風味花伝
「焼き鳥フレンチ」究極のいいとこ取り 風味花伝
                  比内地鶏 胸 海老、つくね、仔鳩        撮影/天方晴子

第29回

「焼き鳥フレンチ」究極のいいとこ取り

神保町 五木田

オーナーシェフ五木田 祐人氏

 

東京都千代田区西神田2-4-9第二錦水ビル1F

https://jinbocho-gokita.com

03-6272-4365

「鶏(鳥)をいちばんおいしく食べる方法が、日本の焼き鳥だと思った」

このように話す「神保町 五木田」のオーナーシェフ五木田祐人氏は、フレンチ一筋である。銀座のフランス料理店で働いたのちに25歳で渡仏して3年間研鑽を積む。帰国後は赤坂や恵比寿のレストランに勤め、「シェ・イノ」グループの「マノワール・ディノ」ではシェフを務めた。それでも独立に際して正統派のフランス料理店ではなく、「焼き鳥風フレンチ」(五木田氏)というスタイルを選んだ。

「なにより鶏が好きだから。フランス料理店だと、魚も肉もなんでも扱わないといけない。でも、この業態なら鶏に集中できます。火入れにしてもフランス流で丸鶏をオーブンで焼くとムラが出やすい。小ぶりにカットして串に刺し、炭火の遠赤外線で焼くという手法は、鶏の焼き方として理にかなっているのです」

五木田では比内地鶏を仕入れ、ねぎま(腿)、ハツ、レバーといった焼き鳥店でおなじみの部位をそろえる。くわえて仔鳩や鴨などのフランス料理で扱う家禽、季節によってはジビエも提供する。焼き鳥店と同じように串打ちし、備長炭の焼き台で火入れ。焼き上がった串を皿に盛るが、ここからが五木田氏の本領である。焼きたての串一本一本に異なるソースが添えられるのだ。

焼いた肉にソースを合わせるのはフランス料理の発想というか、フランス料理そのものである。見た目は焼き鳥、その実はフランス料理と言えばいいのか。焼き鳥店では塩かタレの二択で、味つけよりも素材に目が向きがちだ。いっぽう五木田では味わいのバリエーションが広がり、この串にはどんなソースを合わせるのだろうかというワクワク感が味わえる。焼き鳥好き、かつ、フランス料理好きにとってはたまらない。贅沢すぎる「いいところ取り」なのである。

今回焼いてもらった3品は以下のとおりだ。五木田氏が自身のスペシャリテと位置づける「比内地鶏 胸 海老」は、白身の肉でエビなどを巻くフランス料理のガランティーヌから着想した。ひと口大に薄切りにした両者を串に波打ちしてミキュイに加熱し、アメリケーヌソースで上品な魚介系のコクをくわえた完成度の高い一品だ。

「仔鳩」は五木田氏がもっとも好きな素材だという。丸のまま炭火で1時間かけてじっくり火を入れたフィレはうっとりするようなシルキーな食感、繊細な血の風味をまとった赤身肉のうま味。そこに砂糖をカラメル化して赤ワインヴィネガーをくわえるガストリックの手法を用いた酸味と甘みのバランスがほどよい赤ワインソースを合わせる。

「つくね」は包丁とフード・プロセッサーで2種類の異なる食感に仕上げた比内地鶏のスネ肉ミンチを合わせ、網脂で包んで成形。ブルゴーニュバターをぬりながらこんがり焼き上げ、マデラソースのキレのあるうま味を足す。ほかにも「ねぎま」には、勤め先であったシェ・イノのグランシェフ井上旭氏の名作アルベールソースを鶏のだしでアレンジして添えるなど、フランス料理の伝統や先人の仕事に敬意を払う姿勢が見て取れる。

クラシックなソースをまとわせた香り高い焼き鳥には、やはりクラシックなワインが似合う。「素材とワインをつなぐのがソースですから」と五木田氏は言う。リストには自身が好きなブルゴーニュワインがずらりとならぶが、むろんグラスワインのペアリングをソムリエに頼むこともできる。

食事のメニューは7000円からのコースが基本だ。価格よって品数は異なり、アミューズと前菜、サラダのあとにメインに相当する串が5本前後、鶏スープなどで構成される。軽めのコースを頼んで、好みの串を追加することもできるし、締めとして鶏ラーメンや炊き込みご飯なども用意されている。「コース一本で一斉スタートの堅苦しい店にはしたくなかった。好きな時間にいらしてワインとともに気軽に楽しんでほしいですね」

この店は鶏づくしのフランス料理店ととらえることもできるし、人によっては変化球系の焼き鳥店に見えるかもしれない。いずれにしても、フレンチと焼き鳥の融合というこの店でしか味わえない新鮮な体験ができることは間違いない。■

五木田祐人(ごきた・ゆうと)

1985年茨城県生まれ。20歳のときに上京し、「銀座レストラン ペリニィヨン」の門をたたいてフランス料理の世界へ。 25歳で渡仏し、ニース近郊の「ラ・レゼルヴ・ドボリュー」、ブルゴーニュの「ル・ジャルダン・デ・ランパール」、「オステルリー・ヴュー・ムーラン」などで3年間にわたって研鑽を積む。赤坂の 「シュマン」、恵比寿の「セリエ」を経て、「シェ・イノ」グループの「マノワール・ディノ」でシェフを務める。2021年7月に「神保町 五木田」を開業。25年には下北沢に「ブーシェリー ゴキタ トーキョー」と神保町に「ワインバー アドゥマン」をオープン。シャルキュトリーはオンラインショップ(https://foretriziere.base.shop)でも販売。