無縫地帯

「消費税増税対策」月額サービスで毎日一本なにか飲める駅自販機が登場

JR東日本が、月額料金を払えば毎日一本自販機から何か飲めるサービスを開始するということで、消費増税を見越したコスパ感が狙いどころのようです。

「subscription(サブスクリプション)」という単語、昔は海外雑誌の通販にでも手を出している御仁ぐらいにしか馴染みのないもので、その頃は日本語にすると「(年間)定期購読」くらいに訳すのが相応しい意味合いでありました。

ちなみに、書籍のサブスクリプションサービスという業態は、17世紀の英国で既に盛んだったそうでありまして、非常に歴史あるビジネスモデルでもあります。日本でも、昔は会員制の定額貸本屋がありましたし、決して目新しい仕組みではありません。

The Beginnings of Subscription Publication in the Seventeenth Century(The University of Chicago Press Journals)

しかし、近年はICT方面でソフトやサービスの提供形態としてサブスクリプション方式のビジネスモデルが確立してきたことから、日本でもそのままカタカナで「サブスクリプション(略してサブスク)」と表記して広く使われるようになっています。

とくに誰にでも身近なものとして動画や音楽の配信サービスの契約形態としてこのサブスクリプションという言葉が普及したせいもあって、なぜかサブスクリプションが「定額での見放題・聴き放題」というニュアンスで理解するユーザーが増えてしまっているようです。しかし、本来サブスクリプションという言葉には「使い放題」という意味合いは含まれておらず、そのせいで国内ではちょっとした解釈の齟齬が生まれてしまっている嫌いもあります。以下の論考記事などが参考になるでしょう。

「サブスク」という日本語の弊害(ITmedia 19/6/14)

ただ、もはや世間的にはサブスクリプションという日本語にはそういった微妙な“お得感”みたいなものが染みついてしまいそれをぬぐい去るのがむつかしいというか、逆にそういう世間での“勘違い”を上手くマーケティングに利用しているのではと詮索してしまうような事案もちらほら見かけるようになってきました。

JR東系、駅自販機でサブスクリプション月2480円(日本経済新聞 19/8/30)

月額2480円で、毎日配信される「QRコード」を自販機にかざすと、1日に1回ドリンクを受け取れる。
(中略)
料金プランは2種類あり、1カ月間のお試しプランでは月980円で同社ブランドの商品のみを受け取れる。お試しプランに登録して1カ月たつと、自動で月額2480円のプランに移行。イノベーション自販機で扱う全商品が受け取り可能になる。30日間150円の商品を毎日受け取ると、4500円相当になる。日本経済新聞
この飲料自販機サブスクリプションサービスですが、1日に1回しか利用できないという条件があるのでいわゆる使い放題には該当しません。で、たとえば一般的な週休二日制の勤務形態のサラリーマンがこのサービスを利用する場合、1カ月に通勤で電車を利用するのは1カ月に20日前後となりますから、このサービスを利用する場合単純計算して20日150円の飲料を受け取るとすれば3000円相当となります。月額2480円のプランであれば520円分が節約できるという計算になります。

駅の自販機まで足を向け、そこで在庫がある飲料しか選べないという不自由さなども考慮すると、どこまでこのサービスがユーザーにとってメリットがあるのかはなかなか微妙な線ではないかと感じなくもありません。ただ、毎日通勤で決まった駅を通り、自販機でのどを潤す習慣のある人も多いでしょうし、嗜好品には個人差があるのでこれで大きなメリットがあると感じる人もいることでしょう。

このあたり、事業提供者に取材してその思惑をざっくりと聞き出している記事があったのでご紹介しておきます。

話題のサブスク自販機1日1本で2480円は割高?強気なプランのワケを担当者に聞く(ITmedia 19/8/30)

「1カ月だけ利用してそのままやめてしまう人も多いのではないか」という質問を担当者にぶつけたところ、「一度試してもらえれば、良さを実感してもらえる商品だと自負している」という返答を得た。ITmedia
なるほど、そうですか。
確かに私も毎日ペットボトルのコーヒーを飲むことを考えると、試して良さを実感したいという気もしなくもありません。

事業展開する側としては「消費増税によってお客さまの価格に対する感度が高くなる」ことを見越してこうしたサービスを提案するとのことですが、消費者側にしてみれば消費税があがって厳しくなる懐具合を勘案してもっとシビアに無駄なサブスクリプション契約はどんどん止めるというところまでいってしまわないかと他人事なら心配してしまうところでもあります。しかし、消費税増税があっても対策は万全だし現状景気は緩やかな回復が続いているので問題ないと首相も太鼓判を捺しているのできっと大丈夫なのでしょう…。

消費増税へ万全準備=安倍首相(時事ドットコム 19/9/2)

こういうニュースを見ますと、実際にはこれらのサブスクを謳うビジネスは概ね割安感、コスパを前面に出す傾向が強く、事実、割引販売と前払い制の一形態でもあります。そして、その主眼が消費増税によるコスト感覚が突きどころであるとするならば、割安感を目指してこれらのサービスを契約する個人は消費総額の抑制に向かうわけですから、やっぱり消費増税は狙いはどうであれ景気を冷やすよなあという実感しか抱きません。

たかがジュースやコーヒーで、と思われるかもしれませんが、これによってコンビニエンスストアの来店頻度が下がれば、通勤客相手に来店者数を稼ぎ、軽食や消耗品の「ついで買い」を誘発して販売額を維持してきたコンビニエンスストア全体の売上も微妙なことになります。そういう玉突きも含めて、サブスクビジネスがどういう影響を及ぼすのかはよく観察しておく必要がありそうです。