進んだら帰れないHomeへ
休んでも止まらない時計
(BAD HOP“Kawasaki Drift”)
日本語が異国の言語に聞こえた。和製ヒップホップなんてどうせ猿真似かと思っていたが、耳を澄ましてみると、ビートと咆哮が何か別の現実を語りだした。川崎臨海部育ち、元不良の双子を核にしたラッパーの彗星が、荒廃した日本のフラッシュバックを散乱させる。
出現したのは、埋立地の工場群とコンクリートに閉ざされた人外境だ。岡崎京子の「リバーズ・エッジ」が90年代に予見した通り、バブル崩壊から時間が止まり、半島、中国、フィリピン、ブラジル……在日の多文化に失業と暴力が加わり、今や日本の戦後の解体場である。
磯部涼のルポで蒙を啓かれた。ここには「進んだら帰れない故郷」があり、自意識が空転するラップが鳴り響く。このグループも大震災の3月に中学を卒業した世代が中心だから、「3・11」の断絶の鬼っ子なのだ。
「川崎ドリフト」――過去をぶっちぎろうとする爆走の歌詞は、地名とバイクのKAWASAKI、「漂流」と尻振り走行をかけた地口でもある。が、また一人死んだ。彼らを排すニュータウンとタワマンがある限り、都市という他者の円環は閉じられているからだ。(A)■