無縫地帯

2ちゃんねる「元」管理人、西村博之さんが書類送検された件で

2ちゃんねる元管理人、西村博之さんが、麻薬特例法違反の幇助の疑いで書類送検されました。2ちゃんねるや、そサーバー管理会社にも昨年11月以降数回に渡る強制捜査が入るなど、異例の長期戦となった背景とは。

やまもといちろうです。

今日になって、2ちゃんねるの「元管理人」なのか「開設者」なのか表現は多岐に渡りますが、要するに管理人の西村博之さんが書類送検された、というニュースが入ってまいりました。

2ちゃんねる創設者を書類送検麻薬特例法違反の疑い
http://www.asahi.com/national/update/1220/TKY201212200560.html
2ちゃんねる開設者、密売書き込み放置で送検
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121220-OYT1T00816.htm

もともと、本件事件とは2ちゃんねるの違法書き込みが一向に削除されず、むしろ「迷ったら消さない」という西村さんの定めた方針や2ちゃんねる独自のローカルルールのもとで誹謗中傷や営業妨害などの書き込みも温存されていたことが問題の発端です。被害者(とは限らないけど)からの削除依頼も満足に応じてもらえない状態でしたが、今回は違法薬物の取引に関する情報が2ちゃんねるに掲載され、警察が一部削除を求めたにもかかわらずこれもまた放置、という嫌疑で一年近くあーだこーだやった結果、今回のような事態になってしまいました。

ネット系メディアでは、一連の動きを「2ちゃんねる潰し」と銘打って気持ち良く煽っておられましたが、当の警察からしますともっと腰がひけていて「何だか良く分からないサイト」という位置づけのままずっとこんにちまで来ておりました。とはいえ、ガサ入れしておきながら書類送検もしないというのもあり得ない話で、今回の処理については予定調和というか、こういう感じでの落としどころにならざるを得ないだろうという点で、非常に普通のことなのかなあと思うわけです。

警視庁が本気で「2ちゃんねる撲滅作戦」?
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1112/07/news022.html

ネットでは、書類送検イコール西村博之さん逮捕だと解釈する早漏も多くおられるようですが、彼が今後どうなるかは検察側の判断に委ねられます。そして、恐らくは不起訴となる事案だろうと考えられるので、別にだからこそ明日身柄を押さえられるとか、年内にも2ちゃんねるが潰されるとか、公権力が言論封殺に来たとか、まあお前らもう少し落ち着けと思ってしまうお話が多々流布されとるわけですね。

もっとも、今回の2ちゃんねる関連捜査の一連の話の中で、西村博之さんに対するあまりにも非協力的な態度に不快感を示している警察の人もいるらしく、また西村さん側シンパがあれこれ警察捜査の不行き届きを指摘するサイトも立ち上げている関係で、いまなおしこりが残っているとも言えます。

文字通り2ちゃんねる系メディアとも言えるガジェット通信では、かなり頑張って警察に対して反論したり、捜査の問題点などなど指摘しており、これはこれで傾聴に値するものも数多く含まれているように思います。まあ、落としどころが最初からあって捜査するのはそれこそ恣意捜査であり権力の濫用だというのが普通なので、落としどころなしで迷走というのは別にお前らにとって有利な話でもねえだろと思うわけですが。

「落としどころなし」迷走する2ちゃんねる捜査――現状まとめ
http://getnews.jp/archives/216691
【ガジェ通日誌】捜査情報を事前に漏らして2ちゃんねる捜査を演出?あの報道の謎と捜査の予兆
http://getnews.jp/archives/276374

で、2ちゃんねる本体の問題については、警察自体がメディアや関係者に認めている通り、今後の違法情報の掲載をある程度しっかりと削除できる体制が担保されそうだということで見逃し…になる予定だったのが、例によって別の冤罪逮捕問題で2ちゃんねる側がまともにログを提出しなかったのでまた札幌某社にガサ入れしたりとか、もう少し仲良くしろとしか言いようのない問題に発展しておるようです。あれはあれで、警察にとっては大変な不始末でしたからね。

そんなこんなで2ちゃんねる関連については運営の実態も相応に判明したし、肝心の西村博之さんも無事かどうかは知らないけど日本国籍を捨てる動きになったということで、今回の書類送検をもって薬物関連取引幇助事案については沙汰止みとなりそうです。たぶん、不起訴でしょう。そんなこと言いつつ起訴されたら笑うけど。西村さんのことだから、海外に出たまま帰って来なさそう。

一方で、それ以外の2ちゃんねる関連、例えば恒常的な誹謗中傷に晒された被害者など「必ずしも違法情報とは言えない風聞を2ちゃんねるに流されて被害を蒙ったと主張する人たち」の問題や、常にくすぶり続ける人権無視の酷い書き込みに対する社会的制裁などの事案は残るかもしれません。これはもう、当事者同士頑張って進めてください。

また、お話が中途半端に終わってしまったことで途方に暮れる捜査関係者が、西村博之さんと関係の深い経営者や社外取締役などとの関係について強い関心を持っており、同時に2ちゃんねるもその立ち上げに関与した動画配信サイトの運営会社やその親会社である上場企業等に対する情報を収集したがっているというお話も夏以降断続的に耳にするため、何か今後もあるかもしれないし、ないかもしれない、でも何かあったらまた面白いから是非頑張って立件へ向かうよう風を送っておこうという気持ちもないわけでもありません。

そして、掲示板での違法情報であれ動画サイト等での著作権無視のアップロード云々であれ、今後のネットとそれを取り巻く法整備というのは、進んでいるようで実はあまりうまくいってないんじゃないのと感じるところが大なのであります。もちろん、文化庁、総務省、警察庁をはじめ、さまざまな著作権の権威や弁護士の皆さまがご検討を重ねておられる状況かとは思いますが、このあたりの知的財産まわりやコミュニケーションのあり様にどこまで公権力が介入するのが是なのか(あるいは非とすべきなのか)はそろそろマジで考えなければならない局面になったと言えましょう。知財本部とやらも、良く分からないファンドにクールジャパンとか言ってカネをばら撒いている場合ではありません。いますぐ席を立ち全員拳を振り上げて着地を目指した建設的な議論をおっぱじめる時期が到来したのではないか、と思うのです。

2ちゃんねる問題の奥行きの深さは、私たちのコミュニケーションが他人の自由を毀損しない範囲とはどこまでなのかを決める試金石であり、さらには個人情報のあり方や、ネットでの傍聴といった、保証されるべき通信の秘密ってどこまでなんだっけというものを提起する実に大事なネットの問題だとも言えます。それは、私たち人間のクズが底辺で暮らすために必要とされる安価な娯楽としてのインターネットの形を決める作業に他なりません。児童ポルノ制限で先行した議論が、2ちゃんねるの摘発未遂を経てどういう着地となっていくのか、固唾を呑んで見守りたいと思います。