台湾与党惨敗、対中防御線に「風穴」
             11月26日の 台湾統一地方選で与党が大敗を喫し、党主席の辞任を表明する蔡英文総統(ロイター/アフロ)

台湾与党惨敗、対中防御線に「風穴」

東アジアのキングピン、台湾が「藍色(国民党)ウェーブ」に呑まれた。11月の地方選で南部以外の主要市県で「緑色」の与党民進党が惨敗、首都台北決戦でも蒋介石の曾孫が市長を奪回して、蔡英文総統は党主席を辞任した。2024年1月の総統選で政権交代が起きれば、3期目の習近平中国は労せずして台湾を抱き寄せられる。米国も内政干渉は難しく、日本に忍びよる孤立。=敬称略 約6100字

2024年1月の中華民国(台湾)総統選挙の前哨戦として注目された九合一統一地方選挙(11月26日投開票)は蔡英文総統率いる与党、民進党が結党以来の歴史的大惨敗を喫し、蔡英文は党主席を辞任した(総統にはとどまる)。一方、最大野党の中国国民党は陪都(臨時首都)台北市を奪還するなど民進党を圧倒し、次期総統選に向けて政権奪回の狼煙を上げた。

九合一選挙は4年に一度行われ、米中間選挙と同じく政権に対する中間試験の意味を持つ。「九合一」とは、台北など6直轄市首長、市議から山地先住民(いわゆる高砂族)の里長(町長に相当)、代表(町会議員に相当)まで9つの階層の選挙が同時に行われるためそう呼ばれるが、中でも台北市、新北市など6直轄市以下21県市(嘉義市長選は候補者急逝のため12月18日に延期)の選挙結果が、2024年1月の総統・立法院選挙に直結するとされている。

前回の2018年九合一選挙でも、民進党は惨敗を喫している。結党以来の固い地盤である南部最大の都市・高雄市を国民党に奪還された。当選した国民党の韓国瑜が総統選に出馬したため、その補選で民進党候補が取り返したが、そのほかで死守できたのは嘉義県、嘉義市、台南市、屏東県、北部の基隆市、桃園市、新竹市に留まった。

今回の惨敗はそれを大きく上回るもので、台湾の南北を隔てる濁水渓以北のすべての県市を失い、勝利したのは南部の嘉義県、台南市、高雄市、屏東県、澎湖県だけの5県市と現行の地方選挙制度以来最少となった。他方、国民党は総統への登龍門といわれる台北市長、民進党8年の市政が満足6つ星と評価された桃園市を奪還し、無所属が当選した苗栗県以外の北部を党色の青に染め上げた。

2018年地方選と比べると、人口の多い北部で「緑」は壊滅的
(台湾聯合報サイトより)

総統登龍門に蒋介石の曾孫

最も注目を集めたのは言うまでもなく台北市である。民選となってから4人の市長のうち陳水扁、馬英九、民選以前にも李登輝と3人の総統を輩出した総統への登龍門である。今回、民進党は蔡英文総統の強い意向でコロナ禍の下で「鉄人大臣」と持ち上げられた衛生福利部長(厚生労働相に相当)陳時中を擁立した。

対する野党、国民党は創立者である蒋介石の曾孫で、中華民国総統の中で今でも最も評価が高い蒋経国の庶子の子である蒋萬安を立てた。この二大政党の候補のほか、8年間台北市政を担い、2020年総統選挙時には人気の高さから出馬が取りざたされた台北市長・柯文哲の下で副市長を務めた黄珊珊が、柯市政の継続を訴えて無所属で立候補したため、三つ巴の戦いとなった。

台北市長選挙結果

蒋萬安 国民党 575,590 42.29%
  陳時中 民進党 434,558 31.93%
  黄珊珊 無所属 342,142 25.14%

日本では蔡総統の支持率は高止まりと伝えられながら、民進党はなぜ有権者にこれほどまでの「ノー」を突き付けられたのか?その原因を探ってみよう。

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