「河野太郎の置き土産」後始末に高い代償

「河野太郎の置き土産」後始末に高い代償

河野太郎が一刀両断の〝剛腕〟をみせた「イージス・アショア」の配備停止。安倍前首相がトランプに口約束したものの、壮大な無駄ガネとなる恐れを中途で断ち切ったが、その「高い代償」は――。

地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備停止は、河野太郎前防衛相(現行革相)の英断だった――。このことに疑問を挟む防衛専門家はいない。予算削減を嫌う防衛省関係者ですら、「あのまま配備を進めていたら、膨大な無駄ガネに終わっていた可能性がある」と認める。2基1600億円から始まった取得費は2500億円となり、30年間の維持運営費が2000億円。加えて迎撃ミサイルの取得費、建屋などの整備費、実験施設建設費などを合わせると6000億円以上は確実とされていた。

河野氏は、ミサイル発射後のブースターが住宅地に落ちる可能性があり、回避のための改修費用が2000億円、期間が12年にも達すると説明。カネと時間の膨大なムダを中止理由に挙げた。

概算で1兆円にも及ぶミサイル防衛システムだが、「北朝鮮や中国のミサイル開発が進んでおり、改修され配備される12年後には陳腐化、撃ち落とせず役に立たない」(元海将)という。これでは、一言居士の河野氏が決断するのもムリはない。

だが、“後始末”はこれからだ。配備停止を認めた安倍晋三前首相の「置き土産」が二つある。ひとつはイージス・アショアの代替案であり、もうひとつは敵基地攻撃能力など抑止力強化策の策定である。

まず、代替案は三つ。①イージス艦の追加建造、②レーダーを地上に置いて発射装置を護衛艦に装備するセパレート迎撃、③ミサイル防衛専用艦の建造、である。

どれにも一長一短があるが、問題は既に米国と1787億円分の契約を済ませていること。6月22日の参院決算委員会で、これまでに196億円を支払い、「残りの契約分の取り扱いは、これから日米間で協議する」と述べ、違約金の支払いも示唆した。

となると、イージスの「目」となるレーダーは、契約額350億円のうち65億円を既に支払ったLMSSR(SPY-7)の有効活用が現実的。ただ、ロッキード・マーチン社のLMSSRには、18年7月に選定された段階から性能面に不安が高かった。

「競ったのはLMSSRとレイセオン社製のSPY-6です。ただ開発途中のLMSSRに比べ、SPY-6は完成し米海軍への納入実績もあった。24年から米海軍のイージス艦に搭載されるのもSPY-6。相互運用性の観点からも、制服組は当然、SPY-6になるものと思っていたら、ロッキード・マーチンと代理店の三菱商事が必死の政官工作を行い、受注に成功した」(軍事アナリスト)

もともとイージス・アショアは政治色の強いものだった。「日本はもっと防衛装備費で応分の負担をすべき」というトランプ米大統領の要望を受けた安倍晋三前首相が導入を決め、17年8月の日米外務・防衛閣僚会合(2+2)で方針が確認され、17年12月、閣議決定した。

その選定作業に官邸も関与、LMSSRを積極的に推したのは経済産業省から防衛省に出向していた官僚だったという。また、ロッキード・マーチンと顧問契約を結んでいる元防衛相のプッシュがあったし、三菱商事OBが経営するミサイル防衛に強い商社の働きかけもあったという。

「選定過程に不満を持つ内局、制服組は少なくなく、メディアを通じ検察に内部告発する動きもありました。特捜部が今、重大関心を寄せているようです」(司法記者)

そうした暗雲も広がるなか、安倍氏は退陣5日前の9月11日、安全保障政策に関する談話を発表した。閣議決定を経ておらず、正式な「首相談話」ではなく、何かに影響力を及ぼすわけではないが、防衛に対する強い意欲を最後に残した。イージス・アショアの代替案は、年末までに方策を出すように要望。「抑止力を高め、我が国への弾道ミサイル等による攻撃の可能性を一層低下させることが必要」と、敵基地攻撃能力の保有に強い意向を滲ませた。

安倍路線を継承する菅義偉首相は、9月16日の組閣後、岸信夫防衛相に新たな安全保障政策を策定するよう指示したが、20日夜、トランプ氏と電話会談し、「24時間いつでも電話を受ける」と声を掛けられて舞い上がっており、今後、トランプ氏に寄り切られ、イージス・アショア配備中止の「高い代償」を支払わされる可能性がある。■