無縫地帯

韓国経済の正念場と、日韓外交「不順」が織り成す諸問題

低迷の度合いが色濃くなっている韓国経済で民情が疲弊しているのか、徴用工問題も似たような展開になってきて日本としても悩ましいところに差し掛かっています。

現在、失速が問題になっている韓国経済の主たるエンジンは外需・輸出産業で、半導体や自動車などのサプライチェーンで競争力を確保する一方、コンテンツ産業などでも韓国自体は独自の存在感を示し続けています。

本来、韓国にとって隣国であるにもかかわらず外交面でさしたる重要度を持たない日本との関係を観るならば、まず第一に韓国の生命線である産業、貿易面でのかかわりの深さ、第二に北朝鮮情勢も含めた東アジアの安全保障で日本とどういう関係を構築するかが問われていると言えましょう。

先日、産経新聞に徴用工問題や北朝鮮問題に寄せて「未来志向」であるべき日韓関係の視界不良について記事を執筆したのですが、執筆時点である数日前よりもさらによろしくない問題が日韓関係において頻発してしまったので補遺をしたいと思います。

【新聞に喝!】韓国との「未来志向」は本当に可能か(産経新聞 19/5/12)

そもそもの発端は、徴用工問題にあたり、その賠償を巡って日本企業の資産の差し押さえや資産売却を進める件に関して、韓国政府からは「韓国司法に韓国政府は介入できない」と公表したことにあります。

「政府は介入できない」日本企業の資産売却申請に韓国外相(産経新聞 19/5/2)

これに対して、我が国の河野太郎外相がボールを投げ返すのは当然で、wikipediaにもある通り常識的な日本の立場で言えば「日本の徴用工への補償について、韓国政府は1965年の日韓請求権協定で『解決済み』としてきたが、大法院は日韓請求権協定で個人の請求権は消滅していないとしたため、日本政府は日韓関係の『法的基盤を根本から覆すもの』だとして強く反発し」ているわけです。一方、個人の請求権が消滅していないという韓国大法院の理屈もまた正しいものであるため、徴用工問題はいかなる補償が行われるべきかでどうしても議論が先鋭化してしまう側面があります。

徴用工「韓国が責任を持って処理を」…河野外相 (読売新聞オンライン 19/5/12)

つまりは、政府間では解決済みだが国内問題として個人の請求権が残っているという事実がある以上、韓国政府は日本との外交上の合意を守るために徴用工の被害者のために対応する新法を施行し、個人に対する補償の請求を取り下げられるよう交渉する義務を持ちます。韓国政府が「大法院の判断に韓国政府が介入するのはむつかしい」のは当然で、韓国政府が被害の救済を求める徴用工の請求を取り下げされるための動きをきちんと取らないので韓国で事業を行い資産を保有している日本企業がなぜか差し押さえの対象にされてしまうことになります。

これらの問題は対日本のみならず様々な国と韓国の間で起きている問題と相似形であって、とりわけ日本に対してはいまなお騒ぎになっている慰安婦問題や、産業スパイも同様になっている造船技術盗用問題もほぼ似た経路を辿ることになります。韓国政府が対外的に締結した条約や合意に対して、韓国経済や国内事情の苛烈さから韓国政府が問題の当事者能力を失い、怒った被害者が救済の申し立てを韓国司法に持ち込んでしまい、常識的な判断をした韓国司法の決定により海外の政府や民間が迷惑する、という流れです。

北朝鮮問題もまた、韓国政府の対応が上滑りした結果、起こさなくてもよい問題を起こしたり、異様なまでの北朝鮮への肩入れをするのも、突き詰めれば行き詰まってしまっている国内経済と民情劣化に対する縫合策に過ぎません。それに付き合わされる我が国も滅入るところですが、ただし前回のアジア通貨危機と同様に「世界貿易の弱い部分がトリガーとなり経済危機が発生する」という事態は避けなければなりません。

文在寅政権の「大いなるカン違い」を象徴する1枚の写真(ヤフーニュース 高英起 19/5/4)

韓国を好むと好まざるとにかかわらず、低迷から危機へと落ち込む恐れの強く出てきた韓国経済も含めて日本が韓国と「未来志向」を考える場合に、日本側にはほとんどオプションが残されていないことが分かります。実際、韓国は日本企業にとってお得意様のひとつであり、単純に再び韓国経済が破綻して困るのは韓国を取引先としサプライチェーンに組み込んでいる日本企業ばかりとなる恐れもあります。そんな国からは、安全保障の面からも外交・経済両方のことを考えて撤退しデカップリング(切り離し)しましょうと言いたい人も多いかもしれません。

しかしながら、韓国が本当に混乱し、日本が韓国から手を引き、またアメリカも米韓同盟の空洞化を懸念してアジアの安全保障の最前線を38度線から日本まで後退させる判断をしてしまうと、北朝鮮を含む朝鮮半島情勢は事実上中国のコントロール下に置かれることになり、日本はアメリカ・トランプ政権をバックに中国と間近で対立することを余儀なくされます。

拉致問題も解決していない状態の北朝鮮と日本が人道援助以上の前進を果たす可能性が低い現状では、曲がりなりにも民主主義国側陣営である韓国を相応に大事にしなければなりません。実のところ、核武装を持たない日本にとって最前線が38度線にあることのメリットは計り知れないのです。それでもなお、日韓関係の「未来志向」をどうするべきか考えるときに、日本側が現実を見据えて韓国側と合意すると安易に妥協したように見えてしまうのが最大の問題なのではないか、と思うわけであります。

おそらくは、日本にとってのベストシナリオは、北朝鮮が封じ込められたまま韓国と38度線を挟んでいつまでもグダグダと決着しない状態で拉致被害者だけ返ってくることだろうと思います。火薬庫は火薬庫として火を噴かない程度にみんな「危ない危ない」と言っている間が一番良い「未来志向」です。経済でも安全保障でもとにかく韓国に事件が起きることなく、可能な限りの長い期間ずっとブラブラと振り子のように朝鮮半島情勢が現状維持で行ってほしい、と切に願います。