風味花伝
気負わぬ「非凡」フレンチ 風味花伝
                  茄子 穴子 フォアグラ   写真・天方晴子

第1回

気負わぬ「非凡」フレンチ

フロリレージュ

オーナーシェフ川手寛康氏

 

フロリレージュFlorilege

 東京都渋谷区神宮前2-5-4SEIZAN外苑B1

https://www.aoyama-florilege.jp/

        電話03-6440-0878

人は何を求めてレストランに行くのだろうか。未知なる美味や非日常世界の体験、あるいは同行者と親睦を深めるためという向きもあるかもしれない。いずれも主要な動機になりうるが、みずからの感性を磨くことを目的に加えるならば、「フロリレージュ」はけっして期待を裏切らないと請け合える。

同店は2009年に東京の南青山で開業し、15年に神宮前に移転した。オーナーシェフの川手寛康氏は、名店「ル・ブルギニオン」などを経てから渡仏。モンペリエの「ジャルダン デ サンス」で研鑽を積み、帰国後は東京版ミシュラン創刊時に三ツ星を獲得した「カンテサンス」のスーシェフを務めた。

王道のフランス料理から、時代の先端を行く店まで経歴は申し分なし。若くして独立を果たし、成功を収めた〝イケメン・シェフ〟は、若手料理人にとって憧れの存在だ。

フランスの伝統的なレシピがベースの独創性に富んだ料理(写真は「貧乏人のキャビア」こと、南仏料理の「キャビア・ド・オーベルジーヌ」が“元ネタ”)に加え、その料理とカクテルや日本酒を変幻自在に組み合わせるドリンクペアリング、厨房を囲むように設えたコの字型のカウンター席……。川手氏が繰り出す一手は、つねに料理界の注目の的である。

最近は「2皿構成」という提供方法を多用する。たとえば、アンディーブの料理。1皿目はヨーグルトで発酵させてブルーチーズのソースを合わせる。ところが、この料理にはアンティーブの芯を使わないので捨てるしかない。それならばと、続けて芯を使ったアイスクリームを提供する。料理人はいかに1皿の料理で食材を使い切るかと苦心するものだが、こうした常識をあっさり取っ払ってしまうのが、このシェフの非凡なところだ。

「レストランは発信の場でもある」と川手氏は言う。その最たる例が、持続可能性の観点を加味して経産牛を用いた料理「サステナビリティ 牛」である。社会的メッセージは説教臭くなりがちだが、川手氏の場合、「自分が一番おいしいと思う料理を末永くつくっていたい」という料理人としての純粋な思いが根底にあるから、押しつけがましさがまるでない。

こうした気負いのない姿勢は、料理の変化にも見て取れる。以前は国産素材にこだわって、「日本的」なフランス料理を強く意識したが、いまはそこまで固執していない。日本人である自分がつくれば、自然に日本らしさは表現できる。変に気張ることなく、「自分的」な料理をつくればいいと思うに至った。

あくまで自然体。お客は少しも堅苦しくない。ワクワク、ドキドキしながら、純粋に料理を愉しめる。だから、フロリレージュのカウンターはいつも笑顔であふれている。■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川手寛康(かわて・ひろやす)略歴

1978年生まれ。父も洋食のシェフ。「オオハラシイアイイー」「ルブルギニオン」で修行後に渡仏、星付き店を修行後に帰国、「カンテンサス」のスーシェフ、2009年に「フロリレージュ」を開店し、2015年に神宮前に移転した。「Asia’s 50 Best Restaurantsで2018年で3位。