夢で誤魔化した笑顔の裏で

何度泪を流した?

 

(King Gnu  "Stardom")

Aphorists

森保ジャパンが三度常識を覆した。12月2日早朝、空が明るくなる前から起きだして、サッカーのワールドカップ中継で強豪スペインとの対戦をTV観戦した。ドイツ戦の奇跡、コスタリカ戦の落胆に続き、望外の逆転勝利。ジェットコースターの末に、まさかのE組首位通過で、決勝トーナメント進出を果たした。

応援歌がある。NHKが東京藝術大学チェリスト出身の常田大希の4人組バンド「King Gnu」につくらせた「Stardom」である。歌詞はこの日のために書かれたように、選手たちへのエールというより、責められる敗者の言い訳にあふれている。

あと一歩

ここからあと一歩

ココロが草臥れた足を走らせる

GnuはJ-POPを志向しながら、和声やサビの構成はかなり複雑な曲をつくるバンドだ。YouTubeで同じ芸大出身の音楽家が曲を分析していたが、後期ルネサンスの作曲家、カルロ・ジェズアルドのマドリガーレのように半音の転調を多用し、ヴォーカルも微妙にファルセットを重ねている。カラオケで口ずさめそうに聞こえて、そんなレベルではない。ひとことで言えば、音楽が屈折している。

Gnuは「ヌー」と呼ぶ。フリーソフトのOSが名の由来かと思ったが、そのロゴになったアフリカの「ウシカモシカ」のことらしい。サバンナの草原で大群をなし、ライオンなどの強者から身を守る。ときにシマウマとも群れを混ぜ合わす習性があるというから、なるほど個より群の日本に似つかわしい。

しかし曲の最後は「人事を尽くし切って今/天命を待つだけだって」で突如絶ち切られる。ありきたりの諦念、というか……カタールの空に鳴り渡った笛のあとのような、あるいは早朝の渋谷のスクランブル交差点のような、歓喜の爆発はない。この静けさは何なのだろう。(A)

 

夢で誤魔化した笑顔の裏で
                  作・湊 久仁子