無縫地帯

東京弁護士会、人権賞を「福島の放射線デマを流したと指摘される問題NPO」に与えて無事物議に

東京弁護士会が主催する「人権賞」に、白石草さんが主宰する認定NPO「PurPlanet-TV」を選出したことを受けて、福島原発事故以降行ってきた言動を巡って議論が巻き起こっています。

東京弁護士会が「第34回東京弁護士会人権賞」として、白石草さんが代表理事を務める特定非営利活動法人OurPlanet-TVを選定したところ、このOurPlanet-TVは「かねて東京電力の福島第一原発事故において、拡散した放射性物質の影響を過大に見積もり過ぎて、不要不急の甲状腺検査を行うなど、問題を含む『放射能デマ』を発信している団体なのではないか」と受賞について物議を醸しています。

東京弁護士会人権賞(東京弁護士会)

特定非営利活動法人OurPlanet-TV

(略)

福島県の「県民健康調査」では、事故当時18歳以下だった38万人を対象とした甲状腺検査が実施されており、現在200人が甲状腺がんと診断されている。想定より多くの患者が見つかっていることをめぐり、県の検討委員会等においても、原発事故との因果関係が活発に議論されているが、時間の経過とともに、テレビ、新聞等のマスメディアは、この内容や問題点を十分に取り上げなくなりつつある。こうした中、OurPlanet-TVは独立メディアとして、同調査の結果や内容を正確に取材・分析し、報道を重ねてきた。こうした報道の蓄積は、多くの被害者のこれからの健康管理や補償の在り方、さらには将来のエネルギー政策をも含めた原発にまつわる諸問題に対して、合理的、民主的な解決を積み上げていくための不可欠な要素である。
東京弁護士会人権賞
もちろん、福島第一原発事故は悲惨な人災であり、地域住民の生活に重大な被害をもたらしただけでなく、日本の原子力行政に対して強い不信感がもたらされたうえ、日本のエネルギー政策に影響を与え、さらには原子力工学のような本来事故とは中立であるはずの学問領域まで問題を蒙りました。福島で被災された県民には多大な苦労をかけてしまった本件事故については再発防止も含めて真摯に反省し、また、その事後処理においては国家や東京電力も含めた関係事業者を中心に国民全員で少なくない負担をする必要が出たという点で、東日本大震災も含めて決して風化させてはならない、忘れてはいけない事故であったことは言うまでもありません。

一方で、健康被害を含めた国民生活全般に対する影響というのは、幸いなことに限定的なものに納まり、非常に危険な福島の一部地域を除き日本全体で見れば放射能汚染で人々が健康被害を続出させ国内で健康に暮らせないというような事態には陥りませんでした。関係者の努力もあり、主要地域での除染も進み、事故現場からの放射性物質の完璧な遮断ができている状態には程遠いものの一定のリスク軽減は行われたものと判断できます。

放射性物質による環境汚染でどのくらいの健康被害があるのかどうかについては、当時まだ詳しくすべての汚染状況が判明していなかったこともあり、放射性物質を巡ってはさまざまな報道があり、また、恐怖や憂慮が国民の間に広がっただけでなく、海外でも日本の農産品の品質を懸念した一部の国が日本からの農産品輸入を一時停止した事案もあります。それでも、時と共に放射性物質による被害や健康への影響が理解され広く知られたことにより、幸運にも、私たち日本人は事故現場周辺の住民を除き概ね普通の生活を事故から8年かけて取り戻してきた、というのが実情ではないかと思います。

日本で甲状腺ガンが激増する理由――白石草×広瀬隆対談【後篇】 | 東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命(ダイヤモンド・オンライン 15.11.28)

しかしながら、白石草さんらOurPlanet-TVをはじめとする知識人が過剰に見積もった放射性物質による重大な被害に関する予見は概ねデマと言っても問題がないぐらいガセネタであったこともまた事実です。福島県をより危険な被災地と扱う蔑称ともとれる「フクシマ」とカタカナ表記したうえで、まだ健康被害の状況が判然としてなかったころから放射性物質の危険を過剰に煽っている一連の言説が、東京弁護士会の思う人権を護持するものだとするのは問題です。甚大な被害から立ち直ろうという福島県民やその協力者たちの復興努力を、根拠や裏付けのない風評で台無しにしている「報道」が人権賞に相応しいとするならば、さすがに物事の真贋を見極められていないと捉えざるを得ず、批判が噴出するのも当然と言えます。

また、白石草さんらOurPlanet-TVの甲状腺がんに関する知見もまた間違っており、もちろん放射性物質を体内に取り込んでこれらのがんが検査の結果見つかった、増えたという可能性もゼロとは言いませんが、しかし早期発見されたがんの由来は断定できるものではありません。甲状腺がんの場合、検査で具体的な症状や主訴のない調査対象者の体内で発見されたとしても、命にかかわる可能性は低いとされています。

特に、低線量での放射性物質が甲状腺がんの原因となるかは判然としません。しかし、事故後、福島県では県民健康調査の一環として、原発事故当時18歳以下だった全県民を対象に「甲状腺検査」を実施しています。福島で甲状腺がんが増加していると白石草さんらOurPlanet-TVでは喧伝していましたが、そもそも原発事故前の甲状腺がんの発症率が調査されていなかったのに、自覚症状のない調査対象者をかき集めてきて「230人の甲状腺がん疑いが見つかった」と発表したところで何の価値もないのです。

当然、意味のない調査で風評被害が出る形になりますので、事実関係に詳しい専門家から「過剰診療である」という火消し論説までしなければならない事態になっています。

甲状腺がん疑い230人〜福島県検査で13人増加 | OurPlanet-TV(特定非営利活動法人 アワープラネット・ティービー 19/10/4)

【SYNODOS】福島の甲状腺検査に国際的な勧告を生かすには――IARC専門家に聞く/Louise Davies氏インタビュー(SYNODOS 服部美咲 19.10.11)

自覚症状のない甲状腺がんは命への別状はないにもかかわらず、これらの検査を行われて発見されれば甲状腺がんの切除も検討しなければならなくなり、切除してしまえば首元の小さくない手術痕も含めて一生QOLの低い生活を強いられます。これらの甲状腺がんのスクリーニング検査の推進は過剰診療を呼び起こすものであり、むしろ人権侵害と言えるものであるにも関わらず、この検査結果を積極的に報じ、原発事故の健康への影響は概ね把握できるようになった事故後8年が経過したいまも、あたかも福島には放射性物質による汚染で健康被害があるかのような発言を繰り返す白石草さんらOurPlanet-TVが東京弁護士会の言う人権賞に相応しい団体であるのか、疑問は尽きません。

さらには、白石草さんはこんなツイートをされています。

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双葉町や大熊町のコースは防護服を着るべきだと思います。

東京五輪を防護服聖火ランナーで揶揄ソウルの日本大使館にポスター https://www.sankei.com/world/news/200108/wor2001080033-n1.html … @Sankei_newsより
Twitter - 白石草
もともとは、韓国のネット団体VANKが日本で開催される東京オリンピックの聖火リレーについて、放射性物質汚染を揶揄する中傷として「日本のランナーは放射性物質を防ぐ防護服を着るべき」と日本大使館にポスターを貼った事件がきっかけです。汚染状況について改善が進み、いままさに事故前の生活を双葉町、大熊町の住民が取り戻そうとしている矢先に、このような揶揄を白石草さんがしているのをみて、どのあたりに人権護持者の香りを抱くことができるのか不思議です。

双葉「聖火コース追加を」避難解除日程合意で町長 : ニュース : 福島 : 地域 : ニュース(読売新聞オンライン 19/12/27)

白石草さんやOurPlanetについては、良くも悪くも「そういう主張をする団体である」という放置で良かったかと思いますが、こういう団体に人権を踏みにじられる福島県民や協力者たちのことを慮らず、東京弁護士会がどういう経緯でこのような人権賞を白石草さんに授けることになったのか、理解に苦しむのは当然ではないかと思います。

もちろん、これらの市民団体が積極的に活動していくにあたり、多少問題に踏み込んだ賛否両論の出る意見でも敢えて行って、問題意識の喚起を行うものなのだ、と言うことなのでしょうか。

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この関係でどこまで話が盛られているのかは分かりませんが、本件の東京弁護士会人権賞の受賞をきっかけに、白石草さんが国政選挙に野党連合のいずれかから出馬するのではないかという観測まであるそうです。私個人としては、きちんと上記問題も総括しながら国民の請託に応えられる活動を白石草さんができるようであれば歓迎するものではありますが、公式Twitterに「安倍やめろデモ」の様子を動画で掲載してしまうような活動家気質が前面に出ると、東京弁護士会のほうが地金の問題を問われかねないと思うのですが、どうでしょうか。

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皆さまのさらなるご活躍を、心より祈念しております。