岸田政権「統一教会政局」での支持率急落と最終防衛ライン

山本一郎「新・無縫地帯」ブログ

岸田政権「統一教会政局」での支持率急落と最終防衛ライン

旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に対して自民党はどうすればいいのか。裏もよく知る切り込み隊長が「義理人情はあるにせよさっさと切ったほうがいい」と一刀両断にする意味が、冷静にご理解いただけますかな? =無料記事、約3100字

 

戦後最長宰相であった安倍晋三さんが凶弾に斃れて50日経過したいまなお、旧統一教会と自民党の関係を巡ってすったもんだしております。私らポスト小泉政権のころからの関わりの人間であれば、もう「旧統一教会は選挙でボランティアを出してくれる便利な存在なのは分かるが、信者の数も減って用済みなのは間違いなく、義理人情はあるにせよさっさと切ってしまったほうが良い」と思うわけです。

そう簡単ではない話なのは、自民党は勝共連合との関わりで、60年代安保以降も狂暴でテロや殺人事件を起こす共産勢力など左翼を抑え込むには、暴力団や宗教団体など非正規な団体による制御が必要と考えた自民党清和会など保守傍流の影響力が、半世紀を超えていまなお残存していることにあるのではないかと思います。

また、安倍晋三さん自身が、日本の保守(を名乗る人たち)の心のよりどころだったものが、祖父の時代からの故・文鮮明さんとの結託によって政治的命脈を維持してきた経緯も含めて「実は親韓的な立場であり続けた」ことが明るみに出てしまいました。そのことが認知的不協和を引き起こして、大混乱に陥っていることもまた、問題ではないかと思うわけですよ。

そればかりか、アベ政治を許さないと言って批判していた左翼の人たちも、どちらかというと親中・親韓派が多かったにも拘らず、安倍さんが実は親韓派の文脈での政治を行っていたことに対しては触れることができず、統一教会叩きにだけ腐心しているのは印象的です。おそらく、安倍晋三さんの政治というのは右と左のように簡単には割り切れない複雑なものであって、第三者が事実を並べてみても一貫性は特に感じられず、理解はむつかしいものなのでしょう。

何しろ、韓国では旧統一教会が勝手に安倍晋三さんの葬儀を行ってしまったり、UPI通信は統一教会系なのはみんなが知ってるのに、マスコミも彼らとのビジネスを切ることができず、いまだに関係が続いていることも考えると、それだけ統一教会系の問題は根が深く、広く日本社会に浸透していたのだとも言えます。

官邸や情報筋においても、故・文鮮明問題について言うならば万景峰(マンギョンボン)92号の新潟西港寄港に絡んで、かねて朝鮮総聯を介した対日諸工作の監視の対象となっていたものが、その一部が朝鮮総聯にも統一教会にも所縁の深い複数の人物が窓口となり、日朝交渉の非公式ルートとなって、いまなお日本政府の特定方面の外交顧問的な立場で内閣官房参与(当時は首相秘書官)として継続しているのも気にするべきポイントではないかとも思います。某年懸案となったのは、外国為替及び外国貿易管理法と関税法違反(現在は時効)であった特定組織による貿易会社を装った対北朝鮮問題取引でしたが、これらの一部の手引きをして実現に漕ぎ着けたのもまた統一教会系の事業であったことは特筆されるべきです。

統一教会問題は本質的に3つの事案に分類されます。まず第一に、このような勝共連合以降の歴史的側面から日本の政党政治への浸透による、かなり悪意ある包括的なスパイ組織であり、日本の政治中枢に影響力を具体的に及ぼし続けた害悪そのものであるということ。

第二に、合同結婚式や霊感商法だけでなく、信者に対する過剰な寄付・献金の強要も含めた、宗教法人を隠れ蓑にした反社会的組織であり、これへの対処については単に消費者問題的な個別の民事事件としてではなく、積極的な捜査の対象とし、宗教法人法に基づいて裁判所による解散命令を視野に入れた摘発と排斥を合憲・適法に行うべき事案であること。

第三に、宗教と政治の関わりについては現行で置き去りになっている信教の自由(日本国憲法第20条)と政教分離の原則(日本国憲法第89条)について再整理し、既存の政治において統一教会による行為の「不適切だが合憲で適法」な部分については冷静に切り分けて議論しなければ、公明党と創価学会の関係に代表されるような普通に問題ない宗教による政治参画まで否定されかねないので慎重に着地点を探すこと。

安倍晋三さん個人の件で言うならば、歴代最長宰相として名実ともに教科書に残る大政治家でもある安倍晋三さん本人が、残念ながら文鮮明組織の利害関係者だっただけでなく、事実上のバックドアであり日本社会における庇護者になってしまっていたことは、非常に残念であるし忸怩たるところはありましょう。ただ、これについては暗殺事件も含めて起きてしまったものは仕方がないので、淡々と状況の確認・整理も行ったうえで、真の意味での再発の防止のための適切かつ適法な排除をどのようにしていくかを考えなければなりません。

これについては、やはり裁判所による旧統一教会および関連団体の解散命令を行うことを企図すると同時に、汚染がどこまで広がっているのかの確認はどうしても必要になります。折しも、岸田文雄政権において統一教会と関係のない人物のみで短期間で組閣をするというギャンブル的な内閣改造を行った結果、大臣や副大臣、政務官に任命してみたけど、実は関係ありましたという人物が炙り出されてしまいました。

それだけでなく、自民党政調会長にスライドした萩生田光一さんのように落選時点で統一教会と深く関わりを持ってしまっていた人物が、決別の宣言をする前に事実関係をボロボロと報じられてしまい、大バッシングの対象となったことで、単に被害担当艦(戦艦武蔵のように、スキャンダルや問題の責任を一手に引き受けてドボンする大物)というレベルを超えて、自民党全体の信頼を棄損する事態からの脱却に時間がかかることになります。一面で「萩生田さんだけ引っ張ってドボンすればよい」という楽観論が消えたのは、これから自民党や維新の会の地方議員に完全な統一教会信者を推薦し当選させてしまった話が出てくるだろうからで、スパッと切っていればダメージも小さかったのに、義理人情もあって温存したばっかりに、全部が焼け落ちかねない危惧を抱かれるのも当然と言えます。

その結果として、岸田文雄政権の支持率の急落が始まったのですが、実のところ、世論調査で気になる点で言うと、いままで岸田政権の支持率が高かったのは「否定する理由が特になかったから」であって、今回の旧統一教会問題はこれをもって岸田政権を不支持と言える理由を作ってしまったことから、残念ながらそう簡単には支持率の回復はむつかしいだろうとも思えます。

切り札としては、岸田文雄さんが総理として「決断」をし、安倍晋三さんの国葬は強行するけれども、政治的に主導して積極的に統一教会と自民党との決別を宣言し、宗教法人法に基づく解散命令を出せるようリーダーシップを執ること以外にはもうないのでしょう。

必然的に、1968年勝共連合の結成と、それの背景にある日本共産党を含めた米ソ対立における日本の赤化との闘い、巣鴨プリズンとA級戦犯といった大きな日本政治の裏面史の決算をする資格を持つのは保守本流の宏池会だということになるのでしょうか。

こうした話と前後して、今度は東京オリンピック利権において電通・高橋治之さんの摘発まで出てきてしまいました。カネと利権に塗れた東京五輪が日本衰退の象徴となりかねないなか、コロナ事案がありながらも開催強行した菅義偉前政権の当時の問題までえぐり出す金メダルに手が届くのか、5年越しの着手で東京地検特捜部の汚名返上に注目が集まる一方、これまた電通が長らく日本政治の中で枢要な役割を果たしてきた裏面史が凝縮されてきているのが、高橋さんのネタでもあることを考えると、良くも悪くもこれでようやく戦後の終わりに私たちは立ち会える時期に差し掛かったとも言えます。

いまや、新たな戦前に向かっているのかもしれませんが。■