児童ポルノの問題は何も日本国内だけで済む話ではないようです
ウェブがグローバル化を促し、海外のサービスが国内でますます使われる昨今、児童ポルノにおいても意図しない障害が発生する機会が増えてきたようです。そろそろ真面目に考えるべきトピックスのひとつですね。
山本一郎です。存在自体がポルノですが、ただちに健康には影響はありません。
ところで、自民・公明・維新の会の三党で提出された児童ポルノ禁止法改定案には写真やデジタル画像での児童ポルノ所持を禁止する「単純所持の禁止」が含まれています。で、この単純所持が禁じられる児童ポルノの定義が曖昧であるということから、巷では賛否両論が噴出しております。
単純所持禁止を支持する意見としては、「子どもの保護を最大限に優先」すれば「冤罪のおそれなどということを理由に児童ポルノの単純所持を禁止するべきでない」という論拠があるようです。
児童ポルノの単純所持禁止の実現を(後藤コンプライアンス法律事務所)
本当に大切なことは何か児童ポルノ改正案、今国会も成立見送り(山本洋一のとことん正論 2013/6/15)
一方、反対意見の多くではこれまでの諸外国におけるまさに冤罪というような事例を挙げて、そこから日本でも同じようなことが起きるのではないかという懸念が多く語られています。
自民公明維新のみなさんは子孫写真を所持してないですよね?所持してたら逮捕します(BLOGOS 2013/6/13)
児童ポルノの単純所持禁止で“犯罪者”が続出する?(週プレNEWS 2013/6/12)
児童ポルノ禁止法改定の真の目的は何か?単純所持禁止、マンガ・アニメ「調査研究」への懸念(ITmedia 2013/5/27)
はたしてこの一件がどういう形で決着するのか非常に気になるところではありますが、実はこの問題が国内だけの狭い範囲で収まる話ではないという事例が見られましたので、ご紹介したいと思った次第です。
Googleアカウントを消されてしまった話(tappli blog 2013/6/16)
こちらのブログ主であるt2lowさんは、ある日突然にGoogleのアカウントを抹消されてしまったそうですが、Google側から通告されたその理由は「違法な性的コンテンツが含まれるため」だったそうです。しかし、身に覚えがないt2lowさんはGoogleに問い合わせをします。しかし、これといった具体的な回答は得られることがないまま。結局、誤ってアップロードしてしまった自分の息子さんの性器を含めた半裸写真が児童ポルノとして判断されたのではないかと分析されています。
あるいは、私自身もそうですが、親が撮影した幼少時代の自分の写真を保存したいと、当時のフィルムや現像された写真からデジタルに起こして整理し保存し直す、といったことは往々にしてあります。もちろん性器丸出しで遊んでいる赤ちゃん時代の私も映ってるわけですが、これらがいまのクラウドサービスなどで保存されるとしたら、アウトにされてしまうのですね。
従来の日本における一般的な親の感覚からすれば、我が子の裸の姿を写真に撮ってアルバムに収め、いつの日か息子や娘が大人になった日にその写真を見ながら幼かった頃を懐かしみたいという気持ちは、とてもよくあることなのではないでしょうか。少なくともそういう写真を撮って記録するという行為の裏に、児童ポルノとして利用してやろうという意識は通常ではありえません。もちろん、最初から児童ポルノを目的に写真を撮る親もいて、それが事件として発覚した例もあるので100パーセント全てが無罪とはいえないのが残念なところではありますが。
今回のt2lowさんの件に関しては児童ポルノを目的とした行為でないことは明かですが、ある意味事故でネット上にアップロードされてしまったが故に、児童ポルノに荷担したと断定されてしまったわけですね。
まさに奇遇といいますか、この事件とほぼ同じタイミングでGoogleは児童ポルノ対策の強化を発表しています。
グーグル、ウェブ上の児童ポルノ撲滅に向けデータベース構築へ(CNET Japan 2013/6/17)
Googleの計画は、他の技術企業、法執行機関、慈善団体とともに世界中で情報を共有できる児童ポルノ画像関連データベースを構築するというものだ。これらの企業や組織は、このデータベースを使用して情報交換や連携をしたり、画像をウェブ上から削除したりすることができる。CNET JapanGoogleの強力な検索能力を使えば、これまで以上に有効な児童ポルノ画像の摘発が可能になることでしょう。そして、その結果として、t2lowさんのような事例もさらに増える可能性があります。若いお母さんが趣味でやっているブログなどで、幼い我が子の水着姿や半裸の写真をそのまま何も考えずアップしている例をたまに見かけます。お母さんたちからすれば、そういうブログは家族や親戚が見ているだけという感覚でしょうから児童ポルノに荷担しているという感覚は一切ありません。しかし、Googleがそれを有罪と判断する可能性が全く無いとは言えません。もしかすると何らかの強権発動によりブログ自体が削除されるという事態に発展する可能性だってあり得るでしょう。まさにネットは世界に通じているということです。
つい最近も英国では孫の水浴びをしている写真をPCに入れていたために逮捕されたという事例が起きたそうですが、同じようなことがネット経由で国際犯罪として摘発されるという話も、今後は映画や小説の中だけで済まなくなるのかもしれません。
「孫の水浴び」写真が「児童ポルノ」扱いイギリスでの逮捕例に日本で不安の声(J-CASTニュース)
もちろん、かつては免許制度が無かった自動車も、事故の多発が原因で交通に関する法律ができ、最終的には免許制になりました。ネットの世界も、いまは「そこまで法律でガチガチにやらんでも」と感じるところが、次第に世界標準が決まっていき、日本文化ではあまり馴染みのない制限もこれからどんどん採用されていくのかもしれません。
これが「ネットの一般社会化」という現象なのだろうなあと思うので、抵抗せず頭を切り替えて諦めるか、せめて健全な家族写真ぐらいは酌量の余地があるような進め方にできないかと考えるか、判断は国民に委ねられているんですね。
でも、国民がいくら考え、我が国の法律がどうであるか議論したところで、Googleその他クラウドサービスを運用しているのは外資系企業であったり、海外にあるサーバーだったりします。そうなると、サービスを行う拠点と我が国の法律の関係という厄介な問題に行き当たることになります。
今回は児童ポルノについての話ですので、そこまで考えなくてもと思いますが、一方で、租税の問題であれ誹謗中傷の削除であれグローバル化して当然とされるウェブサービスの時代において、国を超えた取引や違法情報、あるいは租税に対してどこまで社会が制限をかけることができるのかという根本的な問題が発生します。
我が国の議論では、ようやくネットの中立性と並んでそのような「国民や社会にとって望ましくないと決まったサービスや情報」を流通させないようにするかという、中国の金壁のようなものも今後は考えていかなければならない時代になるのでしょう。その方面では、日本は変に自由を至上とする考え方があるもんで、何か大きなサイバー攻撃でもあって、病院で停電するなどして犠牲者が出て対策を求める声が上がらない限りは変わらないのかもしれませんが、議論としてはそろそろ準備しておく必要があるのではないでしょうか。