能登地震で太陽光「減損」は吉か凶か
    ​​      七尾湾と七尾市。上が能登島。左のクサビ状に突き出た場所がメガソーラー(七尾市ホームページより)​

シンワ・ワイズ短期連載 【下】

能登地震で太陽光「減損」は吉か凶か

絵画・陶器など伊勢コレクションの売買を一手に扱うもくろみが外れた上場企業、シンワ・ワイズ・ホールディングスが、またも監査法人に「限定付結論」を突きつけられた。取締役会の責任を問う追加質問状にも答えない。一見、それと無関係かにみえる石川県七尾の太陽光発電所だが、能登半島地震で5億円の損傷を被ったことと、イセ食品管財人との訴訟を和解に持ち込むための解決金が要るため、SWHが巻き込まれる恐れがでてきた。(3月18日まで全文無料、その後は一部有料)

3月13日公表の記事は日付に誤認がありました。

冒頭部分を以下に差し替えて訂正します。関係者にご迷惑をかけたことをお詫びします。

東証スタンダード上場のShinwa Wise Holdings(以下、SWH)は、2月27日に2025年5月期の中間連結決算と第二四半期の決算短信を公表した。同時に監査法人、UHY東京監査法人の「限定付結論」を掲載した。その理由は「売上高の計上期間帰属妥当性について、十分かつ適切な監査証拠を入手できなかった」とあった。1月20日に公表した第一四半期でも「限定付結論」がついていたから二回連続である。

 

高橋健治SWH社長(同社HPより)

前回報じたように、SWHは過去に不適切経理処理があったことを認め、足掛け6年にわたる決算を修正し、昨年12月に東証に対しコンプライアンスとガバナンスを立て直すとした「改善報告書」を提出したばかりである。四半期決算発表が遅れて押せ押せになるのはやむをえないとしても、しかもいくら不適切経理処理の見過ごしで後ろめたくなった監査法人が目を皿のようにしているのだとしても、第三者委員会に期ズレ計上を指摘されて〝謹慎〟中のはずのSWHが、立て続けにあわや〝ダメだし〟とはどういうことか。

期ズレかどうかを判定するために必要な、美術品の売買時期が載った契約書などの資料提出を拒んでいるのか、隠しているのか、納品書そのものがないのか。JPX自主規制法人も証券取引等監視委員会の事務局も本サイトを読んでいるのだから、このあからさまなコンプラ軽視に改善計画の真摯度を疑われても不思議ではない。

前回と一字一句同じコピペ

さらに呆れるのは、この限定付結論のリリースに付けたSWHの「今後の対応」と題したコメントである。

当社は、限定付結論に至った事由を重く受け止め、再発防止に向けた取り組みを行ってまいります。

株主の皆様をはじめ投資家、市場関係者の皆様ならびにお取引様その他すべてのステークホルダーの皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。

何が「重く受け止め」だ。一見、殊勝な態度に見えるが、2月10日の第一四半期のリリースと一言一句同じである。再発防止に向けた取り組みを謳っていながら、現に再発していることには何の反省もない。通り一遍のお詫びの言葉を連ねてやり過ごし、何度でも再発させる気なのか。ストイカは3月6日、この再発の責任と理由、そして善管注意義務のある取締役が、この度重なる事態に何か具体策を協議しているのかを問う追加質問状()を送った。

前回の質問状()は、SWHの実質筆頭株主である同社取締役で、石川県七尾の太陽光発電所を運営・管理するリーテイルブランディング(以下、リーテイル)の代表取締役でもある秋元之浩氏に対し、6問を問い合わせたものだ。第1問について、秋元氏の代理人であるのぞみ総合法律事務所の吉野弦太弁護士は「個人の立場でお答えすべき事柄でない」としながら、回答人の認識として回答()してきたのは

SWHは監査法人とも協議を行い、現在も適宜対応しているものと認識しております。東証への改善報告書の提出やその内容と監査法人による監査の視点は必ずしも同一でなく、ご質問の趣旨が判然としません。

なお、SWHは第三者委員会の調査結果を受け入れており、貴殿がご指摘されるような評価は当たらないものと回答人は考えております。

視点が同一でないとは、監査法人の指摘と改善報告の方向が違うと言いたいのだろうか。ならば「適宜協議」とは何を意味するのだろう。指摘はなれあいで、監査法人の面子を立てただけということか。そしてこの「適宜協議」によっても、なお再発が防げなかったのはなぜなのか。回答の趣旨がこれでは、こちらも判然としない。

なお、ここで〝葵の御紋〟のように言及された第三者委員会報告については、関東財務局からインサイダー取引の恐れがあると指摘されたと目される秋元取締役が、ヒアリングやフォレンジックの対象に入っていなかったという理由で、その調査方法と客観性に大きな欠落があり、死角のある偏った内容だったとストイカはみている。

追加質問状に答えず

追加質問状は握りつぶされたのか、期限の3月10日までに一人の取締役からも返答がなかった。IR窓口になった木村亜里沙・人事総務部長は電話をしても、居留守なのか「会議中」と逃げ回っている。

それなら先へ進んで、秋元氏への質問状の核心部分に触れよう。第3問は秋元氏が取締役を務めていたイセ食品グループの管財人らとの間で争われている以下の4件の民事訴訟についてである(うち1件は併合された)。

A)    東京地裁民事31部令和5年(ワ)2122号被告リーテイルブランディング

B)    東京地裁民事34部令和6年(ワ)349号 被告RIN TRUST〔A訴訟に併合〕

C)東京地裁民事18部令和6年(ワ)7242号被告リーテイルブランディング

D)東京地裁民事32部令和6年(ワ)7791号被告リーテイルブランディング

前回詳述したように、これらの訴訟は、2022年3月11日に経営破綻したイセ・グループ(負債総額はイセ食品が287億円、イセが175億円)の更生手続き開始を受けて資産の保全管理命令が出る前日の10日、七尾の太陽光発電所を含む不動産などが、イセ・グループから秋元氏によって取締役会決議なしでリーテイルに廉価で不正譲渡され、短時日で所有権移転の登記がおこなわれたとして、管財人側が登記抹消や不当利得の返還などを請求したものである。

管財人側証人の陳述書では「火事場泥棒的」と評されたこの管財人とのトラブルを抱えていては、更生中のイセ食品グループのスポンサーとなったSMBCキャピタル・パートナーズはもとより、イセ・グループの債権者団である多数の金融機関・リース会社からも、イセ再建に非協力とみなされて融資など資金調達に支障が出るのではないか、というのが第3問の趣旨だった。

これに対し回答人の吉野弁護士はこう返答した。

進行中の訴訟に関するご質問部分は回答を差し控えさせていただきますが、各訴訟にてRB〔リーテイルブランディング〕が適宜適切な主張立証を行っておりますので、よくご確認いただきますようお願い致します。

一般論で申せば、裁判上の和解は、双方の主義立証の推移、費用負担、裁判所の見解など様々な事情を総合考慮して訴訟当事者が検討すべきものです。

ご質問中、各訴訟の存在がSWHの資金調達の障害になっているような指摘がありますが、そうした事実はありません。

「適宜適切な主張立証」の実態は、裁判資料を閲覧すれば分かるが、物証にしろ証言にしろ、原告側がそろえたイセ食品社長、副社長、総務部長らの証言のボリュームのほうが圧倒的で、被告側の答弁書などは譲渡契約書などに代表者印があること以外は、見るべきほどのものがないとストイカは判断する。3月10日以前に資金繰りのための譲渡が決まっていたなどと主張して、あげくは「訴訟当事者が検討すべき」ことと論評を封じこめてしまう。

銀行団を敵に回した訴訟

因みに、2021年時点でイセ・グループの債権者トップ10に以下の銀行が名を連ねる。

日本政策金融公庫

東和銀行

あおぞら銀行

群馬銀行

北陸銀行

横浜銀行

イオン銀行

富山信用金庫

三菱UFJ銀行

足利銀行

なかなか錚々たる顔ぶれである。11位以下にはもっと多くの金融機関が信金、信組レベルまで並んでいる。秋元氏のリーテイルは、結果的にこれらの銀行団を敵に回し、その債権回収率を押し下げるために、東京地裁で奮戦していることになる。

そして本物の激震に見舞われた。M7.6、震度7の能登半島地震である。

この記事は有料です

会員登録・ログインして記事を読む