バーンズ&ノーブルが電子書籍事業で転けたようですが日本の事業者はどうなんでしょうか
アメリカの電子書籍界隈では、当面の優劣が確定したといったところで、この模様を眺めながら国内はどうしていくべきか考察していこうと思っております。
山本一郎です。このところ、キッチンジローを愛食しています。
ところで、米国で書籍販売大手事業者のバーンズ&ノーブルがタブレット事業に関して事実上の撤退を決めたようです。
バーンズ&ノーブル、タブレット事業から撤退へ(WSJ.com 2013/6/26)
バーンズ&ノーブルがタブレット市場で敗北(JB Press 2013/6/27)
リンチCEOは25日午前に行われたアナリストとの電話会議で、ヌック事業の損失が以前の予想を「大きく上回った」と述べ、タブレット事業は多額の投資を必要とする、競争の激しい分野であることが判明したと説明した。同社は紙の書籍が売れなくなったため、電子書籍を代わりに売るための自社プラットフォームを立ち上げ専用ハードの販売に踏み切ったたわけですが、それが却って経営を圧迫する本末転倒な結果になったということです。興味深いことに、端末は売れなかったにもかかわらず「通年のデジタルコンテンツ販売は前年度比16%増加した」ということですから、電子書籍への需要はむしろ増加していることがうかがえます。まあ、もともと売り上げが低かったから伸び率としては大きくなった側面はあるでしょうが。ただ、米国における電子書籍市場の動向については以下のようなデータもあります。
ガラパゴス化日本vs全書籍の売り上げ1/4を占める米国、電子書籍の将来は?(日経トレンディネット 2013/5/30)
アメリカ出版社協会によれば、米国内における2012年度の電子書籍の売り上げは、書籍全体の22.55%。全米で売れた書籍数の約4分の1を占めたという。日経トレンディネットこうした電子書籍市場が活況の中で、バーンズ&ノーブルが電子書籍関連事業で苦戦しているのは、同社の戦略ミスに負うところも確かにあるのでしょうが、やはりプラットフォームとしての力が弱かったという現実が大きいと思われます。米国ではすでにAmazonのKindleが電子書籍市場において圧倒的な地位を築いており、その後にAppleがiPadでタブレット市場を席巻、さらにはGoogleがAndroidで追撃態勢を整えつつあるという状況では、他の後発プラットフォーム事業者が太刀打ちできる余地はほとんど残されていないとしか言いようがありません。
はたしてそれが本当に望ましいことなのかどうかは分かりませんが、少なくとも米国での電子書籍プラットフォームは、Kindle、iOS、Androidの3つに集約され、その中でCP同士がしのぎを削るという未来しか残されていないような気がします。プラットフォームの中にMicrosoft製品の名前が無いのは、PC世代としてはやや寂しくもありますが、すでにモバイルが主役となりタブレットがPCに取って代わる時代が来つつあるときに、彼らがもう一度表舞台で活躍するチャンスはかなり限られてきています。とくに電子書籍市場において何か画期的な逆転劇が起きる可能性はほぼ無くなったのではないかと。よっぽど画期的なものがないとさすがになあ、と思います。
一方で、日本国内における電子書籍事情が今後どうなるのかは、正直な話全く分かりません。電子書籍事業がうまく行っていないことについてはこのような論考がありました。
「出版社はビジネスモデルを守るため、電子書籍に後ろ向き」←まだこんな寝言唱えてる人がいる。しかもコンサル屋・マーケ屋なのに(編集者の日々の泡 2013/6/5)
いい煽りだ。素晴らしい、もっとやれ。
こちらのお話をざっと乱暴にまとめると、国内出版社の今の台所事情では電子書籍を出しても儲からないので、まじめに電子書籍だけでペイする企画はやりようがない。せいぜいが紙の本を売るためのプロモーション施策としてコストを賄う程度でついでに電子書籍を出すというのが現状と解釈できます。
実際のデータとしてもドコモ公式CPの電子書籍販売事業者が赤字決算という話がありまして、やはり儲かっていないということのようです。
公式CP電子書籍大手「コミックシーモア」運営のNTTソルマーレが何と赤字決算(とあるサイトプロデューサーのブログ 2013/6/21)
スマホやタブレットに関しては、超大手プレイヤーがハードウェアやOSパワーを使ってきたり、LINEのようなインフラに近いプラットフォームが直でやっちゃったりと、古参の大手CPや、中小ベンチャーは苦戦しそう。最終的に生き残るのは何社なのだろうか。とあるサイトプロデューサーのブログそういうお前の会社のパクリアプリの数々はちゃんと黒字をだしてるのかおうおう早く答えろよという気もしないでもありませんが、指摘されている内容はごもっともで、国内の電子書籍については、まだしばらくは離陸するための長い滑走が続くということでしょう。ひとつだけ国内の電子書籍にとって早く道が開ける可能性があるとすれば、スマホの普及が予想以上に早くこれが若年層に及ぼす影響も大きいということです。
スマホビジネスの主戦場、標的は高校生!(ASCII.jp 2013/6/26)
若者がスマホで電子書籍を見る理由については、「電子書籍専用端末は安いのもありますが、それらは端末としての性能が限られていたり、買える書店が限定されていたり、と不自由です。かといって、iPadやNexusといったタブレットとなると価格帯が高く、若者には容易に手が出せない。結果、消去法で持っているスマホを活用しているASCII.jpケータイ小説という時代の徒花が過去にもありましたから、そういう形で日本に独特な電子書籍市場が出来上がる可能性は決して低くないと思われます。ただし、ケータイ小説がそうであったように、その場合の市場は従来の出版社の価値観から見ればひたすらニッチであり従来のやり方が通じない世界でもあるでしょう。バーンズ&ノーブルが不得手なプラットフォーム事業に手を出して失敗したのと同じ轍を踏む可能性は当然あり得るでしょう。
この手のビジネスでお客様を抱えつつあるLINEでは、講談社と組んでLINEノベルを試験的に展開、日本独自の電子書籍文化を創る可能性もあるのかしらと悶々とするところであります。
LINEで無料小説読める「LINEノベル」講談社と協力、公式アカウントから配信(IT media)
もはや、我が国の電子書籍世界の救世主は楽天koboとmixi連合軍しかあり得ないのではないでしょうか。