無縫地帯

「TikTok」急成長も、他SNSサービス同様に質の低いユーザー、コンテンツを排除できるのか

中国ByteDance社が運営する「TikTok」が急成長を遂げていますが、利用者に多い未成年やリテラシーの低いユーザーにどう対応するのか悩ましい状況に差し掛かりつつあります。

人々がSNSを利用する割合が年々高まりを見せているのは誰もが感じていることでしょう。かなりざっくりした数字としては、日本国内におけるネットユーザー全体でSNSを利用している割合は7割の大台を軽く越え、来年には8割へ限りなく近づくことになるだろうという見立てもあります。

もちろん、SNSに個人名を晒して、なんらか気持ちを書き込みながらネットライフを送っているわけではなく、あくまで情報収集のツールとして使っている割合が圧倒的に多いわけなんですが、裏を返せば誰が何に関心を持ち、どういう検索をしているのかはSNSのサービスを提供しているプラットフォーム事業者であれば本人がそれを書かずとも分かってしまうというあたりに問題はあります。

2018年度 SNS利用動向に関する調査(ICT総研 18/12/18)

で、こちらの資料で興味深いのは「SNS利用時間の変化(1年前のと比較)」という項目で「増えた」という数字が突出しているサービスがTikTokである点です。「増えた」と「どちらかといえば増えた」を足すと7割を超える人が増えたと回答しており、ここ1年で認知度が大いに高まっていることを示していると考えられます。

TikTokといえば、海外ではとくに低年齢層ユーザーのプライバシー問題で社会的に問題視されて報道されるなどネガティブな意味でも認知度の高いサービスという印象がありますが、一方国内ではそうした話題で取り上げられることはまだ少ないかもしれません。

TikTokに罰金約6億3000万円。13歳未満の子供のプライバシー侵害、米連邦取引委員会と和解(Engadget日本版 19/2/28)

TikTok、子どものデータ取り扱いで英当局が調査中(CNET Japan 19/7/4)

昨年は私も記事にしています。

動画音楽サービス「TikTok」の興隆と懸念は、過去の流行ネットサービスの興亡を辿るのか(ヤフーニュース個人 山本一郎 18/11/15)

国内に目を向けると、たとえばセキュリティ対策企業のシマンテックが提供するオウンドメディアの『ノートンブログ]』では『[https://japan.norton.com/tiktok-risk-10437 TikTokは危険? そこに潜む8つのリスクとその対処法』という記事を8月28日に公開し、TikTokを利用する際に注意すべきリスクを解説していたようですが、なぜか8月29日の時点では「投稿が見つかりません。」となっており、おそらくは削除されているようです。なぜ削除されてしまったのかその理由は謎ですが、この記事を書いている時点ではGoogleにキャッシュが残っておりましたので参考までにそちらのリンクを置いておきます。いつまでキャッシュを見られるかはよく分かりませんが。

TikTokは危険? そこに潜む8つのリスクとその対処法(Googleキャッシュ:ノートンブログ 19/8/28)

ティックトックは動画投稿型のSNSであることから、動画という非常に多くの個人情報を含んだメディアを誰でも簡単にネット上に投稿することができます。そのため、Twitterやインスタグラムなどといった他のSNSを扱う時と同様か、それ以上にリスク管理を徹底する必要があります。Googleキャッシュ:ノートンブログ
記事の目次を見ると「1.ティックトックの基本情報」「2.ティックトック利用にあたって知っておきたいリスク8つ」「3.安心してティックトックを使うために」「4.ティックトックを含むSNSのリスクを管理する方法」「5.まとめ」とあり、今のところ国内でこれほど丁寧にTikTokについて何が問題であるかを指摘しどう使えばいいのかを分かりやすく解説している情報は他にあまりないと思われますので、もし削除されてしまったのだとしたらちょっともったいないなと感じます。

ただ、こうした安全に使う方法が分かっているにもかかわらず、なかなかそれが実行されないということについてオーストラリアのニュースが報じていました。

TikTok warning for parents as predators target popular social media platform(7NEWS.com.au 19/8/27)

Changing a profile to private may seem like the easy fix, regardless of the social media platform.

But London says it isn't that simple.7NEWS.com.au
アカウントを非公開設定にして利用すればかなり安全に利用できることは分かっているのですが、若年層TikTokユーザーは投稿動画にいいねをもらったりフォロワーを増やしたいといった承認欲求を満たすためどうしてもアカウントを非公開にすることができない傾向にあるということが指摘されています。そうした年頃の子供をもつ親としてはなかなか悩ましいサービスですね。

一方でTikTokの運営企業であるByteDance社はこのところの成長著しい状況をさらにブーストすべく世界各国で精力的にPR活動を行っているようで、記事広告的な匂いを感じさせるコンテンツもウェブ上でよく見かけるようになりました。

TikTokの急成長、一年で世界を夢中にさせた理由とは?(Rolling Stone Japan 19/8/18)

「TikTok」は若者向けのイメージから脱却できるか?(日経xTECH 19/7/29)

TikTok(ティックトック)マーケティングツールとしても注目されるSNSの新形態(GK POST 19/7/29)

TikTok広告パートナー企業の美人社員 高橋美乃里氏と「TikTokのこれから」について考察してみた。(ferret 19/8/15)

若者文化のネット利用を報じるにあたり、TikTokが流行しているのだから好意的に取り上げられるのは分からないでもないのですが、ビジネスシーンにTikTokを受け入れてもらいたいがためにパブリシティを打つにしてももう少しやり方があるのではないかとも思います。

TikTokのコンテンツにおいて重要な要素の一つである音楽についてはすでにJASRACや主要レコード会社など各種権利者とも提携が済んでおり、このあたりはCDなどの売上が落ちて疲弊気味である音楽業界にとっては新たな金のなる木であるという認識が定着しつつあるようですが、TikTokがプチ芸能界みたいな感じで若年層ユーザーを食い物にするようなことが起きないように注意して見守りたいところではあります。

やはり、TikTokとしては本来注意喚起として未成年ユーザーに対して自分の名前での登録を控える呼びかけをしたり、Instagramで問題になっているような「PR」「広告」表記なしにお金をもらい商品やサービスを紹介するステルスマーケティングをしないように求めるといった啓蒙活動を進めてほしいと思うのですが、どうもそれ以上に企業の成長を優先しているのか、リテラシーの低いユーザーをかき集めてトラブルを起こしそうな雰囲気です。

成長することは大事ですが、 前述のように13歳以下の子どもの情報を収集している(TikTok、13歳未満の子どもの個人情報を違法に収集。アメリカで6億円超の罰金)というアメリカでの問題とは別に、日本の場合は未成年者略取や猥褻動画の掲示があった場合はSNS機能やコメントなどの利用を当局によって中止を求められることもあります。実際、未成年の利用者とリテラシーの低い閲覧者との組み合わせは非常に発火点が多いので、そろそろ真面目に社会的責任(CSR)を考えるべき時期にByteDance社も差し掛かっているのではないかと思います。