無縫地帯

中華ファーウェイの事例にみる、米中対立の深刻さ

中国通信機器大手ファーウェイが新製品発表で米グーグルのアプリを搭載できないまま世界展開するという発表をしており、どうも払拭しきれない米中対立の問題はより色濃くなっていきそうです。

米中貿易摩擦の影響を受けた結果となるのでしょうが、Appleは同社のハイエンドデスクトップ機種「Mac Pro」製造に関してかなりの離れ業を成し遂げたようです。

Apple、「Mac Pro」の米国生産を維持中国移管見送り(日本経済新聞 19/9/24)

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が6月末にアップルが次期モデルの生産を中国に移すと報じ、アップルも追認姿勢を示していたが、一転して米国生産を維持することで決着した。日本経済新聞
物凄いデリケートな話でしたが、こうなりましたか。

この件でAppleはなかなか絶妙な駆け引きを米政府とやってのけておりまして、本体の組み立てそのものは米国内で継続するという既成事実をバーターとすることで、本体の中で使われるパーツの一部については中国で安価に製造しつつ米国へのパーツ輸入時にかかる対中制裁関税は適用除外を受けられるような特別待遇を獲得したということになるようです。もちろん、現段階では流動的な部分は残っているようですが、それでもここまでうまく処理できるというのはさすがにAppleだなあとも感じます。

今後気になるのは、完全に中国などで製品を完成させているiPhone等の同社製品に対しての制裁関税の扱いがどうなるのかですが、このあたりもいろいろとAppleはアメリカ政府に対して働きかけているのだろうと推測されます。

そのAppleは米国企業なのでこういう形で米中貿易摩擦の余波をかろうじて無難に乗り切ることができるわけですが、一方で中国メーカーはこういうわけにはいかず、とくに安全保障問題でもいろいろと疑問視されているファーウェイ(HUAWEI、華為)の場合、米国企業のテクノロジー全般にわたって利用が非常に困難な状況となりつつあり、その結果としてGoogle抜きのAndroidスマホを大々的に世界に向かって売り出すという局面を迎えつつあります。

ファーウェイ、グーグルアプリ搭載できず新製品発表(日本経済新聞 19/9/20)

スマホなどを統括する事業の最高経営責任者(CEO)の余承東氏は「(新製品では、グーグルの主要アプリを指す)GMSは使えない」と明言した。そのうえで「(自社開発したアプリストアの)『アップギャラリー』で、動画など様々なアプリをダウンロードして利用できる。心配はいらない」と述べた。

ファーウェイがこれまでスマホに採用を続けてきたグーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」の利用は続ける。ただ、発売時期は示さなかった。日本経済新聞
そもそも中国本土内に限ればGoogleが中国から撤退して以降、公式にはGoogle関連のサービスは一切搭載されずにAndroidスマホが作られ売られている経緯があるので、ファーウェイにとってみれば何も新しい事態ではないわけです(Androidそのものはオープンソースという建て付けなのでGoogleのサービス無しで利用できる)。しかし、そうしたGoogle抜きのスマホを中国本土以外で売るのは初の試みとなるわけでして、はたして海外ユーザーにそうしたものが受け入れられるかどうかは未知数となります。

本来なら中国自体がおおいなるWTO違反とも言えなくもないのですが、それは中国国内に限った話であったのが、堂々と中国の外ででも売りに来られると見ていて躊躇する部分はあります。当然ながら普通に考えればそんなスマホを欲しいと思う人はあまりいないような気もしますし、大丈夫なのでしょうか。ファーウェイの中の人もそのあたりの事情はよく分かっているはずですが、あえて強気な姿勢を見せてPRしていかねばならないのは大変そうです。

Mate 30とP30の違いは? グーグル抜きでの成算は? ファーウェイに聞く(ファーウェイ on ASCII.jp 19/9/22)

消費者のみならず業界関係者も気にしているのがグーグルサービス(=GMS、Google Mobile Services)からファーウェイ独自のエコシステム、HMS(HUAWEI Mobile Services)への移行だ。

ホー氏はこれが「チャレンジングな道」であることを認め、現時点でもどのアプリがHMSに対応するかについても明言は避けた。またユーザーのGMSからHMSへの移行はすぐにできるものではなく、段階を踏んでいくものになるだろうとも話した。ファーウェイ on ASCII.jp
これはファーウェイ出稿の広告記事ですが、遠回しに「チャレンジングな道」という表現が選ばれており、さすがに今の状況を考えるとお気楽に「万事絶好調、最高です!」みたいな書き方はできなかったんだなと興味深く読めるものがあります。現実としてはかなり厳しいということなんでしょうね。それでも挑戦するファーウェイは凄いと言うべきなのか、そんなことまでさせてしまう米中対立はどんだけ深刻なんだと捉えるべきなのか、イマイチ判然としません。

なお、中国本土ではGoogleのサービスを建前上使えないはずが今のところはいろいろと抜け道があるようですけれども、今後はいろいろと封じられるのではないかという予測が出てきています。今後米国政府がGoogleに規制強化を呼びかけるようなことがあればそれもむつかしくなる可能性はありそうに思えます。

『Google抜き』のHUAWEIスマホはどうなる? 中国の事例から考えてみる(山谷剛史)(Engadget日本版 19/5/21)

ファーウェイがGoogle Play抜きのスマートフォンをリリースしても、簡単に後からGoogle関連のアプリをインストールできる。Googleのサポートを受けない形で、Googleのアプリを利用できる仕掛けを作っておくというのが一番現実的といえるかもしれない。

ただし、GoogleサービスフレームワークはオープンソースではなくGoogleの著作物であるため、Google Play一式がインストールできるというのは著作権的にNGである可能性が高い。インストールする行為は本来"できてはいけない"ものが、"なぜかできてしまう"という状態だという点は、留意しておきたい。Engadget日本版
ファーウェイとしては「こうした状況が今後どうなるか分からない」というのが一番怖いのだろうなとも想像されます。

それにしても、ここではAppleとファーウェイの事例だけを取り上げましたが、米中貿易摩擦の影響は両社だけでなく世界中のICT業界に影響を与えることは必至でして、今後しばらくはいろいろと混乱が続きそうではあります。政治的イデオロギーでテクノロジーの動向を左右するというのは昔の米ソ冷戦時代にもままあった話ですが、こうした事態が再びやって来るとは、まさに歴史は繰り返すということなんでしょうね。

カナダでは先日、ファーウェイ副会長の孟晩舟さんが裁判所に3回目の出廷をしたと報道されていましたが、報道でも新たな情報が多数出てきているようですので、日本がファーウェイ製品を使うべきではない理由なども追って本稿で整理した記事を書きたいと思います。