ここから始まり、ここで終わる

ことができる……ってやつだな

(古谷三敏『BARレモン・ハート』Part457)

Aphorists

漫画家の古谷三敏が85歳で亡くなった。しょうもない親父が家族にいじられる「ダメおやじ」の行きつけのバー「ウンチク」が発展した『BARレモン・ハート』は、1985年から四半世紀以上も延々と連載が続き、なんだか気になる漫画だったから寂しくなった。

ありとあらゆる見知らぬ酒が登場して、左利きには垂涎の的だ。常連の松ちゃんやメガネさんに、ごつい顔のマスターが傾ける蘊蓄うんちくばなし自体、ほんのりした人情味の昭和が香る。でも、マスターの倉庫には無尽蔵のストックがあるとしか思えず、そこが80年代バブルの「琥珀蟲こはくちゆう」でもある。

メガネさんのこの一言は、原作者没後の12月28日にBSフジで放映された中村梅雀主演ドラマ版の「世界一ってなんだニャ?」で、マスターが出すスコッチ「ベンロマック15年」が、2018年度WWA(World Whiskies Award)のスペイサイド・シングルモルト部門で「世界一」を受賞した銘柄と聞いて、さりげなく呟かれる。

世界一?スコッチにそんなものがあるか。究極は人それぞれ。どうせ中国の成金目当てのコンテストだろ。現にベンロマックのどこか鄙びたボトルが、最近は無機質なデザインに一変して興ざめとなった(古谷漫画は旧ボトル)。そんなヘソ曲がりも黙るこの寸鉄の弁がいい。ユーラシアの最西端、ポルトガルのロカ岬に詩人カモンエスが残した句を思いだす。

ここに地は果て、海が始まる――さあ、次は我が行きつけで、美酒の大航海へ漕ぎ出そうか。(A)

 

ここから始まり、ここで終わる
                   作・湊 久美子