「感染半島」南北とも発熱
            2020年のコロナ感染初期に韓国で公開された追跡アプリ「コロナ100M」の画面

「感染半島」南北とも発熱

飛翔体=ミサイル発射を続ける北朝鮮は「感染ゼロ」を標榜。何事も「早く早く」とPCR検査などでコロナ感染を押さえ込んだかに見える文政権の韓国だが、半島は南北ともコロナと政治が水面下で進行中だ。

朝鮮半島は「新型コロナウイルス」の襲来で非常事態にある。

2020年3月21日、金正恩朝鮮労働党委員長の視察の下で、ミサイルが半島をまたいで発射された。今年に入って3回目の飛翔体発射である。

この発射に韓国の左派論客がしてみせた分析には驚愕した。パンデミックで大変な時期に軍事行動をする余裕があるということは、北当局の主張する「コロナ感染0」を証明していると「従北」スタンス満開だったからだ。

北朝鮮のコロナ対策は、当局報道でも分かるように徹底した「封鎖」である。基礎的な薬剤も不足、陰圧室などの疫病管理施設が完備されていない北が、取れる可能な手段は「封鎖」である。ベトナム、カンボジアなどに類似しているが、違う点は検査キットの不足で感染状況が把握されないことだ。

検査は金正恩周辺の幹部や人員のみという情報もある。北での最優先は首領の安泰であり、首領の周辺を「無菌状態」にするのが保健行政に与えられた至上命令である。

労働党中央委員会の幹部をはじめ末端職員に至るまで結核、肝炎などの伝染病に罹ったら現職を解任され、行政機関や地方機関に配置転換される。さらに感染病の罹病履歴者は書記室、労働党中央委員会、護衛司令部に採用されないことはもちろん、金正恩が見る書類でさえ殺菌消毒する徹底ぶりだ。

「封鎖」の裏でトンジュ徴発

日本の低感染率を信用する人が少ないように、北の「感染0」を信じるのは韓国の「従北左派」だけだろう。WHO(世界保健機関)事務局長ですら言及を避けている。

中国との国境、外との空路も遮断した結果、民生経済の要である中朝貿易量が激減、食料の価格が3割以上高騰、餓死者も出ているという噂である。その状況下で金正恩が取っている「対策」が粛清と徴発だという。不正撤廃を名目に日本の官房長官以上に権力がある党組織指導部長や高位幹部を粛清した。同時に幹部及び貿易機関への徹底した査察を行っている。少しでも「不正」な外貨が見つかると粛清・処刑して没収しているという。

裏には、金正恩の悩みの種の統治資金減少があるのではないか。中級幹部以上への食料配給を3割以上カットして一般住民に回しているという情報もあるが、状況が改善しているという話はない。注目すべきはトンジュと言われる「銭主」たちへの徴発が始まり不満が高まっていることだ。直近の脱北者によると、北の商業、流通、金融、交通、住宅建設などは「トンジュ」の役割で成り立っているという。「首領様万歳」でも経済・社会活動は市場主義で、「トンジュ」のほとんどが党、司法機関幹部の縁故者だという。

金正恩の資金不足を補うための徴発対象により、彼らが収奪に反抗し、民衆を扇動して蜂起する可能性が高いと見る脱北者が多い。最近、金正恩が軍の射撃訓練参観や突拍子もない総合病院起工式に参加するのは不満勢力への「警告」と引き締め、親人民イメージを強調するためと推測できる。

以前、私が「微笑の傲慢女」と評した正恩の妹――金与正が“馬脚”を現した。「怯えた犬が激しく吠える」と青瓦台(韓国大統領府)を罵倒したが、翌日には正恩が親書を文在寅大統領に送り態度が豹変している。

金正恩が不安でジレンマに悩んでいる証しと見える。ミサイルを撃ったり、韓国を罵倒するなど強がる反面、親北の文政権の敗退も看過できないジレンマは、対米対応にも表れている。新型コロナで協力の用意があるというトランプ大統領の親書に、金与正は兄を立てながら米国を牽制している。内情はトランプ再選を願いながら、反発しなければアイデンティティが保てないのだ。

形勢不穏な北で4月10日に最高人民会議が予定され、前日の党全員会議の内容に注目が集まる。他方、コロナとの「戦い」が真っ最中の韓国では左右激突の熾烈な戦いが始まり、4月15日に国会議員選挙が行われる。

韓国は感染者数では米国やイタリアなど欧州やイランに抜かれたとはいえ、未だ1日の感染増加数が3桁と2桁の間を行き来している「大感染国家」に変わりはない。

韓国で感染拡大。従軍慰安婦の像にもマスク(3月11日、大邱で)

積極的なPCR検査、ドライブスルー、ウォーキングスルーなどに踏み切った文政権の対応は、何事も「早く、早く」を好み、考える前に行動することを重視している国民性からだ。挙国一致体制で「法より拳骨」の韓国では、日本と互いのSNS上で新型コロナへの対応、感染者数、PCR検査数、五輪延期、医療システムを比べる「是非合戦」が激しく戦わされている。どういうわけか、中国の強権的封鎖を非難し、当局の発表数値への信憑性を疑う点は日韓で共通している。韓国政府はコロナ対策が「国際社会で好評」と自賛するが、ディテールは批判が少なくない。

今や北朝鮮にもない「配給制」を彷彿させるのがマスク。3月9日から購入可能な曜日を出生年によって指定し、週に1人2枚を購入できる「5部制」が始まっている。私は当該曜日に薬局に並んだが品切れだった。

「チャイナゲート」の陰謀説も

最近はトピックスが徐々に4月の国会議員選挙にシフト、文政権の初期対応で露呈した「親中」姿勢が目に余り、「政権審判」を主張する声と「政権守護」を唱える声が拮抗する。当局は中国からの水際対策失敗で大感染に至った経緯を否認、反面日本への対抗処置として入国禁止措置は即刻実施した。お隣に厳しく中国に甘いのは安倍政権と変わりない。

火に油を注ぐように政権側のインフルエンサーが感染拡大の震源地である大邱にちなんで「大邱コロナ」と呼び、大邱を閉鎖しろと主張したため、猛烈な批判が巻き起こった。文大統領ら当局者が「終息が近い」「状況が安定し始めている」と発言するたびにクラスターが発生することも不信を強めている。

最近SNSで拡散しているのが「チャイナゲート」もしくは「朝鮮族ゲート」と呼ばれる世論操作説。SNS上で極端に文大統領を庇護し、それに逆らう人物、団体へ左右問わず激しくパッシングをする勢力があり、それは韓国在住の朝鮮族(約65万人)が中国共産党の指示で動いているという説である。

文大統領が市場のおばさんに「景気はどうですか」と聞くと「乞食みたいにひどい」と答えたことがニュースになるや、おばさんへの誹謗中傷、店への不買運動を煽ったSNSに朝鮮族のアカウントが多いという未確認情報が出回った。16年に「ローソク革命」と呼ばれる大規模な朴槿恵大統領弾劾集会が多発したが、宣伝カー、プラカード、飲料などの費用は「チャイナゲートのカネ」と取り沙汰され、韓国版「桜を見る会」になりそうだ。

北と南ではコロナ以外に政治の「戦い」が同時進行で激化している。(敬称略)■