頼清徳・台湾  早くも「レームダック」
          24年総統選に勝ち、3期連続の民進党政権になったが、花吹雪ほどには喜べない ALASTAIR PIKE / AFPアフロ

頼清徳・台湾 早くも「レームダック」

民進党の頼清徳は中華民国(台湾)総統選挙に勝っても、手放しで喜べない。立法院では第二党に転落、経済低迷で「天然独」の若者に失望され、中国の締め付けに米国の後ろ盾もおぼつかない。キャスチングボートを握る柯文哲の報復が怖い。=敬称略、約3000字

 

台湾有事の危機が叫ばれる中、1月13日投開票された台湾総統選挙は立候補から終始リードしていた与党・民進党の頼清徳が当選。民進党は総統直接選挙後、台湾憲政史上初の3期連続政権を担うことになった。

13日午後時8時過ぎ、台北市内の民進党本部前ひな壇に姿を現した頼清徳は居並ぶ民進党幹部を背に当選第一声を放った。

顔曇らす勝者、喜び満面の敗者

「歴史に新たな一ページを刻み、民主主義をいかに大切にしているのか、を世界に示した」

しかし、頼は選挙戦の疲れからか、声は弱々しく、当選の喜びを満面に浮かべたものではなかった。頼の喜びを雲散霧消させたのは、疲れよりも総統選挙と同時に行われた立法委員(国会議員に相当)選挙の結果であった。民進党は前回の61議席から10議席減らした51議席と過半数に届かず、5月20日の総統就任から国会との「ねじれ現象」に直面することになった。

台湾紙「聯合報」より

頼よりも前に最大与党、国民党の侯友宜が敗戦の弁を語った。その表情は総統選挙では敗れたはいえ、立法委員選挙では14議席伸ばして、過半数には達しなかったものの民進党を1議席上回る52議席を獲得した。侯の表情にはその満足感すら漂っていた。そして、翌日からは台湾最大の地方自治体、新北市長に復職して市民のために尽くすことを誓った。

そして第三の男、民衆党の柯文哲は、30代の若者がほとんどを占めた集会で最下位に敗れたにも拘わらず、高らかに第一声を歌い上げた。

「(今回の)挫折によって諦めることなく努力を続ける。支持者の皆さんには4年後も自信をもって柯文哲に投票してもらいたい。必ず勝利を収める日がやってくるのだ!」

その声、表情には当選を思わせる喜びと満足感に満ち溢れている。総統選挙直前いずれの世論調査でも支持率20%を切り、泡沫扱いされながら、蓋を開けてみれば得票率が26%を超え、4年後の総統選挙に望みをつなげたばかりか、立法委員選挙では前回の5議席から8議席まで伸ばし、過半数を得られなかった国民党、民進党の間に立ってキャスティングボートを握ったからである。

台湾紙「聯合報」より

過半数を得られなかった民進党は、柯文哲民衆党の賛成票を得なければ、何の法案も通すことはできない。同じく過半数を制することができなかった最大野党国民党が民進党包囲網を築こうとしても、柯民衆党と手を携えなければならない。

明暗を分けた奇妙な三者三様の第一声の背景を解き明かすには、今回の総統選挙以前の2016年第一次蔡英文政権誕生前まで、時計の針を戻さなければならない。たった8議席とはいえ、柯民衆党はなぜ〝金の斧〟を手にしたのか、答えはそこから始まる。

世論の6割が民進党下野を支持

今回の総統選挙は政権交代、民進党の下野を望む民意が、いずれの世論調査でも6割に達する中、熱戦の火ぶたが切って落とされた。反民進党の声がここまで大きくなったのは、蔡英文政権が台湾経済の長期低落傾向に歯止めがかけられなかったことが主因である。

2016年から始まった蔡英文政権の8年、大卒初任給は2000年の陳水扁政権発足時の約3万台湾ドルから約2万4000台湾ドルまで落ち込んだ。蔡英文は総統就任時からそれまで中台両岸関係の基礎であった「一中各表(大陸も台湾も一つの中国に属するが、その内容に関しては双方が独自の解釈をする)」の92年共識を否定。第1期目の4年間、現在は世界13か国しか承認していないものの、1949年国共内戦に敗れて大陸から敗走してきた蒋介石政権以来の台湾島と周辺島嶼の国号「中華民国」すら口にすることを避けた。蔡英文の正式な職名が、中華民国憲法に規定された中華民国総統であるにもかかわらずである。

中華人民共和国習近平政権はこれに大きく反発。台湾観光業者にとっては上得意だった大陸観光客の来訪制限はじめ、パイナップルなど農産品の禁輸など立て続けに台湾経済包囲網を狭めた。台湾経済の大陸依存度は日本を大幅に上回る4割以上と言われ、大陸による台湾経済包囲網は抜群の効果を発揮。台湾経済は冷え込む一方だった。

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