三春充希@みらい選挙プロジェクトへの捏造・情報操作批判に見るネット論壇の多難さ
Twitterで三春充希@みらい選挙プロジェクトが引用した安倍政権支持率が捏造であるとして批判された件や、noteで不思議な解説記事を書いている件についてをまとめてみました。
選挙関連の著書もある三春充希(はる)さんが、Twitterでの捏造や情報操作を繰り返し指摘されたことで、選挙関連の情報提供をFacebookに移行させると発表していました。
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「はるさんがそんな捏造を指摘されるようなツイートしていたかな?」と思い、批判されているツイートを探してみたのですが、どうやら共同通信などが発表した安倍政権支持率が内閣改造後に55%へ上昇した件をはるさんが取り上げたところ、この共同通信などのマスコミの世論調査は捏造だ、安倍政権に有利な情報を流しているので、はるさんは情報操作を行っているという批判が集まったということのようです。
安倍内閣支持率55%に上昇改憲反対47%、増税不安81%共同通信調査(毎日新聞 19/9/13)
また、これらの情勢に関するデータが分かりやすく表示されて人気を博す一方、まず捏造と批判しているのはこれらの「メディアの調査結果を受け入れられないクラスタ」で、安倍政権の高支持率を受け入れられない左派のいわゆる「マスゴミ批判」の文脈です。次いで、はるさんがこれらのデータに対する解釈が恣意的(詭弁)であるとして捏造だと批判するクラスタは、野党支持丸出しのはるさんの党派性が色濃く出た分析記事が低品質で問題だと主張しているのです。つまり、マスコミの調査結果をまとめて分かりやすく流すことで評価されたはるさんは、マスコミ批判する左派からも、本人の野党支持の言動を批判する右派からも攻撃されることになりました。
はるさんは複数のメディアで掲載されている選挙速報や政権支持率などをグラフ化したり情報を整理してTwitterに放流したことでフォロワーを増やした書き手ですが、これらの情報はほとんどが各地域の選挙管理委員会やメディア報道に依存しており、しかも一部メディアでは選挙情勢報道は無料の会員登録をしないと読ませない記事からの流用でもあるため、有用だし面白いけれどもメディアにフリーライドしているとも言え、実に微妙なところです。新聞記事や選挙報道に対するリテラシーを啓蒙している面が強いので、そのぐらいの引用や整理は許されるべきだと私は思います。
しかし、その結果としてメディアからの政権支持率や選挙情報がフェイクだと思い込んだり、思った通りの選挙結果にならないことで陰謀論に走る人たちの憎悪を、情報のまとめ役に過ぎないはるさん個人が背負うことになってしまったのは残念なことです。ただし、高度で信頼できる情報をはるさんが流していると評価される件については、可能な限り正しい情報を提供しているのはあくまで選挙管理委員会や通信社・新聞社などの各マスコミであって、はるさんの行っていることはこれらの取りまとめと、見える化を分かりやすく行っているにすぎません。メディア横断で耕論に資する情報をまとめているのがはるさんの素晴らしい点で、これをどう評価するかで見え方が違ってくるのです。
ネットで何かを書くにあたっては、必ずこういう批判や反論を受けながら活動をしていくことを強いられるのは仕方のないことですし、はるさんがTwitterで不思議な批判に堪えかねてより匿名性の低いFacebookに情報発信の場として拠点を移そうと考える気持ちは分かります。
ただ、マスコミがコストをかけ、頑張って調査して信頼度を高めてきた世論調査を単に取りまとめた内容は確かに正しい内容である一方、はるさんがその正しいデータをもとに政治状況を論評する内容の品質は低く、仮にFacebookに移るとしても、これらのチェリーピッキングまがいを繰り返すようであればどこでも批判を受ける可能性があります。
例えば、以下ははるさんが今回の参議院選挙結果を公表した日本全国の得票データを地図にマッピングした内容をベースに、野党支持・政権批判票を集めてきた立憲民主党かられいわ新選組に浮動票が流れたのかを論考した記事の魚拓です。
【魚拓】立憲民主党の票はれいわ新選組に流れたのか(第25回参院選精密地域分析Part1)(魚拓note 三春充希(はる) ☆みらい選挙プロジェクト 19/8/12)
これらの記事は、はるさんの趣旨として「れいわ新選組の得票動向を見る限り、全国に支持が広がっているのでれいわ新選組はポピュリズムではない」と主張したいように読めます。
しかしながら、全国から得票を集めているから特定の政党がポピュリストではないのだ、という話にはそもそも根拠がありません。しかも、れいわ新選組がポピュリズムを用いて選挙を行ったのかは、投票結果から導き出せるようなものでもないのです。
れいわ新選組がポピュリズムで票を獲得したのかどうかは、単純な得票傾向で分かるはずがないので、各マスコミは有権者の意向を探るためにコストをかけて出口調査をやったり、パネルを作ってRDDやネット調査を行い、投票結果から時間をかけて有権者の持つ「真意」を探り出そうとします。これらのデータこそが、各政党がどのような政策を打ち立ててどの有権者に刺さったのかを分析する材料になるわけです。
投票行動データから浮かび上がる「希望分断社会」(note #リアル選挙分析 参院選2019 19/8/9)
[[image:image01|center|れいわ新選組の支持者が非正規・失業者に多いことがよく分かる調査結果。正確性はともかく、ネットパネルでも充分に得票傾向は分かる。]]
ネットパネルでの調査では、サンプル数5,000でクロス・マーケティング社のパネルで行った結果が公表されていますが、れいわ新選組の支持者は「日本の未来に希望が持てない」「努力が報われるとは思わない」というフリーランスや非正規労働者、失業者から特に票を集めていることが分かります。彼らに向けてれいわ新選組・山本太郎さんが打ち出したメッセージが一部で熱狂を生み、今回の2議席獲得にいたったことは言うまでもないのですが、この結果をもってしても、れいわ新選組がポピュリズムであるかどうかは人によって見え方が異なると思います。
本来、支持層の動きや情勢調査というのはこのようなネットパネルや電話を用いたアンケート調査や出口調査でないと正確なことは何一つ語ることはできません。投票結果を見ているだけでは解像度が低いのです。
つまり、先に例示したはるさんの記事は、単純に信頼性の高いメディアの調査結果に、さして根拠のない自身の主張を混ぜて読者の認識をミスリードさせる効果をもっていることになり、「三春充希さんはフェイクニュースを流した」と批判されても仕方がない部分はあります。あくまで、各メディアが発信する選挙情勢や支持率動向を取りまとめるところまでは信頼性が高い情報だが、その情報の解釈や評価が間違っており、それは何か意図することがあるのか、単に分析する能力の問題なのかは外部からは分かりません。
これらの問題は、デジタル・ゲリマンダー問題の分野で(広い意味で言えば)、メディアが報じるデータの使われ方や解釈の問題について、もっと丁寧に論考するべき場が必要なのかもしれません。多様な議論があって当然としつつも事実の摘示については党派性を控えるといったマナーのようなものに頼らざるを得ないというのは残念なところではありますが、そういう問題も含めて民主主義のコストですので、より多くの人が政治に関するデータと情報と評価・分析についてもっと関心を持ってもらえればいいなと思っています。その点では、はるさんの活動は高く評価されるところですので、引き続きの健筆を祈念する次第です。
補遺ながら、デジタル・ゲリマンダーとフェイクニュース問題は、れいわ新選組の躍進を読み解く上で重要な概念です。
「デジタル・ゲリマンダー」SNSによる選挙介入の実態(政治山 Infoseekニュース 16/12/2)
ところで、デジタル・ゲリマンダーは、このような選挙区割りにおけるゲリマンダーとは様相を少々、異にする。デジタル・ゲリマンダーを問題にしているのは、ハーバードロースクールのジョナサン・ジットレイン教授である。ジットレイン教授は、SNSによる世論操作を通じた投票行動への影響力行使を、「デジタル・ゲリマンダー(digital gerrymandering)」と呼んで批判している。デジタルゲリマンダーの法規制の可能性(湯淺墾道 2017)
(略)
これに伴って、さまざまな問題が浮上しているが、その一つに、これらのSNSを運営する事業者は、意図的な情報操作や投票行動への影響力行使が可能という点が挙げられる。
「デジタル・ゲリマンダー」SNSによる選挙介入の実態
一部で「いやいや、デジタル・ゲリマンダーと言っても、いままでは大手マスコミがネットなどで反撃されないのをいいことに、政権批判や争点でっち上げなどで第四の権力を行使してきたじゃないか」という反応もありますが、主体の見える大手マスコミ(誰が書いたか、なぜ書いたかが事後的に分かる)に対し、匿名性がありニセ情報を流してもリスクを伴わないTwitterなどでの情報操作は趣が異なります。
また、自民党も共産党も各々政党内や支持者周辺にネット世論対策の人員を抱え、自党や政策に対する発信力だけでなく批判者への否定や反論も行っており、これらは適法であることを考えると、希望分断どころではない問題になってしまうかもしれません。むしろ、Twitterの右と左にクラスタが分かれてワイワイやっているだけの牧歌的な時代が過ぎてきていることは自覚するべきです。