小学生・中学生の「ゲーム依存症」、過度な「e-Sports」が原因か
東京ゲームショウはe-Sports推しでしたが、WHOではゲーム依存症を精神疾患として認定し厚生労働省では日本の小中学生のゲーム依存症患者が93万人と推定しました。ゲーム依存は親だけの問題でしょうか。
東京ゲームショウが開催され、9月12日のビジネスデイに日本のe-Sportsシーンの一角にある一般社団法人日本eスポーツ連合(以下、「JeSU」)が記者発表会を行っていました。
[TGS 2019]設立から約1年半が経過したJeSUが成し遂げてきた成果と,これからの課題。TGSでの記者発表会レポート(4Gamer.net 徳岡正肇 19/9/12)
ところが、ここで「(JeSUの)岡村氏はまず、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)と刑法賭博罪に関してJeSUが行ってきた取り組みを発表した」とあるものの、ゲーム大会の運営資金として参加費を取り、この参加費をゲーム優勝・入賞者の賞金に充当しなければ刑法賭博罪には該当しないというのは当初から警察庁が公式に見解を出しており、景品表示法上も役務である限りは問題とならないことはJeSUが働きかける前からすでに充分知られていたことであって、ちょっと何が言いたいのか良く分からない内容になっていました。
また、消費者庁にノンアクションレターを出したJeSUの内容が公開されていますが、この程度のことは自社製品のゲーム大会を運営している各社はすでに個別でヒヤリングして明らかになっている内容ばかりで、なぜいまさらこの問題をJeSUが東京ゲームショウのステージで発表しているのか理解に苦しみます。
一番JeSUにとって都合の悪いことは、「JeSUが仕切っているプロゲーマー制度を使わなくても、ゲーム大会で賞金を出すことができる」という事実であって、このプロゲーマー制度が形骸化し、本来であればユーザー発の大会や各社が行う自社大会で充分対応できるところを「プロゲーマーの認定を取らなければ賞金を受け取れない」という根拠のない謎の法的整理で制約を加えるかのような動きは望ましくないのではないでしょうか。すでにe-Sportsはオリンピック競技として正式に採用される可能性は乏しくなっており、競技団体の一本化の必要がどこにもなくなっているいま、結果的に日本のゲームメーカーの対戦ゲームの足を引っ張り、巷で流行っている対戦ゲームは軒並み海外製ゲームばかりという末路にならないよう、一人のゲーマーとして祈るばかりです。
なぜか「JeSUのプロゲーマー制度では中学生は賞金を受け取れない」という情けない問題も発生していました。プロ競技としては将棋も囲碁も普通に保護者の承認を得て小学生・中学生でも賞金を満額受け取ることができる制度になっています。これは、ゲームが「技量に対する役務である」という原則を理解しておらず、一律に年齢でプロ制度を規定しているからこのような間抜けな事態を起こすわけで、JeSUもガンホーももう少し考えたほうがいいのではないかと思います。
【悲報】プロゲーマー「優勝した!500万ゲット!」 パズドラ「中学生だから賞金なしね」(アルファルファモザイク 19/9/15)
神速の指技! 「パズドラチャンピオンズカップ TGS2019」でJrプロ・ゆわ選手が優勝!(GAME Watch 19/9/14)
さて、その海外製ゲームで言えば、国内で流行している対戦ゲームにハマり社会生活が不全に陥る小学生、中学生が増えているという問題が続発し、一部の教育委員会では、夏休みにこれらの対戦ゲームにハマり込み、夏休み明けからゲームから抜け出せずに不登校に陥っている児童が2017年ごろから増えている点が問題視されています。去年までは、『Mine Craft(マインクラフト)』や『荒野行動(Knives Out)』が多かったものが、いまではEpic Gamesの『フォートナイト(Fortnite)』が案件としては激増。現在、小児精神科の外来では、これらの対戦ゲーム、e-Sportsタイトルへの過度なハマり込みで不登校や学業不振に陥ったという保護者からの相談が殺到している状態です。これらの問題は、総括として「小学生・中学生で増加している『ゲーム依存症』の問題」とはっきり指摘する小児精神科医が増えてきているのが実情です。個別の具体例で問題を訴える小児精神科の抱える問題意識については、改めて記事にしたいと思います。
逆に、任天堂の「スプラトゥーン」や「大乱闘スマッシュブラザーズ」などは、対応するハードにペアレンタルコントロールが機能していることなどから、タイトルとしての相談件数は少なくなっています。
これらの「ゲーム依存症」は、いままでは「子どもに野放図にゲームをやらせている親の問題」とされ、スマートフォンなどに搭載されているペアレンタルコントロール機能などを使いながら、親子間で話し合って問題を解決するのが主であるとする、家庭内対応を求める声が多くありました。
しかしながら、ゲーム依存症などの対策に力を入れているゲーム会社のCSR部門などが調査した結果で言うと、昨今のスマートフォン、据え置き型ゲーム機、携帯ゲーム専用機、PC(Windows機)などのすべてのゲームハードカテゴリーで、一連のe-Sportsコンテンツのゲーム依存とされるプレイヤーの率が2015年以降大きく上昇、一日6時間以上プレイをする依存状態も含めて考えるとかなりのゲーム依存症予備軍が、主に小学生・中学生に増えていることが分かります。一般的に、ギャンブル障害と同様に、これらのプレイヤーの8割ないし9割は、いずれゲームに飽きて日常生活を取り戻すとされていますが、大半の子どもがいずれゲームに飽きることが事実であるとしても、概ね一割強の子どもはゲームに依存したまま復帰できないことを意味します。
そして、これらのゲーム依存における親の影響で言えば、ゲーム依存の外来でやってくる保護者のかなりの割合が属性として「共働きであり、子育てを楽にするために幼少期からスマホを与えてゲームや動画などをやらせていた」という経緯を持っていることが分かります。つまり、親と子どもの関係性が希薄で、スマホやタブレットを与えてゲームや動画をやらせているあいだは子どもが静かで子育てが楽だからという理由で子どもに多くのゲームや動画を与え続けてきた結果が、10歳ごろにやってくる反抗期の到来とともにゲーム依存に一気に進んでいってしまうケースがあるのではないか、という指摘です。
さらに、子どものゲーム依存に関する主訴(診察で医師の問診に答える内容)でいえば、依存しているタイトルはほぼ例外なく対戦ゲームとソーシャルゲームであり、一時期猛威を振るっていたMMORPGはむしろ20歳以上に増えていくことが分かります。また、ソーシャルゲームで取り返しがつかないぐらいの課金してしまう衝動性はある程度お金が自由になる高校生以上から増え始め、特に30代以上の無業者でMMORPGとソシャゲでの廃課金が多く存在します。紐解くと、小学生ごろからゲームや漫画が好きだった子どもが、大人になって就職難や人間関係に悩んで社会生活を放棄する局面において、より関係性の構築が楽であるか、人間関係そのものが希薄なソシャゲに依存して「居場所」を見つけ廃課金となってしまうケースが精神科外来では多いとされています。
15歳以下の子どもに限定するならば、これらの「ゲーム依存」の状態を引き起こさない業界環境を作ることが一番の対応策であり、共働きで親が家庭にいない、学校が終わると学童にいくような子どもほど、親の目を憚らずにゲームをやり続けることができてしまうことへの対策を打たなければなりません。本来、しつけも教育も親の責任とされてきましたが、子どもに過度にゲームにハマらないよう親が見ていられる家庭ばかりではないという前提で、ゲーム会社はCSRを組み立てたり、ゲーム内のレギュレーションを設計しなければならないことは指摘されるべきです。社会問題として「ゲーム依存症」がクローズアップされつつありますが、子どもに「e-Sportsかっこいい」という見方をさせるようなマーケティングは、またしてもゲームは社会悪であるという戦犯としてバックファイア、逆流してしまいかねません。
今回、世界保健機関(WHO)が疾病として認定した「ゲーム依存」は、依存を示す状態が12か月続くことが条件となっていますが、学校に必ず通うことを強制するのが良いかどうかは別として、一般的に依存状態が2か月も続くと不登校や学業不振といった問題を子どもが引き起こし始めます。厚生労働省が試算した我が国の「オンラインゲームを含めた病的なネット依存が疑われる中高生が推計93万人」という診断基準については異論も出るところですが、親が子どもの異変に気付き、精神科への診療を判断するまでがおおよそ4か月から半年ほどであるという医師の見解もあることを考えると、厚生労働省が今後、精神疾患としての「ゲーム依存」を判断する場合にはもっと短い依存期間でも疾病と判断する可能性は出てくるかもしれません。
ゲーム依存は病気WHO、国際疾病の新基準(日本経済新聞 19/5/25)
ゲーム障害治療指針厚労省策定へ骨太の方針明記(毎日新聞 19/9//6/18)
私の人生も振り返れば、私自身もゲーム機やMMORPGにハマり日常生活が自堕落であった時代はありましたが、明らかにゲーム依存であったという自覚はあります。また、社会人になってからゲーム制作やコンテンツ投資を行う現場において、いかにユーザーに世界観やゲームシステム、キャラクター育成などに「ハマってもらえる仕組みがあるか」を考えてきたこともありました。ソーシャルゲームでは、さらにハマっているユーザーからいかに効率よく大きな金額を課金してもらうのか、各社血道を上げていたことを踏まえると、社会生活や学業に大きな支障をきたさない程度の金額や時間を使ってもらえるよう、社会がどうコントロールするべきかの議論こそが、いま必要になってきているのではないかと思います。
ゲーム業界からすれば、プレイヤーが好きでゲームにハマっているのだから何が悪いと言いたいところだと思いますが、ゲーム依存症は別の精神疾患のトリガーにもなる危険性が指摘され始めると、業界の自主的な取り組みがない限りそう遠くない将来「総量規制」が求められてしまう危険性もあります。CSRや実態調査に熱心でない会社も少なくなく、東京ゲームショウでも子どもの来場者に対して平気でカフェイン入りドリンクを配布してしまっているモラルのなさも散見される状態ですので、もう少し業界がきちんとした大人になっていってもらいたいと願っています。