風味花伝
バルの原点、「スペイン郷土料理」入門 風味花伝
                福井産寒サワラ 下仁田ネギのポルサルダ     撮影/加藤貴史

第10回

バルの原点、「スペイン郷土料理」入門

TauLa

(タウラ)

オーナーシェフ髙橋翔太氏

東京都世田谷区北沢3-34-6

https://www.instagram.com/taula2020

03-5738-8534

いわゆる“バルブーム”が起きてから10年以上経っただろうか。いまだに「〇〇バル」と名乗る店の新規開店が後を絶たない。ご存じのとおり、「バル」とはスペインの外食業態の一種。飲み屋として認識されがちだが、現地では朝から晩まで営業して、カフェ、食堂、居酒屋の機能を併せ持つのが普通だ。日本でも本場スタイルを踏襲している店がある一方で、バルという言葉が一人歩きして、「フレンチバル」や「イタリアンバル」といった「何屋なの?」と突っ込みたくなる店、「肉バル」、「日本酒バル」、「餃子バル」……と、「とりあえず『バル』と付けてみました」みたいな店が乱立している。

こうした状況だから、せっかくバルが流行ったのに、スペインの料理文化が十分に浸透しなかったことに対して歯がゆい思いを抱いている料理人は少なくない。スペインレストラン「タウラ」のオーナーシェフである髙橋翔太氏もその一人だ。全土を旅して、現地のレストランでも修業したスペイン一筋。念願かなって、2020年に東京・下北沢で独立開業した。

タウラはスペイン料理の魅力を伝えたいという熱い思いが込められたレストランとはいえ、堅苦しさや押しつけがましさとは無縁だ。アラカルトメニューは、前菜、メイン各5品前後とコメ料理が主体で、これらを組み合わせたコースも6000円と8000円で用意する。その一方で生ハムやチョリソといったタパスも揃え、ワイン1杯からでも利用できるから使い勝手は抜群にいい。

広々としたカウンターに陣取れば、オープンキッチンで調理をしながら、シェフ自身がフレンドリーに料理を紹介したり、ワインをすすめてくれたりするから、スペイン料理の初心者でも安心だ。スペイン産の自然派ワインやシェリーをグラスで気軽に楽しめるのもありがたい。

髙橋氏の料理は、修業先であるカタルーニャやバスクを中心とした郷土料理をベースにする、あるいはそのエッセンスを盛り込むのが基本である。写真は半生にポワレしたサワラに下仁田ネギとジャガイモ、ニンジンなどを煮込んだバスク地方の素朴な家庭料理「ポルサルダ」を合わせた。そこに下仁田ネギのジェノベーゼソース、アサリのだしの泡を添え、ポルサルダも含めた3種のソースとともにサワラを食べる仕立てだ。サワラの淡い風味とポルサルダのやさしい味わいが調和しつつ、泡によって魚介の風味をまとわせ、塩気を効かせたジェノベーゼが味を引き締める。繊細かつ、綿密に計算された料理である。

「現地の食堂で食べられるような郷土料理は重たいものが多い。それをレストランらしく、より軽く、洗練させて提供しています。たとえば、スペインで多用されるニンニクはそのままではなく、ゆでこぼしてから使ったりして」と髙橋氏。このサワラの料理のように、郷土料理をアレンジしてソースとして用いる手法も得意技のひとつだ。

ほかにもきざんだゲソと仔羊のひき肉を詰めたヤリイカをイカスミで煮た「ヤリイカのレジェーノ」、白ワインやハーブでマリネした豚肉をグリルしたラ・マンチャの地方料理「ロモデオルサ」といった食指が動くメニューが目白押し。カスエラ(土鍋)で炊いたバスク風アサリご飯「アロス・コン・アルメハス」など、スペインならではの米料理もはずせない。

「地方色が豊かで、素材や調理法も多彩なスペイン料理は、イタリア料理に匹敵するポテンシャルがある」と髙橋氏は胸を張る。スペイン料理といえばパエリアとアヒージョと思っている人に足を運んでもらいたい入門編に最適なレストランだ。■

 

髙橋翔太(たかはし・しょうた)氏略歴

1983年東京都生まれ。20代のときにバックパッカーとしてスペインにわたり、3ヵ月かけて全土をまわった。帰国後は国内のスペイン料理店で修業し、再度渡西。カタルーニャとバスクのレストランで2年間研鑽を積んだ。神楽坂にあった「コメドール・エル・カミーノ」などで働いたのち、2020年にカタルーニャ語で「テーブル」を意味する「TauLa」を下北沢で開業。