
第25回
天然を地焼きで「うなぎワンダーランド」
うなぎ中嶋
店主中嶋 亨氏
東京都文京区白山1-18-6
https://unaginakajima.com
03-3830-0144
2023年4月に東京の白山で開業した「うなぎ中嶋」は、うなぎ好きの店主が営むうなぎ好きのための店だ。メニューは基本的にうなぎ料理だけで、天然ものが入荷していれば、養殖ものとの食べくらべができる。上の写真は奥の皿が蒲焼き、手前が白焼きで、それぞれ右が天然、左が養殖である。
「天然は全国の産地のものを仕入れています。今日は青森県の下北半島のつけ根にある小川原湖産です。天然にしては身質がやわらかく、食べやすいほうでしょう。もっと筋肉質で、弾力が強いものも多いですから」
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中嶋亨氏はもともと和食の料理人だった。独立に際して自分が好きなうなぎを専門に商うことにしたという。「うなぎ店を開くなら、天然ものを扱いたいと思っていました。ただ、個体数が減っているので仕入れるのはたいへんです」。産地をまわるなどして、できるだけリーズナブルに提供する努力を重ねているそうだ。先月も徳島県の吉野川まで訪ねて漁を見学させてもらったという。
だからといって、一概に天然が養殖よりもおいしいとは限らない。「天然は個体差が大きいので、そこはなんともいえません。それにお客さまの好みもありますから。一般的に天然ものは脂がのる秋口がおいしいとされますが、さっぱりした春うなぎが好きという方もいらっしゃいます。天然よりも厚く脂がのって、身質がやわらかい養殖のほうが好み、というお客さまも少なくありません」
養殖のほうは、自身の脂が表面を覆って、揚げ焼きのようなバリッとした食感に仕上がり、川魚らしい土っぽい香りと相まって力強くワイルドな印象。いっぽうで今回の天然は脂ののりは、養殖よりも上品で、味わいも繊細に感じた。好みがわかれるのもうなずけるし、天然に関してはほかの産地や季節による違いも味わってみたくなる。
中嶋氏は泥抜きの期間を置かず、活きのよさを重視して、仕入れたらなるべく早めに使うようにしている。注文を受けたら刃先の短い「名古屋裂」で手際よく腹開きにして、長い鉄串を何本も打ち込む。その串をたくみに操り、折りたたむようにして面を返しながら備長炭で豪快に焼き上げていくのだ。

右は背開きに適した「江戸裂」
「活うなぎを蒸さずに焼く『地焼き』のスタイルで提供しているのは、たんに自分の好みだからです。こうばしく焼かれた風味や食感、脂に由来する旨みといったうなぎの魅力は、地焼きでこそ表現できると思っています」。白焼きには本山葵と2種類の塩が添えられ、さらっとしたたれをまとわせた蒲焼きには、自家製の山椒味噌が好相性だ。蒸したうなぎとちがって脂が強いので、口の中をさっぱりさせる吸いもの、お新香、なにより粒の立った白いご飯が欠かせない。
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うなぎは蒲焼き、白焼きだけでなく、各種串焼きも用意する。脂をまとってカリカリに焼かれた「かぶと」、部位ごとの食感の違いも味わえるほろ苦い「肝」、サクサクとした口あたりの「くりから」など。これらはアラカルトで1本から注文できるので、極上の酒のあてになる。
さらにメインの白焼き、蒲焼きにうなぎの一品料理がくわわった要予約の「食べ比べコース」がおもしろい。うざくや骨せんべいといった定番だけでなく、ひと晩おいて旨みを凝縮させ、むっちりした食感に仕上げた「うなぎの昆布締め」、ぬか味噌に漬けて発酵によるほのかな酸味をまとわせた「うなぎのぬか漬け」など、ほかでは食べられないセンスのいい酒肴が楽しめるうなぎ尽くしの献立だ。
「ほかの店でやっていないことでも、思いついたらとりあえず挑戦してみる。お客さまの反応を見て、評判がよければ定番メニューにしていますね」と中嶋氏は飄々とした口ぶりで話す。うなぎ中嶋の店構えは、いっけんするとどこにでもありそうな「町のうなぎ屋」。しかし、その実はうなぎの奥深い世界が体験できる「うなぎワンダーランド」なのである。■
中嶋 亨(なかじま・とおる)氏
1990年埼玉県生まれ。都内の結婚式場で和食の料理人としてのキャリアをスタート。3年勤めたのちに、湯河原の旅館に移って6年修業。都内にある3店のうなぎ専門店を経て、2023年4月に東京・白山で「うなぎ中嶋」を開業。現在もうなぎの産地やほかのうなぎ店にもおもむき、研鑽を重ねている。