無縫地帯

手軽に個人情報を第三者に提供して得られる対価として300円は高いか安いか

みずほ銀行とソフトバンクの合弁会社J.Score社が情報銀行認定となる傍ら、アプリ界隈では個人情報を300円でギフトに替える微妙なビジネスが出てきて個人情報とは何かを改めて考えさせられます。

2016年に内閣官房のデータ流通環境整備検討会で産声をあげた「情報銀行」ですが、昨年末にはみずほ銀行とソフトバンクの合弁会社である株式会社J.Score(以下、J.Score社)がめでたく情報銀行に認定されるなど、その存在がじわじわと具体的になりつつあるようです。

情報銀行という仕組みそのものは大事な機能を司ることは間違いないにせよ、ではその機能を駆使して単体でどのように収益を上げるのかという問題にみんな立ち往生している中で、みずほ銀行とソフトバンクがどのような夢を見てJ.Score社をわざわざ情報銀行にしようとしたのかはいまひとつ謎です。名前からして利用者に無断でスコアリングして利用目的以外の個人情報を流用するようなビジネスに見えてしまうのは残念なことですので、もう少し受け入れられやすい名前に変更したほうが良いのではないかと思うのですが。

みずほとソフトバンクの「J.Score」が情報銀行認定(Impress Watch 19/12/25)

情報銀行認定を受けたサービスや事業者においては、安心・安全な情報銀行として、消費者個人がその個人情報を信頼して託せるサービスや事業者であることのアピールが可能になるとしている。Impress Watch
しかし、それぞれが自社サービス利用者などから独自に個人情報を収集して、法律で厳格に禁止されているような活用をすることは起き得ます。実際には企業内での分析を目的にすることはたいていの利用規約に謳われている以上はいろんなことができてしまいますし、個人情報保護法の改正議論が盛んになっている現状でも、多くの事業者がせっせとそうした行為に励んでいるわけです。とくにスマホアプリではアプリサービスそのものは無償で提供しながらも、アプリを通じて個人情報を収集することによってなんらかのマネタイズを目論むという事業者は少なくありません。

ということで、なかなかに興味深い商売を考える輩も出てくるわけです。

iPhoneのホーム画面を撮影するとAmazonギフトがもらえるアプリ「スクショマネー」登場バンク創業者も監修(ITmedia 20/1/8)

ユーザーから収集したホーム画面やプロフィールを分析し、スマホ向けサービスを開発する企業に情報を提供してマーケティングを支援するという。
(中略)
名前や性別、生年月日、職種、在住している都道府県、既婚/未婚、世帯人数、同居子ども人数、世帯年収のプロフィールを入力する必要がある。ITmedia
かなりガッツリと個人情報が収集される仕組みのようですが、こうした情報を提供する見返りとしての対価は最大で300円。これを理に適っていると考えるかどうかはユーザー自身の価値観に委ねるところですが、当該アプリのユーザーレビュー欄をざっとのぞいてみたところ、「電話番号認証も必要」という指摘がありましてこれはどう考えてもプライバシーを気にする人であれば利用する気にならない代物にみえます。「Amazonギフトの発送のために必要だ」という理由かもしれませんが、それであればAmazonから公式に発行されるギフトコードやQRコードだけアプリ内で送ればいいだけのことです。

WEBマーケティングをやる人であればすぐピンとくるのですが、表向きは一枚最大300円で「ホーム画面を売る」と見せかけつつ、実際にはその人の名前や性別、生年月日や世帯情報を買い取り、他のメディアの掲載情報などをその人にプッシュ配信したり会員データを他社に販売するなどして動員を図るサービスであろうと思われます。試しにApp Storeでこの「スクショマネー」のプライバシーポリシーを見ようとすると、なぜかサービス元のApassionate社(代表取締役:安田吉範さん)のホームページに飛ぶだけで、肝心のプライバシーポリシーが読めないようです。また、さらに「アプリから退会できず、利用規約にも退会の方法が書いていなかった」という報告があったり、動作が不安定で肝心のホーム画面のスクリーンショットが撮れない、スクリーンショットを送信できない、スクリーンショットを送信してもスクリーンショットとして認識してもらえないため登録できない、アプリが落ちる等々、この記事を書いている時点でユーザーレビューは不評の嵐となっています。それもそのはず、おそらくこの手のアプリはスクショを現金化させるサービスはどうでもよく、その文言に釣られたユーザーの個人情報を確保できればそれでいいのでしょう。

同アプリの開発にあたっては、「中古品即時買い取りアプリ『CASH』などを運営していたバンク創業者、光本勇介氏の監修を受けている」という謳い文句もあります。そのバンク社も昨年の9月に突然の解散を発表しており、なにやら不穏なものを感じてしまうとするとそれは疑いすぎですか。何しろ、この光本勇介さんが率いたバンク社は、中古品の買い取りアプリを謳うアプリ『CASH』を引っ提げコンテンツ大手のDMM社に70億円で会社売却するも、その後一年で光本さんに対し5億円のMBOを実施した経緯があります。今回の『CASH』も、Apassionate社の『スクショマネー』も、中古品の無条件買い取りや無価値と言っていいスマホのホーム画面のスクショでカネを払うと言っておきながら、実際に行うことは報奨となる微々たる額の金品をちらつかせて、釣られた人々の個人情報の収集を行うという点で類似しているように見えます。中古品の買い取りは実際には物品の郵送や保管、転売という業務手数が発生する一方、スクショの買い取りであれば場所はとりませんし、アプリの不具合が放置されていてもインストールされ個人情報さえ入力されてしまえば用済みですので頑張ってアップデートする必要すらない、と感じるのは言いすぎでしょうか。

光本勇介さんに関しては、かねてバンク社をDMM社に70億円で事業譲渡した経緯について「価格の根拠に乏しい不当な売却だったのではないか」という金融当局からのツッコミもあったようです。その後も70億円もの買収価格に見合う事業を成立させられず、一年ほどで追い出されるようにMBOで厄介払いをされたという評価にならざるを得ません。今回の『スクショマネー』もまた同じようなことをやり、盛り上げて高値で買ってくれる事業売却先を探しているのではないか、という懸念を抱くのも仕方ないのかなと思います。

DMM大損害換金アプリのバンクが5億円でMBO(日本経済新聞 18/11/7)

中古品買い取り「CASH」のバンクが解散へ(日本経済新聞 19/9/13)

解散の理由については「自分たちの資本とチカラだけでは、希望するスピードで、理想とする規模の事業にするのに時間がかかる」と説明した。日本経済新聞
趣は異なりますが、以下のような話題も最近はちょっと熱いです。

「リツイートで100万円」企画で話題「懸賞系ツイート」に潜む“情弱向けのワナ”(ITmedia 20/1/9)

アプリであれリツイートであれ、カネなどの報奨に釣られた人が応募するために反応したりアカウントをフォローする行為は、見ようによっては消費者問題に直結するものであって、騙された側も「まあ、このぐらいならいいか」と苦笑いして忘れられる程度の損害しか与えないという点で、ある意味で『寸借詐欺』の側面を持ちます。実体のない街頭募金のようなものです。

「個人情報取られた割にアプリが落ちて300円もらい損ねたけどまあいいか」とか「面白そうだからアカウントをフォローしてみたけど外れちゃった、残念」などの反応で済ませられるレベルの仕掛けでその人の個人情報をもっていけるのは一見おいしいわけですが、前者は特に、収集した個人情報の利用目的にどうマーケティングをする側がサービス内容を寄せるのかは大問題です。

で、こうしたあまり好ましくない風潮を日本のネットに持ち込んだ張本人の前澤友作さんご自身はなにやら意味不明の身体を張った企画に乗っかっているようでして、こちらも大丈夫なんでしょうか。

前澤友作、本気の決意。“人生のパートナー”を募集(AbemaTV)

ここまでくると、もうただただ面白いだけなので、行きつくところまで行っていただければと思いますが、その前澤さんがYahoo! JAPANを擁するZホールディングスにZOZO社を売却しており、ソフトバンクはZホールディングスの親会社であることも踏まえると世の中は不思議なところで巡っているのだな、という哲学的な意味を感じずにはいられません。

LINEとの経営統合も進めるようですし、面倒なのでメルカリも巻き込んで、モノポリーにおけるダークパープルの安値ゾーンにホテルでも建てていただければよいのではないかという心境が去来いたします。