無縫地帯

ファーウェイ追放に見る、米中間の軋轢の火の粉はどこまで拡がるか

アメリカと中国の間の対立が先鋭化する中、世界的な通信企業に成長した中国ファーウェイに対しGoogleがAndoroidからの追放を行うという報道が飛び出し、騒ぎが広がっています。

関税問題と安全保障のあれやこれやで米中間が焦臭いことになってしばらく経ちますが、いよいよ中国にとって虎の子の一つであるファーウェイ(Huawei/華為)のスマホへのAndroid供給が停止される可能性があるということで一気に話題がヒートアップした感があります。事の発端はロイターによる“関係筋”情報でしたが、これに世界中の報道メディアが飛びついたわけです。

米グーグル、ファーウェイとの一部ビジネス停止=関係筋(ロイター 19/5/20)

ここまで世界中で大きな話題となった大きな理由は、iPhoneが人気を誇る日本市場はともかくとして、世界市場の中でファーウェイ製Androidスマホの存在感は断トツに近いものがあるからです。事実上、トップシェアのファーウェイが狙い撃ちされることは、世界の通信業界において大変なインパクトがあると通信業界の専門家は考えているようです。

Huawei、2019年第1四半期の世界シェアが過去最高の17%に販売は前年比で約50%増(ITmedia 19/5/13)

出荷ベースではAppleに次ぐ世界第2位のスマートフォンメーカーとなった。同社ではHuaweiが若い消費者へのリーチで中国市場でのシェア拡大を実現し、今やSamsungと対等であると分析している。ITmedia
このところの海外IT関連報道などを見ていると、もはやファーウェイがスマホ市場で世界一になるのもそう遠い日ではないだろうといった勢いを感じるものがありました。少なくとも、今回の「ファーウェイへのAndroidライセンス供給が停止するかもしれない」というニュースが飛び込んでくるまでは。

その後の報道などを見ているかぎり、即日でファーウェイがAndroidスマホの製造販売から撤退することはないだろうとする一方で、これから数カ月先に一体どうなっているかはまったく予測不能な状況でもあります。

グーグル、ファーウェイとの取引を期間限定で継続へ--米政府の猶予措置を受け(CNET Japan 19/5/22)

米商務省は20日、ファーウェイがしばらく既存のネットワークを維持し、自社のスマートフォンとタブレットに対するアップデートを提供できるようにするための一般許可証を発行すると述べた。この猶予は米国企業に対し、より長期にわたる解決策を検討し、消費者をセキュリティリスクから保護するための時間を与えるためのもの。許可証は8月19日まで有効だ。
(中略)
許可証の失効後にGoogleがどうするのかは不明だ。CNET Japan
米国ではファーウェイ以外についても中国企業のIT製品について安全保障の観点から各種規制を検討している兆候があり、今後どのような事態が起きるのかは謎です。

米、中国製ドローン使用に警告「情報漏洩の恐れ」(日本経済新聞 19/5/21)

米国土安全保障省が中国製ドローン(小型無人機)の使用について、情報漏洩のおそれがあるとして警告するメモをまとめたことが分かった。名指しをしていないが、ドローン世界最大手の中国DJIが念頭にある。
(中略)
DJIは北米のドローン市場でシェアが8割近いといわれる。日本経済新聞
DJIのドローンビジネスはファーウェイのスマホ同様に中国にとって虎の子の一つでありますが、中国には「民間」という概念が希薄なため、どうしても中国資本も中国企業も中国政府や中国共産党、人民解放軍などと一体と見られがちなところがあります。そして、これが米国で売れなくなるとなれば、DJIにとっても相当に大きなダメージとなることは間違いないでしょう。また、米国が安全保障を理由にDJIのドローンを排除するということになれば、同盟国などに対しても同様な対応を求める可能性は充分にありそうです。すでにファーウェイの5G関連製品について米国はそうした対応を各国に求め波紋を呼んだのも記憶に新しいところです。

「ファーウェイの5G」という踏み絵(ニューズウィーク日本版 19/5/14)

アメリカは友好国や同盟国に対し、中国の通信大手である華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)が開発した5G無線通信技術を使わないよう呼びかけているが、多くの国にとってファーウェイとのビジネスを完全に回避することは難しいだろう。
(中略)
ファーウェイ製品を採用してアメリカの怒りを買うリスクと、ファーウェイ製品を使わないで自国の5Gを犠牲にするリスクを天秤にかけることになる。
(中略)
5G用の機器で中国企業が主力になっており、そのうちいくつかはアメリカ企業が作ってさえいないという現実も考えると、スパイのリスクよりも安価なファーウェイ製品を採用するしかないと考える同盟国もあるだろう
ニューズウィーク日本版
現在の米中間のいわゆる“貿易戦争”は、両国と関係する他国にとってみれば単なるイデオロギーや安全保障という側面だけで解決可能な問題ではなくなりつつあり、とくに経済的に疲弊しつある各国の台所事情を考慮すれば第二次世界対戦以降これまで米国中心で進められてきた国際政治的な流れが一気に変わる契機になる可能性もあるわけでして、だからこそ米国としてもこれまで以上に頑なな姿勢を見せる一方で、中国も大きなチャンスの賭けに出たということなのかもしれません。

一方で、ファーウェイも貿易戦争の重要なポジションに祀り上げられた割に、おいそれと引き下がることは考えていないようにも見えます。

ファーウェイ排除で米国は貿易戦争には勝ったがネットワーク戦争に負ける(TechCrunch 19/5/21)

中国には、安価なテクノロジーと、国有と民間の投資会社による経済支援策の総合カタログがあり、受け入れ国を援助すると同時に、新興市場での多方面にわたる技術的リーダーとしての中国の地位を固めようとしている。TechCrunch
我が国も産業的・経済的に一昔前のように強気でやっていられる時代ではなくなり、米中両国といかにうまく付き合ってやり繰りしていくかが大きな課題となっているわけですが、どちらに対して良い顔をしても浮かばれないなかなか厳しい状況に追い込まれつつあるような息苦しいものを感じます。

ファーウェイめぐる「米中デジタル冷戦」 結局“とばっちり”を食らうのは日本企業だ(BUSINESS INSIDER JAPAN 19/5/21)

ファーウェイだけでなく、キャリアや部品メーカー、さらにはユーザーなど、日本の多くの関係者が、トランプ政権と中国政府の交渉の行方を固唾を呑んで見守ることになりそうだ。BUSINESS INSIDER JAPAN
まあ、極論を言ってしまえばAndroidスマホがどうなるかだけで事が済むようなら大した心配はしないわけですが、それで済むはずはないんですよね…。

そして、巷ではファーウェイ危険論が出回っているものの、あまり明確な形で「ファーウェイが通信業界においてこのような驚異的な問題を起こした」という証拠(エビデンス)の類はきちんと提示されていません。イギリスなどアメリカの主要な同盟国がファーウェイ関連のリスクはコントロール可能ではないかという立場を取るのも、安易な米中対立から単純な中国排除の流れにはなり得ない側面を示します。

しかしながら、第二次世界大戦前のイギリス・チェンバレン政権がヒトラー総統率いるナチスドイツの台頭について楽観視する立場から問題解決が後手に回ったことをなぞらえる向きも少なくありません。ファーウェイが通信業界で持つ高い能力相応の大きなシェアを握ることで情報が中国政府や中国共産党に筒抜けになるという技術的な問題そのものよりも、現在カナダ当局で拘束されているファーウェイ副会長で創業者の娘でもある孟晩舟さんのアメリカへの引き渡しの是非が問われています。

ファーウェイ副会長、米引き渡し審理差し止め請求へ(朝日新聞デジタル 19/5/9)

これはアメリカと中国の貿易戦争という枠組みだけでは語れない部分が大きく、アメリカが進めているイラン制裁への抜け道として、ファーウェイが中国政府の意を受けてイラン救済のスキームに組み込まれたことに対する是非であるとも言えます。これはもうトランプ政権がどうなのかとは無関係にアメリカの中東戦略に中国が挑戦するコマとしてファーウェイが活用されたことにほかならず、トランプ大統領を支えるホワイトハウスよりもインテリジェンスを担うアメリカの伝統的な階層が中国の台頭を問題視しているというメッセージなのでしょう。

さすがに単なる貿易摩擦であるとは説明できなくなってきている事案にまでなってきましたので、注視せざるを得ないのではないでしょうか。

なお、新しい中華OSにはTizenという素晴らしいプロダクトがありまして、再び日の目を見て復活する日が来るのかもしれません。