無縫地帯

子どもが観るYoutubeなどでの不適切ウェブ動画、どうにかならないものだろうか

子どもに人気のYoutuberによる面白動画やゲーム実況もコンテンツとして際どいケースがあり、保護者の間で問題視されるケースも増えてきました。家庭ごとにどう大作するべきなのでしょうか。

子どもから大人まで楽しめるウェブ動画サイトでは、子どもが観たい動画と、親が許容できる内容とには往々にして齟齬が起きます。

とりわけ、Youtuberは登録者数と再生回数でその存在感を競うビジネスであり、すでにタレント化しているYoutuberも動画特化もある種の過激さや面白さを担保してユーザーを増やそうと必死になっている以上、かつてのテレビの深夜番組以上に雑駁な内容になるのも競争の果てという点では仕方のない部分と言えます。

先日、子どもを抱える保護者のコミュニティで、子どもたちから「ぼったくりバーって何?」「ぼったくりされてみたい」という問いかけが子どもからあったと話題になりました。というのも、一時期問題になった人気Youtuber・ヒカルさんが、そのアカウントで「お菓子とコーラだけで9万円請求?ぼったくりバーに潜入調査したら闇深すぎたから会話全て公開します」という動画を公開し、これをたくさんの小学生が観たことがきっかけと見られます。

ヒカルさんの名誉のために申し上げると、ある程度、大人であれば「ぼったくりバーとはどういうものか」とか、知人の被害体験談を耳にして、そういう存在があること、引っかからないように危なさそうな店に近づかないことは共通認識としてあります。だからこそ、ヒカルさんが身体を張ってぼったくりバーに赴き、無事にぼったくられる一部始終を動画にすること自体は、あくまで深夜番組的な大人の夜更かしの観点からは面白いコンテンツであることは間違いありません。単純に面白い、だからこそ、公開一週間で600万再生という数字を叩き出せるのだということには相違ありません。

しかしながら、ヒカルさんのチャンネル登録数は314万人、広告代理店が広告主に提供する資料などを参考にすると、この約19%から25%程度は12歳以下の小学生による登録と見られます。親のGoogleアカウントでYoutube登録している子どもも少なくないことを考えると、閲覧者の3人に1人弱は12歳以下、半数弱は18歳以下の「青少年」にあたる可能性が高くなります。アカウント登録した人が全員この再生カウントを回しているわけではないにせよ、Youtubeのリーチの性質を考えれば無視できない割合が青少年であることは否定できません。

そして、これらの一般的なYoutuberによる動画配信は、ペアレンタルコントロールによる動画閲覧制限(ゾーニング)の外にあります。つまり、親からすれば、閲覧履歴を後からチェックしない限り、子どもたちが何を観たのかはあまり良く分からないことになります。冒頭の保護者のコミュニティで問題になった「ぼったくりバー」問題とは、図らずもいつぞやテレビ業界が直面した深夜番組のエロ・過激表現に近い問題を引き起こし始めているということでもあります。

困ったことに、有名Youtuberは、一般的な配信主やバーチャルユーチューバー(Vtuber)などは同様に、利用者のインフルエンシー(影響を受ける人)は、いずれもこのような青少年、とりわけ中学三年生以下の子どもと低所得者層に固まっており、つまりはかつてのテレビと同様に「安価な娯楽」として受け止められている側面があります。問題は、テレビの場合はつまらない曜日や番組の時間帯は視聴をやめる選択肢があったのに対し、Youtubeなどのウェブ動画の場合は延々と面白いコンテンツを探し、自分で閲覧することが可能になってしまいます。ウェブ動画が往々にして「時間泥棒」になりやすいのは、いったんコンテンツを閲覧し始めると品質の低いものでも次々とズルズルと観続けてしまうサービスの性質にあります。

また、ゲーム実況を含むある種の生配信は、視聴者との親近感を確保するためにスラングを含む口語での喋りが中心になることもあって、保護者の悩みはこうした雑駁な配信にドハマリした子どもが配信者の程度の低い口調を覚えて真似してしまい、学校で話題になるほどに荒れた言葉遣いが当たり前になるという影響を受けるとされます。ペアレンタルコントロールの解説記事も引用しておきますが、私も3児の父としてペアレンタルコントロールを使っていても性的だったり本当に有害なコンテンツは排除されるものの、閾値は緩く、やっぱり品のないゲーム実況などを好んでみるケースが散見されたため、拙宅ではYoutubeは親が目視で制限することにしています。

「スマホde子守」の是非(ヤフーニュース個人 山本一郎 13/11/17)
子どもがYouTubeを観るなら「機能制限」(ペアレンタルコントロール)を活用しましょう:iPhone Tips (Engadget日本版 中川美紗 18/8/30)

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一方的に「親として子育てに不都合だからこれらの動画はYoutubeから排除するべき」という話はあまり生産的ではないので、せめてYoutuberがインフルエンシーを発揮できる対象をコントロールできるようにならないものか、と思います。いまや、学校での話題はテレビからすっかりウェブでの出来事に移り、学校でHIKAKINさんが猫動画をあげると「うちの猫はどうしてHIKAKINさんのところほど美しくないのか」と切ないことを言うようになりますが、それもまた、メディアと子育て環境との間でのストレスの問題であり、家庭の中で子どもたちと向かい合って話す必要はあると思うのです。勉強が手につかなくなるほど、あるいは、言葉遣いが汚くなるほどに動画にのめり込まない、と親の価値観で子どもに押し付けたところで、目の前に面白さでしのぎを削っている大人たちのガチの戦いの成果物である面白動画がある限り、子どもはやはりそちらに吸引されていきます。

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動画もゲームも子どもの遊びや社会の中で普遍的に存在するものであるだけに、任天堂がゲーム業界で実現しているようなうまくコントロールできる仕組みを模索できないものだろうか、のべつ幕なしに延々と動画を観続ける依存状態の子どもたちをうまく作らないような方法はどこかにできないだろうか、と思案するところであります。

保護者の意見として大勢なのは「子どもにスマホを与えっぱなしにしない」とか「代わりになるものを与える」などの解決策が話し合われているものの、私が子どものころに「テレビで育児するな」や「教育を投げっぱなしの家庭の子どもと付き合うな」という、親による排除の論理になってしまうと、今度は学校での話題を巡って子どもが話題に入れず孤立したり、いじめに遭遇したりすることがあります。

ああ、もうYoutubeもここまで浸透すればさすがに教育問題、社会問題として包括的な対処が必要な時期に来たのかと思わずにはいられませんが、GAFA対策が叫ばれる昨今、Youtubeも結局はGoogleにお願いしてどうにかしてもらうしかなくなるんでしょうか。日本政府で対策が協議された結果、政府がGoogleに頼んでどうにかしてもらうという時代が来てしまっているという。Googleに限った話ではなく、とばっちりなのかもしれませんが、まさかこんな話でGoogleの社会的責任が、CSRが、というわけにもいかないし、放送法で縛られていた民放テレビ局の深夜番組ほどスパッとした対策など取れないのかもしれません。

日本人が子どもの教育で困っているのに、大事なところを外国企業の、海外にあるサーバーで運営されているサービスに支配されているがゆえに日本人の総意では対策が取れないのが、本当に望ましい社会なのか、という議論になるのは当然としても。