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最後からの二番目の真実

「LIXIL藤森」の墜落5――広報部の狂った回答

前回の続きだが、本誌はジョウユウの不正会計について「中立的な立場」から調査・検証したという特別調査委員会の川口勉・委員長(LIXIL社外取締役、公認会計士)宛ての質問状を作成し、LIXIL広報部に取り次ぎを求めた。すると驚いたことに、こちらが頼んでもいないのに、広報部が川口に代わって勝手に回答を寄こしてきた。下がその全文だ。



川口勉・社外取締役への質問状に対するLIXIL広報部の回答



川口取締役へのご質問につきまして、お取次ぎさせていただきました。特別調査委員会の委員長の立場であられた方として、外部からのお問い合わせには「ノーコメント」でいらしゃいます。そこでLIXILからご質問に回答させていただきたく存じます。

<質問>1.先生はJoyou 問題委員会の委員長として、報告書の非開示に同意されたのでしょうか?(同意・非同意のいずれでも、理由とともにご回答ください)

<回答>報告書の開示の如何については、取締役会で決定がなされました。取締役会の運営方針にもとづき、取締役会での個々の同意・非同意について開示はいたしかねます。また、当社が既に実施し、またはこれから行う訴訟等の結果により会社の利益が左右されます。当社が調査したことの全文公開は訴訟等の相手方を利する可能性があり、ステークホルダーの不利益を拡大するおそれがあります。よって、全文公開はいたしません。

<質問>2.日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」は、第三者委の役割について「すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とする」と定義しています。Joyou 問題委員会はこの役割を十分果たしたとお考えですか?(肯定・否定のいずれでも、理由とともにご回答ください)

<回答>Joyou問題委員会は、取締役会の下に組織されたもので、川口氏と外部専門家から成る委員会です。よって、日本弁護士連合会のガイドラインの影響を受ける第三者委員会とは性質が異なるものです。しかし、調査は客観的かつ中立的な立場から実施され、対象は極めて広範にわたるものであり、十分にその役割を果たすものであったと考えております。



いかがだろうか。狂っていると思いませんか?

最初の質問への回答では、特別調査委の報告書の非開示を「取締役会で決定した」と明かし、全文を公表すれば「訴訟等の相手方を利する可能性があり、ステークホルダーの不利益を拡大する」などと白々しい言い訳をしている。本当は特別調査委の報告書のなかに、LIXIL経営陣にとって「不都合な真実」が記載されていたのではないのか。仮に真相を隠して訴訟に勝ったとしても、660億円もの巨額損失を埋めるにはほど遠い。それより、高給を食みながら自己の誤りを認めず、保身に走ることしか能のないウソつき経営陣を温存する方が、ステークホルダーの不利益ははるかに大きい。

2番目の質問への回答はさらに酷い。特別調査委は「取締役会の下に組織」された“御用委員会”であり、最初から経営陣の意向で報告書を握り潰せるようになっていたなんて、これが初耳である。特別調査委の設置を発表した6月8日付IR(投資家向け広報)にも、わずか700字余りの調査結果の概要を発表した11月16日付の噴飯もののIRにも、さらに有価証券報告書やその他の公表資料をみても、そんなことはひとことも書かれていない。

そのうえ、「(特別調査委は)日本弁護士連合会のガイドラインの影響を受ける第三者委員会とは性質が異なる」などと、よくもまあしゃあしゃあと言えたものだ。調査委員の1人の中村直人氏は、企業法務の分野で第一人者の呼び声が高い著名弁護士だが、これでは中村氏は日弁連のガイドラインを平気で無視する「企業に甘い弁護士」だとLIXILが貶めているに等しい。

この回答を中村氏が読んだらどう思うだろうか。彼は本誌の質問状に返事すらしなかったから、本当にLIXILとグルだった可能性もある。しかし腑に落ちないのは、中村氏が東京証券代行のウェブサイトに連載しているコラムで、4年前に第三者委についてこう書いていることだ。少し長いが引用しよう。



第三者委員会には限界もあります。何を調査するか、いかなる事項について報告をするかということも委託者との合意で決まりますし、どこまで強制的な調査権があるかといえばすべて任意の調査しかできません。関係者が嘘をつけばそれを嘘だと立証することはかなり困難です。またいかなる判断基準で判断をするのかということも法的には決まっていません。裁判所における立証と同じ程度なのか、それよりも緩くて良いのか、各委員会の判断になります。また報告書の利用者は、すべてのステーク・ホールダーであり、広く世間一般といって良いのですが、しかし委託者はその不祥事を起こした会社であり、報酬も会社から支払われます。そこに根本的なねじれの問題があります。そのため委託者に迎合的になるのではないかというリスクは常について回りますし、不祥事が起きたときだけ第三者委員会を立ち上げて中間報告だけして、ほとぼりが冷めたら最終報告はしないで放置するなどといったケースもあるようです。依頼する側も、言うなりの意見を書くものと思って、たんに世間の批判をかわすためとか、権威付けのために利用しようと考える輩もいるようです。そのような場合には、たんなる「隠れ蓑」に使われてしまいます。そんなものなら、ない方がマシです。



また、中村氏は2013年に住宅メーカーのタマホームが設置した第三者委員会の委員長を引き受け、同社の子会社で発覚した不正会計の調査にあたった。その調査報告書は、創業トップを含む親会社の経営陣が善管注意義務を怠った可能性を明確に指摘するなど、第三者委の高い独立性を示す「お手本」として専門家の間で高く評価されている。ちなみにタマホームの第三者委のメンバーには、やはりLIXILの特別調査委の委員を務めた高岡氏も入っていた。

そんな中村氏や高岡氏が、わざわざ自分のキャリアに泥を塗るような真似をするとは考えにくい。このこともまた、特別調査委の報告書にLIXIL経営陣にとって「不都合な真実」が記載されていた可能性を強く示唆している。

藤森社長のクビが飛ぼうが飛ぶまいが、調査報告書の隠蔽というLIXILの暴挙を許したままでは、日本の資本市場の信用は落ちる一方だ。中村氏と高岡氏にプロとしての良心があるなら、すべてのステークホルダーのために沈黙を破るべきではないのか。

怪しい上場企業にJPXが「情報開示責め」

東京証券取引所の大納会が迫ったこの時期は、様々な統計がほぼ固まるタイミングでもある。日本取引所グループ(JPX)のHPに掲載されている上場廃止関連の資料をみて、「へぇー」と思わされた。

今年上場廃止が決まったのは東証一部・二部、マザーズ、ジャスダックで68銘柄(12月24日現在)。そのほとんどはM&Aに絡んだものだが、じわりと増えているのが日本取引所グループの自主規制法人の判断や裁量で強制退場が決まった上場廃止だ。

わずか4銘柄に過ぎないが、前年までは年間1-2銘柄でしかなく、さらに遡ると10年間で1-2銘柄しかなかった時期もあったから、何かしらの変化を感じずにはいられない。来年は強制退場させられる銘柄がさらに増えるのだろう。

その兆候はある。上場廃止に加え、「開示された情報に虚偽がある」として公表措置と改善報告書の提出を求められた銘柄も増えている点だ。やはり開示情報に虚偽があったとして特設注意市場に放り込まれた銘柄、上場契約違約金懲求銘柄などと合わせると、マーケットの大掃除やどぶさらいはやはり活発化しているのだ。

東証二部市場に上場しているある投資会社は、このところ自主規制法人から執拗に情報開示を求められるようになった。

「新株予約権の発行で得た資金は何に使ったのか、具体的に開示せよ」

「その資金は現在、どこにあるのか」

「海外投資に使うはずの資金が、なぜ今も銀行にプールされているのか」

回答にあやふやな点や矛盾点があると、そのたびに自主規制法人から詳細に説明せよと矢のような催促が飛んでくる。が、もともと堂々と開示できないようなことを繰り返してきたのだから、満足な説明ができるはずもない。情報開示の責任者は「箸の上げ下ろしまで監視されているようだ……」と頭を抱えているという。

この企業はこれまで第三者割当の形で新株予約権を繰り返し発行し、調達した資金はどう使われたのかはっきりしなかった。一方で前社長らが顧問料や経営指導料の名目で社外に流出させたりしたと言われ、昨年には有価証券報告書に虚偽の説明があったとして内部告発文が監督官庁に送付された経緯がある。

それで思い出した。今夏に日本取引所グループの自主規制法人を取材したとき、幹部が「(上場企業にふさわしくない企業に対して)情報開示を徹底して求めていく」と話していた。こちらは内心「悠長なことを言っているな。開示を求めるだけではダメなのに」と感じたが、それは情報開示をテコに問題企業を上場廃止に追い込んでいく方針について語っていたのだ。

すでに上場廃止が宣告されたある企業は「自主規制法人からは『特設注意市場に移っても、きちんと情報開示すればすぐ元に戻れますよ』と言われていたが、猶予期間が切れるとあっさりとクビをはねられた」とこぼしているから、取引所は本気なのだろう。

怪しげなエクイティ・ファイナンスを繰り返す問題企業が減れば市場の効率性や透明性、健全性は高まり、ダイナミズムも増すはずだ。

「ならばいっそのこと……」と思う。問題を抱えている有力企業が外部の弁護士からなる調査委員会を立ち上げて徹底的に調査をさせて、それが本誌などで報じられているにもかかわらず、よほど不都合な真実が含まれているのか、調査結果は非開示としてしまうケースが相次いでいる。

「プロ経営者」を標榜する外資帰りの社長が突然退任発表したLIXILがその典型だ。透明性やグローバリズムを吹聴したくせに、いざ足元で不祥事を起こすと、調査委員会報告を訴訟を理由に非開示としてしてしまった。

せっかくえぐり出した問題をひた隠しにするのでは、調査に参加した弁護士たちに爆弾を抱えさせるようなものでもあるのだから、JPX自主規制法人はこれらにも徹底した情報開示を求めてはどうだろうか。

企業とグルになって、臭いものに蓋をする弁護士や公認会計士も同罪、彼らが隠れているイタチの穴も「情報開示責め」の煙でいぶり出す必要がある。

「LIXIL藤森」の墜落4――「偽・第三者委員会」の茶番

12月23日付の日経朝刊に載った潮田洋一郎・LIXILグループ取締役会議長のインタビュー記事には鼻白んだ。藤森義明社長の唐突な退任発表について「2年前から指名委員会で5~6人の候補者と面談を重ねてきた」と言い繕ったのはまだ理解できなくもない。が、この期に及んで藤森社長を「ウソをつかないなど、“武士道”のような日本の伝統的な美意識を持つ珍しい人」などと持ち上げる神経はどうかしている。

藤森社長が「ウソをつかない」のが本当なら、彼が株主に対してついた大ウソについて潮田氏はどう説明するのか。ほかでもない、本誌が最新号(2016年1月号)の記事で暴露した「偽・第三者委員会」の茶番劇のことだ。

2015年6月3日、LIXILは不正会計が発覚した中国子会社ジョウユウの破産手続開始をドイツの裁判所に申し立てたことを発表するとともに、それに伴う損失が最大約660億円に達すると明らかにした。そして同日開いた緊急記者会見で、藤森社長はジョウユウの調査についてこうはっきりと公約した。

「当社は、ジョウユウで起こった事実の解明と責任の追及にあたって、あらゆる手段をつくす決意で、ジョウユウを綿密に調査する所存であります。この活動に聖域はありません。そして、これまで実施してきたように、その経過を皆様に、タイムリーにかつ透明性のある方法でお伝えしていきたいというふうに考えております」

この会見の動画はネットで見ることができるから、藤森社長が平然とウソをつく場面を一般株主はぜひその目で確かめるといい。会見開始から13分のところだ。

さらに5日後の6月8日、LIXILは「当社海外子会社における不適切な会計処理に関する調査経過について」と題したIR(投資家向け広報)を出し、藤森社長を委員長とする「社内調査委員会」とは別に、社外取締役および外部有識者で構成される「特別調査委員会」を設置したと発表した。その目的は「社内調査の結果をより中立的な立場から検証し、業務執行を適切に監督する観点から、当社の海外子会社であるジョウユウに対する資本参加及びその後の子会社管理に関する事実関係の調査及び分析、並びに、原因の究明及び今後の再発防止策の検証及び提言」をすることだと明瞭に書かれている。

藤森社長の公約とIRの文言を読めば、特別調査委員会はいわゆる「第三者委員会」であり、調査報告書は公表されると誰もが信じたはずだ。ところが11月16日、5カ月も待たせた末にLIXILが公表した調査結果はたった700字余りの「概要」だけ。同社は「係属中の訴訟を含め損害回復措置に極めて重要な秘密情報が含まれている」からだと釈明したが、そうした場合は秘密情報を削除か黒塗りした「開示版」を作成して公表するのが当たり前である。新興市場のいかがわしい「ハコ企業」ならいざしらず、LIXILのような上場大手が第三者委の調査報告書を握り潰したのは前代未聞だろう。

これでは、第三社委はLIXILの「調査したフリ」に都合よく利用されたも同然だ。それとも、委員たちも最初からグルだったのか?もはや一企業の不祥事にとどまらず、日本の企業および資本市場の国際的信用を傷つける大問題である。

そこで本誌は、第三者委の委員長の川口勉(LIXIL社外取締役、公認会計士)、委員の中村直人(中村・角田・松本法律事務所パートナー、弁護士)、高岡俊文(KPMG FAS執行役員パートナー、公認会計士)の3人にそれぞれ質問状を送って見解を質した。下記は川口宛のものだが、中村と高岡宛も中身は同じだ。



Joyou問題委員会の調査報告書に関する取材のお願い



ファクタ出版株式会社

月刊FACTA発行人阿部重夫



時下、ますますご清祥のこととお慶び申しあげます。弊誌は調査報道を中心とする月刊総合誌で、LIXILグループの元中国子会社Joyouの問題について継続的に取材しております。

LIXILは6月8日に社外取締役および利害関係のない外部有識者による特別調査委員会(Joyou 問題委員会)を設置。藤森義明社長は記者会見で「調査結果をタイムリーかつ透明性のある方法で(ステークホルダーに)お伝えする」と公約していました。ところが、11月16日にLIXILが発表した調査結果はわずか700文字余りの「概要」だけで、事件の詳細な経緯、調査委の判断基準、結論の根拠などをまったく明らかにしていません。

特別調査委の報告書の全文ないし要約をなぜ公表しないのか、本誌がLIXILに問い合わせたところ、「報告書の中に秘密情報が含まれており開示できない」という回答でした。上場企業とは思えない常識外れの言い訳であり、ステークホルダーが納得するとは到底考えられません。

川口先生はLIXIL社外取締役としてJoyou 問題委員会の委員長を務められました。そこで独立のお立場から、下記の質問にご回答いただけないでしょうか。

1.先生はJoyou 問題委員会の委員長として、報告書の非開示に同意されたのでしょうか?(同意・非同意のいずれでも、理由とともにご回答ください)

2.日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」は、第三者委の役割について「すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とする」と定義しています。Joyou 問題委員会はこの役割を十分果たしたとお考えですか?(肯定・否定のいずれでも、理由とともにご回答ください)

以上です。ご多忙のところ恐縮ですが、弊誌の締切の都合もございますので12月9日(水)までにご回答いただきたく存じます。方法は面談、文書、電話などのいずれでも構いません。

何卒よろしくお願い申し上げます。

2015年12月4日



上の質問状に対する川口と高岡の回答は「ノーコメント」。中村からは回答そのものがなかった。ところが、ここで予想外の珍事が起きる。社外取締役の川口への質問状をLIXIL広報部を経由して送ったところ、こちらが聞いてもいないのに、川口に代わって彼らが勝手に回答を寄こしたのである。

その顛末は1月号の記事にも書いたが、次回ブログでは広報部の回答の全文をお見せしましょう。誰が命じて書かせたのかは知らないが、LIXILの歪んだ企業体質を示す第一級の証拠です。お楽しみに。

「LIXIL藤森」の墜落3――再質問状と回答

LIXILをはじめ不祥事を隠している企業には共通点がある。上場企業にとってメディアへの回答は株主への回答と同じだから、あからさまなウソはつきにくい。そこで、ボロが出ないよう経営トップへの直接取材からひたすら逃げ回り、「質問状を寄こせば回答する」と言ってくる。そして広報部と法務部が額を寄せ合い、わざわざ“空々しい”回答案を作るのだ。

しかし、それがわかっているからこそFACTAは質問状作りにこだわる。なぜなら広報部や法務部の担当者は不祥事の詳細を知らなかったり、知らされていないケースが少なくない。そこに綿密な調査に基づいた質問を連打し、相手のミスを誘うのである。

案の定、LIXILはボロを出した。下に再掲するが、前回のブログで紹介した質問と回答の「Ⅱ-③」がそれだ。



<質問>「GROHEの経営陣は、Joyouに十分な内部統制、コーポレートガバナンスポリシー、及び財務報告が欠けていたことを認識していた」とありますが、GROHEの経営陣がそのような認識を持ったのはいつからですか?また「彼らは対応を試みました」とありますが、いつ頃、どのような対応を試みたのですか?また、蔡親子はそれを拒否したという意味ですか?

<LIXIL回答>調査では、GROHE 経営陣は、Joyou には十分な内部統制、コーポレートガバナン スポリシー、及び財務報告が欠けていたことを認識していたものの、Joyou の財務上の不正行為を認識していたとの証拠は見られませんでした。 GROHE としても、Joyou に CFO を派遣する等、様々な対応を試みましたが、Cai 親子の非協力もあり、十分に効果をあげなかったという状況と理解しております。



この回答を読めばわかるように、LIXILはグローエ経営陣がジョウユウの問題を認識した時期について答えなかった。もちろんわざとだろう。その一方、グローエがジョウユウに「CFOを派遣した」ことを明らかにした。グローエ経営陣の努力をアピールしたつもりかもしれないが、広報も法務もこの情報の重要性がわかっていなかったのではないか。

というのも、ジョウユウは2010年にドイツで上場して以降CFOが2回交代しており、そのなかにグローエ出身者はいないのだ。ちなみに上場時のCFOだった鄭剛は、中国の投資業界では名の通った「IPO請負人」で、新興企業の“お化粧”を得意とするいかがわしい人物。2人目の李祖紡はジョウユウ財務部門の生え抜きだから、可能性があるのは3人目のドロシー・ウー(呉建萍)だけである。

以上をふまえ、本誌はLIXILに再質問状を送った。短いから12月7日付のLIXILの回答と一緒に公開しよう。



FACTA再質問状とLIXILの回答



イ.質問「Ⅱ-③」では、GROHE経営陣がJoyouに「十分な内部統制、コーポレートガバナンスポリシー、及び財務報告が欠けていたことを認識」したのはいつからかとお聞きしましたが、ご回答いただいていません。改めて回答をお願いします。なお、回答できない場合は「時期を把握していない」のか「把握しているが公表しない」のか、理由をお聞かせください。

<LIXIL回答>本件調査につきましては、11月16日の適時開示資料を超えた情報を、メディアの皆様含め一部の方にだけ開示することが出来ません。何卒ご理解いただければ幸いです。

ロ.回答のなかに「GROHEとしても、JoyouにCFOを派遣する等、様々な対応を試みました」とありますが、派遣したCFOとはDorothy Wu氏のことですか。

<LIXIL回答>Dorothy Wuのほか、それ以前の財務担当者の採用・派遣も含みます。



これではっきりした。LIXILはグローエ経営陣がジョウユウの問題を認識した時期を是が非でも知られたくないのだ。しかし派遣したCFOがドロシー・ウーだと認めたおかげで、この目論見はパァになった。

ジョウユウがウーのCFO就任を発表したのは2014年8月。つまりグローエ会長兼CEOでジョウユウの監査役会副議長でもあったデビッド・ヘインズは、どんなに遅くともそれまでに問題を認識していたことになる。LIXILは「それ以前の財務担当者の採用・派遣も含みます」と回答したから、実際にはLIXILがグローエを買収(13年9月)する前から知っていたはずだ。にもかかわらず、15年4月に不正会計が発覚するまでLIXILに報告せず、ひたすらほっかむりを決め込んでいたのである。

それだけではない。不正発覚の前月の15年3月、ジョウユウは過去最高の決算(14年12月期)を発表。ウーはその財務報告書にCFOとしてサインし、ヘインズも監査役会副議長として承認している。不正会計に直接手を染めたのはジョウユウ創業一族の蔡親子でも、問題を認識しながら財務報告書を通したウーとヘインズもまた粉飾決算の片棒を担いだ“戦犯”にほかならない。

LIXILは藤森社長の事実上の更迭で問題に終止符を打ちたいのだろうが、そうは問屋が卸さない。ヘインズがグローエのトップに居座り真実の隠蔽を続ける限り、ジョウユウの闇は消えないのだ。

さて、次回はLIXILの「偽・第三者委員会」の実態を晒すとしましょう。

「LIXIL藤森」の墜落2――空々しい回答

前回に続き、LIXILが回答期限の12月4日午前8時に送ってきた回答を載せよう。

一目見れば分かるように、弊誌の細部にわたる質問に対し、LIXILの回答は短い。正直言って、藤森社長が逃げて弊誌のインタビュー要求に応じない理由がよく分かると思う。11月16日のリリースが、肝心のジョウユウ問題の記述が極力少なく、ほかのどうでもいい風呂敷を延々と広げるのとまったく同じ構造である。

読んでいてあくびが出た。藤森社長の人間性がよく分かる。口にするのは自分の売り口上ばかり。耳に痛い話にはソッポを向き、これはと思う部分がひとつもない。作成したのが広報担当者だったとしても、内容的にはリリースを一歩も出ておらず、ただなぞるだけで空々しい。読んでいても、ひとつの誠意も感じられなかった。

本誌の回答が微に入り細にわたっているということは、それだけ情熱を傾けて丹念に調べているということだ。その努力に報いるのが本来の広報の役目だろう。こういう回答書を寄越したら火に油、その典型例としてここに、前回と重複するが、質問と回答を対称して載せよう。世の広報担当者は肝に銘じていただきたい。

よしんば、経営者がFACTAにはディテールを教えるなと厳命したのだとしてもだ。これしか書かせない経営者の臆病さ、世の批判から逃げ隠れするしか能のない藤森社長のような弱虫経営者たちの内実を晒そう。



FACTA質問状とLIXILの回答



Ⅰ. 特別調査委員会報告書の非公表について

御社は11月16日に『Joyou問題に関する調査結果について』と題したIR(投資家向け広報)を発表し、一部報道機関への記者会見を行いました。弊誌は記者会見には招かれませんでしたが、これまでの経緯から当然、特別調査委員会の報告書が公表されるものと考えておりました。ところが報告書の「全」はおろか「要約」さえ出さないと聞き、御社の情報開示姿勢に大きな疑問を感じています。非公表の理由について改めて質問します。

①御社は6月8日付IR『当社海外子会社における不適切な会計処理に関する調査経過について』のなかで、 川口勉社外取締役を委員長とする特別調査委員会を設置し「調査結果が明らかになった段階で速やかに公表いたします」と公約しました。また、それに先立つ6月3日の記者会見で、藤森社長は「調査結果をタイムリーかつ透明性のある方法でお伝えしていく」と明言しています。これらの約束と報告書の非公開は明らかに矛盾しますが、その場しのぎの虚言だったのですか?

<LIXIL回答>特別調査委員会より調査報告書を 11月16日に正式に受理し、同日速やかに調査結果につきまして公表しております。

②弊誌の問い合わせに対し、 御社は報告書を公開しない理由を「係属中の訴訟を含め損害回復措置に極めて重要な秘密情報が含まれているため」と説明しました。しかし、報告書からそれらの秘密情報を削除したうえで公表するのは不可能ではないはずです。なぜしないのですか?また、11月16日付IRでは報告書を公表しないという事実も、その理由もまったく明らかにしていません。 これで株主への説明責任を十分果たしているとお考えですか?

<LIXIL回答>繰り返しとなりますが、報告書には、係属中の訴訟を含め損害回復措置に極めて重要な秘密情報が含まれています。従って、これらの情報を開示することが出来ません。また、調査では、当社又はGROHEの経営陣が不正行為を知っていた、または意図的に行っていたという証拠は見られなかったとの結論が下され ており、経営陣が不正行為に関与していた他の不祥事案件とは異なります。今回、調査結果の概要とあわせまして、社内調査委員会及び特別調査委員会の提言を踏まえた再発防止のための改善策につきましても、あわせてご報告させていただくことで、すべてのステークホルダーの皆様への信頼回復に努めていまいります。

Ⅱ. 11月16日付IRの 「調査結果の概要」について

Joyou問題については藤森社長を委員長とする社内調査委員会と、社外取締役および外部有識者による特別調査委員会が同時並行で調査・検証を進めました。株主にとってより重要なのは当然ながら後者の内容です。ところが11月16日付IRの「調査結果の概要」では、社内調査委員会と特別調査委員会がそれぞれどのような見解を示したのかが極めて不明瞭です。

「社内調査委員会による調査では、Joyouの会計不正についてもっとも批難されるべきは、Joyouグループの創業者であるCai親子であるという結論が下されました」とありますが、特別調査委員会の結論も同じだったのですか?その場合、報告書に書かれた結論の具体的文言を教えてください。

<LIXIL回答>社内調査委員会、特別調査委員会ともに、GROHE又は当社の経営陣が不正行為を知っていた、または意図的に行っていたという証拠は見られなかったとの結論が下されたと理解しております。

②「GROHE又はLIXILの経営陣が不正行為を知っていた、または意図的に行っていたという証拠は見られなかったという結論が下されました」とありますが、特別調査委員会 も同じ結論だったのですか?その場合、報告書に書かれた結論の具体的文言を教えてください。

<LIXIL回答>上記回答のとおり特別調査委員会の結論も同じであったと理解しております。

③「GROHEの経営陣は、Joyouに十分な内部統制、コーポレートガバナンスポリシー、及び財務報告が欠けていたことを認識していた」とありますが、GROHEの経営陣がそのような認識を持ったのはいつからですか?また「彼らは対応を試みました」とありますが、いつ頃、どのような対応を試みたのですか?また、蔡親子はそれを拒否したという意味ですか?

<LIXIL回答>調査では、GROHE経営陣は、Joyouには十分な内部統制、コーポレートガバナンスポリシー、及び財務報告が欠けていたことを認識していたものの、Joyouの財務上の不正行為を認識していたとの証拠は見られませんでした。GROHEとしても、JoyouにCFOを派遣する等、様々な対応を試みましたが、Cai親子の非協力もあり、十分に効果をあげなかったという状況と理解しておりま す。

④「Joyou問題委員会の調査報告書では、LIXILに 対してこの報告を早い時期に行うべきであったと結論づけています」とありますが、社内調査委員会でも同じ結論に至ったのでしょうか?

<LIXIL回答>社内調査委員会においても同様の反省点が指摘されております。

Ⅲ. GROHEおよびLIXILの 経営陣の責任について

JoyouはもともとGROHEが買収した企業です。最初の出資はJoyou がドイツのフランクフルト証券取引所に上場する前年(2009年)でした。中国の未公開企業への投資リス クが極めて高いことは言うまでもありません。また今回、御社の社内処分の対象となったDavid Hanes氏とGerry Mulvin氏は、04年のTPGとCredit SuisseによるGROHE買収にともなって経営陣入りし、09年のJoyou出 資およびその後の子会社化を主導する立場でした。11年からMulvin氏はJoyou取締役、Hanes氏はJoyou監査役会副議長をそれぞれ務め、Joyouの経営を日常的に監督すべき地位にありました。以上の前提で質問します。

①「調査結果の概要」によれば、GROHEの経営陣は「Joyouには十分な内部統制、コーポレートガバナンスポリシー、及び財務報告が欠けていたことを認識していた」にもかかわらず、今年4月に問題が発覚するまでLIXILに報告しませんでした。認識がありながらなぜ報告しなかったのですか。社内調査委員会および特別調査委員会のヒアリングに対し、Hanes氏とMulvin氏はどのように釈明したのですか?

<LIXIL回答>ヒアリングの内容については公表できませんが、当社に対して早い時期に報告すべきであったことは調査において明らかにされています。

②グループの構造や過去の経緯、そして「問題を認識しながら報告しなかった」事実に鑑みれば、社内処分の対象となった役員のなかでHanes氏とMulvin氏の責任がひときわ重いのは自明です。報酬減額に伴うHanes氏とMulvin氏の減額幅は何%でしょうか?

<LIXIL回答>本件では、様々な国々におけるプライバシーや法律に配慮しなければならず、現時点で具体的な数字を開示することは差し控えさせていただきます。

③LIXILの経営陣は、4月の問題発覚までJoyouのコーポレートガバナンスに欠陥があるという認識や疑いを一切持たなかったのでしょうか?GROHEは13年にJoyouを子会社化した後もCFO(最高財務責任者)を派遣しないなど、中国でのM&Aの常識を逸脱したガバナンスを続けていました。また、中国の国内報道や一般従業員の声に耳を傾ければ、遅くとも14年秋までにJoyouが資金繰りに行き詰まっていた事実を知るのは容易だったはずです。にもかかわらず、仮にLIXIL経営陣が何の疑いも持たなかったとしたら民法第644条の善管注意義務違反にあたり、役員としての資質不足は明らかです。反対に、疑いを持ちながら見て見ぬふりをしたのだとしたら背信行為です。実際はどちらだったのですか?

<LIXIL回答>2015年4月のGROHE及びJoyouの連結子会社化が行われる前、2014年1月よりGROHE及びJoyouは当社の持分法適用関連会社でした。そのため、Joyouに対する直接的な支配権は限定されていました。

今回の調査では、当社の経営陣は、Joyou に関する問題を本件不正行為の発生のおそれを認識させるような態様で認識していたとは認められないと判断されています。

④「調査結果の概要」によれば、GROHEおよびLIXILの経営陣が「不正行為を知っていた、または意図的に行っていたという証拠は見られなかった」とのことですが、これは「具体的証拠はないものの、不正行為を知っていた、または意図的に行っていた可能性も排除できない」と読み替えられます。そう理解してよろしいですか?否定される場合は具体的反証をお願いします。

<LIXIL回答>当該理解は異なります。今回の調査では、日本はもちろんのこと、中国のみならず、香港、ドイツ、ルクセンブルグ、英国等の複数の国にわたって実施されました。調査の一環として、835,000を超えるemail等のやりとり及び文書が複数の言語によって検証され、LIXIL/GROHE 内外の70人を超える関係者に対してインタビューが行われました。その結果、GROHEまたは当社の経営陣が不正行為を知っていた、かつ意図的に行っていた、という証拠は見られなかったという結論が下されています。

⑤今回の社内処分に伴う役員報酬の減額の総額はいくらでしょうか?

<LIXIL回答>本件では、様々な国々におけるプライバシーや法律に配慮しなければならず、 現時点で具体的な数字を開示することは差し控えさえていただきます。

⑥以上の経緯や事実関係から考えて、社内処分をわずか3カ月の減俸で済ますのは誰が見ても大甘と言わざるを得ません。少なくともHanes氏とMulvin氏の更迭は当然と思われますが、なぜそうしないのですか? 理由を具体的に説明してください。

<LIXIL回答>調査により、不正行為を GROHE 又は当社の経営陣が実際知っていたという証拠は見つかっていないことに加え、Joyouの会計不正についてもっとも批難される べきは、Cai親子であることが明確にされています。Haines氏含めGROHE経営陣の経営者としての資質、経営力につきましては、これから社内の評価プロセスの中で十分に判断していきたいと考えています。

Ⅳ. GROHEおよびLIXILの 経営の透明性について

GROHEの経営陣(Hanes氏とMulvin氏)は、Joyouのコーポレートガバナンスに問題があることを認識しながらLIXILに報告しませんでした。「調査結果の概要」で公表されたこの事実は、GROHEおよびLIXILの経営の透明性を考えるうえで極めて重要です。GROHE経営陣はJoyou以外の子会社や事業に関しても問題を認識しながら報告していない可能性を排除できないからです。

TPGとCredit Suisseは2004年にGROHEを買収した際、それをLBO(レバレッジド・バイアウト)で行いました。その結果、GROHEは11億ユーロを超える負債を抱えることになり、14年 に償還期限を迎える高金利の社債発行によってファイナンスしました。つまりTPGとCredit Suisse、両社の合意の下でGROHEの 経営トップに送り込まれたHanes氏らは、14年までに是が非でもGROHEの 企業価値を高め、IPOや身売りによって社債の償還原資を確保する必要に迫ら れて いました。以上の前提で質問します。

①Hanes氏は04年にGROHEトップに就任し た後、新興国市場での積極的な事業拡大を通じてGROHEを成長させ、Joyou買収はその象徴でした。GROHEの コーポレートガバナンスはJoyouに対してと同様、中国以外の新興国事業で もず さんなのではありませんか?Joyou問題の発覚後、LIXILはGROHEの中国 以外 の新興国事業についても調査を行いましたか?

<LIXIL回答>GROHE のガバナンスがずさんであるという事実は認識しておりません。また、当 社では、今回の反省を下に、海外子会社等の管理に関する取組みを強化してお り、(1)管理部門による海外子会社等の管理・モニタリングシステムの強化、(2)グローバル体制を前提とした内部監査部門の整備、(3)海外子会社を 含めたコンプライアンス意識の向上ならびにコンプライアンス体制の再整備及 び強化、及び(4)グローバル企業としての役員研修の強化を進めております。

②GROHE経営陣(Hanes氏とMulvin氏) がJoyouのコーポレートガバナンスに問題があることを認識しながら報告しなかったのな ら、TPGとCredit Suisseも同様の認識を持ちながらGROHEの企業価値をつり上げるために見て見ぬふりをし、LIXILによるGROHE買収時にも口をつぐんでいたのではありませんか?これに関してTPGとCredit Suisseに損害賠償を求める考えはありますか。

<LIXIL回答>調査結果に基づき訴訟戦略全般につき検討中です。

③Hanes氏はJoyou問題に関して重大な経営責任があるにもかかわらず、現在もGROHE会長に留まっています。それどころか、今年4月からはLIXILのLWTカンパニーのトップに起用され、GROHE以 外の海外事業も広範に任されて権限が拡大しています。これではLIXILの海外事業の透明性はむしろ低下していると受け取られても仕方がないのではありませんか?このままでは、藤森社長を始めLIXIL経営陣もまた、海外事業に内在する問題を認識していながら株主に隠していると疑われても仕方がないのではありませんか?否定される場合は具体的な反証をお願いします。

<LIXIL回答>調査により、不正行為をGROHE又は当社の経営陣が実際知っていたという証拠は見つかっていないことに加え、Joyouの会計不正についてもっとも批難されるべきは、Cai親子であることが明確にされています。Haines氏の経営者としての資質、経営力につきましては、これから社内の評価プロセスの中で十分に判断していきたいと考えています。

④御社は特別調査委員会の提言を受け、グループのガバナンス体制の改善策を打ち出しました。しかし経営陣の処分は大甘、人事も刷新しないというのでは「仏作って魂入れず」です。改善策が十分機能せず、Joyouと同様の問題がまた起きる可能性があるのではありませんか?否定される場合は具体的な反証をお願いします。

<LIXIL回答>今回の調査結果により、当社の経営において、より一層強化すべき3つの分野が特定されました。それは、海外子会社の管理、M&Aプロセス、および買収後の統合プロセスです。当社はこれらの提言を真摯に受け止め、確実に対応していくことで、すべてのステークホルダーの皆様への信頼回復に努めてまいります。



もちろん、弊誌はこんな回答におめおめ引き下がるわけにはいかない。この回答に対し再質問状を送った。それは次回に。まだまだFACTAとLIXILの攻防は続く。

年収3億円「LIXIL藤森」の墜落1

FACTAはちょうど10年前の12月、雑誌創刊に先立ち、このブログをスタートさせて、たちまちサーバーがパンク、まったく無名でまだ影も形もなかった月刊誌として異例のスタートを切った。そのときの標的がソニーである。まだエクセレントカンパニーの残照があった時代だが、たちまち化けの皮がはがれて高禄をはむストリンガー会長が退陣にいたったことはご承知の通りだ。

そして10年目、FACTAはまた首級をあげた。住宅設備大手LIXILグループの藤森義明社長(64)である。彼もまた米GE上席副社長、日本GE会長の肩書をひっさげて、5年前にLIXILの前身、住生活グループの社長に起用された。年収は3億円(14年時点の東京商工リサーチ調べで2億9500万円)というから、ストリンガーほどではないが、高禄経営者の右代表だろう。

FACTAが撃ち落とす相手として不足はない。で、初心に帰って、ブログでこの「イカモノ経営」をとことん裸にするチャレンジを再開することにした。会見でも精いっぱい見栄を張っていた藤森社長に贈る、ささやかなクリスマス・プレゼントにしよう。

ご承知のとおり、LIXILは12月21日午後、突然、社長交代をリリースした。同日の役員会で指名委員会が藤森の後任に住友商事出身の建設資材通信販売会社、モノタロウの瀬戸欣也会長(55)を指名したと発表したのである。正式には来年6月の株主総会を機に交代、藤森氏は代表権のない相談役に退く。寝耳に水である。

弊誌最新号(16年1月号)は「藤森LIXILが姑息な『隠蔽』」の記事を掲載したばかりだから、ジャストタイミングだった。弊誌は15年7月号から中国子会社で大損した藤森LIXILを徹底追及、子会社のある中国福建省の南安市侖蒼(ルンツアン)鎮まで記者を派遣し現地取材した日本で唯一のメディアなのだ。凱歌をあげる資格はあると思う。弊誌がどこまで追っていたかは弊誌の以下の記事を参照されたい。

15年7月20日号中国で大火傷「LIXIL藤森」更迭も
15年8月20日号怪しすぎる「LIXIL丸損」
15年9月20日号LIXIL陥れた中国「魔窟」

さて、今号は11月16日に弊誌を外して行った会見とリリースで、特別調査委報告をたった700字に圧縮、詳細は訴訟対応で明かさないとした藤森LIXILを徹底糾弾した内容である。その取材の過程で、LIXILに送った質問状をまず紹介しよう。過去に藤森を礼賛した日経も朝日も、いかに雑な取材で藤森の鼻毛を撫でていたかの反面教師として、われわれの取材の徹底性を示しておく意味があると考える。



Joyou問題の調査結果に 関する取材のお願い



ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫



お世話になってお ります。先日来、御社が11月6日 に発表したJoyou問題の調査結果に関して藤森義明社長兼CEOへのインタビューをお願いしておりましたが、ご対応いただけないのは甚だ遺憾です。Joyou問題は損失の巨額さもさることながら、御社のグループ・ガバナンスのずさんさや経営の透明性の欠如など看過できない企業体質を浮き彫りにしたと考えざるを得ません。

つきましては下記の質問にご回答いただきたく、お願い申し上げます。


Ⅰ. 特別調査委員会報告書の非公表について

御社は11月16日に『Joyou問題に関する調査結果について』と題したIR(投資家向け広報)を発表し、一部報道機関への記者会見を行いました。弊誌は記者会見には招かれませんでしたが、これまでの経緯から当然、特別調査委員会の報告書が公表されるものと考えておりました。ところが報告書の「全文」はおろか「要約」さえ出さないと聞き、御社の情報開示姿勢に大きな疑問を感じています。非公表の理由について改めて質問します。

①御社は6月8日付IR『当社海外子会社における不適切な会計処理に関する調査経過について』のなかで、 川口勉社外取締役を委員長とする特別調査委員会を設置し「調査結果が明らかになった段階で速やかに公表いたします」と公約しました。また、それに先立つ6月3日の記者会見で、藤森社長は「調査結果をタイムリーかつ透明性のある方法でお伝えしていく」と明言しています。これらの約束と報告書の非公開は明らかに矛盾しますが、その場しのぎの虚言だったのですか?

②弊誌の問い合わせに対し、 御社は報告書を公開しない理由を「係属中の訴訟を含め損害回復措置に極めて重要な秘密情報が含まれているため」と説明しました。しかし、報告書からそれらの秘密情報を削除したうえで公表するのは不可能ではないはずです。なぜしないのですか?また、11月16日付IRでは報告書を公表しないという事実も、その理由もまったく明らかにしていません。 これで株主への説明責任を十分果たしているとお考えですか?


Ⅱ. 11月16日付IRの 「調査結果の概要」について

Joyou問題については藤森社長を委員長とする社内調査委員会と、社外取締役および外部有識者による特別調査委員会が同時並行で調査・検証を進めました。株主にとってより重要なのは当然ながら後者の内容です。ところが11月16日付IRの「調査結果の概要」では、社内調査委員会と特別調査委員会がそれぞれどのような見解を示したのかが極めて不明瞭です。

①「社内調査委員会による調査では、Joyouの会計不正についてもっとも批難されるべきは、Joyouグループの創業者であるCai親子であるという結論が下されました」とありますが、特別調査委員会の結論も同じだったのですか?その場合、報告書に書かれた結論の具体的文言を教えてください。

②「GROHE又はLIXILの経営陣が不正行為を知っていた、または意図的に行っていたという証拠は見られなかったという結論が下されました」とありますが、特別調査委員会 も同じ結論だったのですか?その場合、報告書に書かれた結論の具体的文言を教えてください。

③「GROHEの経営陣は、Joyouに十分な内部統制、コーポレートガバナンスポリシー、及び財務報告が欠けていたことを認識していた」とありますが、GROHEの経営陣がそのような認識を持ったのはいつからですか?また「彼らは対応を試みました」とありますが、いつ頃、どのような対応を試みたのですか?また、蔡親子はそれを拒否したという意味ですか?

④「Joyou問題委員会の調査報告書では、LIXILに 対してこの報告を早い時期に行うべきであったと結論づけています」とありますが、社内調査委員会でも同じ結論に至ったのでしょうか?

Ⅲ. GROHEおよびLIXILの 経営陣の責任について

JoyouはもともとGROHEが買収した企業です。最初の出資はJoyou がドイツのフランクフルト証券取引所に上場する前年(2009年)でした。中国の未公開企業への投資リス クが極めて高いことは言うまでもありません。また今回、御社の社内処分の対象となったDavid Hanes氏とGerry Mulvin氏は、04年のTPGとCredit SuisseによるGROHE買収にともなって経営陣入りし、09年のJoyou出 資およびその後の子会社化を主導する立場でした。11年からMulvin氏はJoyou取締役、Hanes氏はJoyou監査役会副議長をそれぞれ務め、Joyouの経営を日常的に監督すべき地位にありました。以上の前提で質問します。

①「調査結果の概要」によれば、GROHEの経営陣は「Joyouには十分な内部統制、コーポレートガバナンスポリシー、及び財務報告が欠けていたことを認識していた」にもかかわらず、今年4月に問題が発覚するまでLIXILに報告しませんでした。認識がありながらなぜ報告しなかったのですか。社内調査委員会および特別調査委員会のヒアリングに対し、Hanes氏とMulvin氏はどのように釈明したのですか?

②グループの構造や過去の経緯、そして「問題を認識しながら報告しなかった」事実に鑑みれば、社内処分の対象となった役員のなかでHanes氏とMulvin氏の責任がひときわ重いのは自明です。報酬減額に伴うHanes氏とMulvin氏の減額幅は何%でしょうか?

③LIXILの経営陣は、4月の問題発覚までJoyouのコーポレートガバナンスに欠陥があるという認識や疑いを一切持たなかったのでしょうか?GROHEは13年にJoyouを子会社化した後もCFO(最高財務責任者)を派遣しないなど、中国でのM&Aの常識を逸脱したガバナンスを続けていました。また、中国の国内報道や一般従業員の声に耳を傾ければ、遅くとも14年秋までにJoyouが資金繰りに行き詰まっていた事実を知るのは容易だったはずです。にもかかわらず、仮にLIXIL経営陣が何の疑いも持たなかったとしたら民法第644条の善管注意義務違反にあたり、役員としての資質不足は明らかです。反対に、疑いを持ちながら見て見ぬふりをしたのだとしたら背信行為です。実際はどちらだったのですか?

④「調査結果の概要」によれば、GROHEおよびLIXILの経営陣が「不正行為を知っていた、または意図的に行っていたという証拠は見られなかった」とのことですが、これは「具体的証拠はないものの、不正行為を知っていた、または意図的に行っていた可能性も排除できない」と読み替えられます。そう理解してよろしいですか?否定される場合は具体的反証をお願いします。

⑤今回の社内処分に伴う役員報酬の減額の総額はいくらでしょうか?

⑥以上の経緯や事実関係から考えて、社内処分をわずか3カ月の減俸で済ますのは誰が見ても大甘と言わざるを得ません。少なくともHanes氏とMulvin氏の更迭は当然と思われますが、なぜそうしないのですか? 理由を具体的に説明してください。


Ⅳ. GROHEおよびLIXILの 経営の透明性について

GROHEの経営陣(Hanes氏とMulvin氏)は、Joyouのコーポレートガバナンスに問題があることを認識しながらLIXILに報告しませんでした。「調査結果の概要」で公表されたこの事実は、GROHEおよびLIXILの経営の透明性を考えるうえで極めて重要です。GROHE経営陣はJoyou以外の子会社や事業に関しても問題を認識しながら報告していない可能性を排除できないからです。

TPGとCredit Suisseは2004年にGROHEを買収した際、それをLBO(レ バレッジド・バイアウト)で行いました。その結果、GROHEは11億ユーロを超える負債を抱えることになり、14年 に償還期限を迎える高金利の社債発行によってファイナンスしました。つまりTPGとCredit Suisse、両社の合意の下でGROHEの 経営トップに送り込まれたHanes氏らは、14年までに是が非でもGROHEの 企業価値を高め、IPOや身売りによって社債の償還原資を確保する必要に迫ら れて いました。以上の前提で質問します。

①Hanes氏は04年にGROHEトップに就任し た後、新興国市場での積極的な事業拡大を通じてGROHEを成長させ、Joyou買収はその象徴でした。GROHEの コーポレートガバナンスはJoyouに対してと同様、中国以外の新興国事業で もず さんなのではありませんか?Joyou問題の発覚後、LIXILはGROHEの中国 以外 の新興国事業についても調査を行いましたか?

②GROHE経営陣(Hanes氏とMulvin氏) がJoyouのコーポレートガバナンスに問題があることを認識しながら報告しなかったのな ら、TPGとCredit Suisseも同様の認識を持ちながらGROHEの企業価値をつり上げるために見て見ぬふりをし、LIXILによるGROHE買収時にも口をつぐんでいたのではありませんか?これに関してTPGとCredit Suisseに損害賠償を求める考えはありますか。

③Hanes氏はJoyou問題に関して重大な経営責任があるにもかかわらず、現在もGROHE会長に留まっています。それどころか、今年4月からはLIXILのLWTカンパニーのトップに起用され、GROHE以 外の海外事業も広範に任されて権限が拡大しています。これではLIXILの海外事業の透明性はむしろ低下していると受け取られても仕方がないのではありませんか?このままでは、藤森社長を始めLIXIL経営陣もまた、海外事業に内在する問題を認識していながら株主に隠していると疑われても仕方がないのではありませんか?否定される場合は具体的な反証をお願いします。

④御社は特別調査委員会の提言を受け、グループのガバナンス体制の改善策を打ち出しました。しかし経営陣の処分は大甘、人事も刷新しないというのでは「仏作って魂入れず」です。改善策が十分機能せず、Joyouと同様の問題がまた起きる可能性があるのではありませんか?否定される場合は具体的な反証をお願いします。

以上です。弊誌の 締切の都合もございますので、12月4日(金)までにご回答をお願いします。

2015年11月27日



これに対するLIXILのまるで誠意のない回答は次回に。