書籍リーダーが市場に現れる可能性もあるようですが、その一方で「今年のブックフェア、電子出版EXPOともに、新製品といえる電子書籍リーダーは今のところみられない」という記述が目を引きます。

ブックフェアが開催される丁度前日に発表されたMM総研の調査結果でも面白いデータが出ていました。

2012年度国内電子書籍端末・コンテンツ市場概況(MM総研)

5~7インチの電子ペーパーを搭載し電子書籍に特化した専用端末の出荷動向が示されているのですが、2012年度通期における出荷台数の伸びは前年度に比べて42.4パーセント増という大きな成長を示しています。ところが、2013年度の出荷予測については前年度比10.6パーセント増と成長に陰りが見え、その理由は以下の通りです。

電子書籍での読書がスマートフォンやタブレット端末といったマルチプラットフォーム化するなか、様々なハードウェア端末からの読書が普及しつつある。(中略)電子書籍端末の市場は今後も緩やかに伸びていくことが考えられる。一方でスマートフォンの大画面化やタブレット端末の浸透による影響を受け、専用機である電子書籍端末の普及が拡大し切れていない面もある。端末を含めた電子書籍市場の需要は、コンテンツの広がりや価格動向に大きく左右される。MM総研
つまり、汎用性の高いスマホやタブレットが普及することで、専用端末の市場成長は大きく影響を受けるということですね。今年のブックフェアで電子書籍リーダー新製品が見当たらないというのは、まさにそういった状況が反映されているということと考えられます。今後はよほどに安くて良質な製品でない限り、電子書籍に特化した専用端末市場が大きく拡大する可能性は低いのかもしれません。そうした状況を証明するかのような国内事業者の動向も記事となっています。

楽天が国内未発売の高精細「kobo」を展示、日本での発売には消極的(EE Times Japan 2013/7/4)

さて、今回のブックフェア関連で一番大きな話題は、初日に行われたKADOKAWA取締役会長、角川歴彦氏による「出版業界のトランスフォーメーション」と題された基調講演でしょう。この中で、今後の国内出版業界に大きな影響を与えるであろう計画が発表されています。

図書館へ電子書籍販売で、出版など3社が新会社(読売新聞 2013/7/3)
KADOKAWAと講談社など、図書館向け電子書籍販売(日本経済新聞 2013/7/3)
角川会長「改善ではなくイノベーションを」――図書館向け電子書籍貸し出しサービス構想など明かす(ITmedia 2013/7/3)
打倒Amazon! 出版社と書店の図書館構想(ASCII.jp 2013/7/4)

角川会長は「Amazonが大きくなるに任せてしまったのは、出版業界に問題があったから」と断言する。旧来の制度が、内側からのイノベーションを妨げていたが、今後は出版業界全体がひとつになって「黒船」に対応していく必要があるというのだ。ASCII.jp
「選択肢は2つしかない。流されるままに流されていくのか、業界のルールを変えるために踏み込むことができるか。Amazonが大きくなったのは出版業界に欠点もあった。Amazonがやっていることは出版業界ができなければいけない。対抗軸を作ることで内からのイノベーションが起こせるのではないかと考えている」(角川氏)ITmedia
いよいよ電子書籍市場における尊皇攘夷の戦いが始まるがごとき剣幕であります。熱いです。陰では色々と話を耳にしたこともありますが、ここまでAmazonに対して真っ正面から対抗意識を露わに発言したことが公にされるのも初めてではないでしょうか。さすがは業界を代表する誇り高き変わり種との呼び声も高い角川会長の高い志に胸を打たれるのは、読書は誰のものかを真剣に考えているからこそなのでしょうか。

そういえば、4Gamerでも佐藤社長が何か言っていました。

ゲームの周りに凄い才能が集まっていた――日本のコンテンツ業界を振り返る「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第12回は,KADOKAWA代表取締役社長・佐藤辰男氏がゲスト(4gamer.net)

しかし確かに、今のままの状況で進めば電子書籍市場の行方は全て海外事業者に牛耳られてしまう可能性が高いことは否定できないでしょう。そうした中で「公共図書館」という切り口で対抗策が出てきたのは、やりおったかといいますか、何かどこかで見た風景のような既視感がじわじわと襲ってくる次第です。当然ながら電子書籍事業を国家規模で展開することになれば、あの馴染み深いITゼネコンの力も当然のように仰ぐことになります。これはもしかすると過去に頓挫してしまった日の丸検索エンジンの夢よもう一度という展開への期待も高まりそうで、まさに胸熱と言わざるを得ません。

そんな一方で、同じ会場で開かれた「eBooksフォーラム」では、宿敵Amazonもセミナーを開催していたようです。こちらは盛り上がったのでしょうか?

電子書籍成長で「紙の本」も売れる?アマゾン担当者らセミナーで語る(J-CASTニュース 2013/7/4)

そして、一連の情報の氾濫が続く中で、私淑してやまない楽天koboちゃんの姿がなかなか見当たりません。誰か助けてあげてください。