EDITOR BLOG

最後からの二番目の真実

「朝日新聞の『某重大事件』」の背景1

朝日新聞および朝日新聞出版の代理人、秋山幹男弁護士から1月27日付の「通知書」をいただいた。本誌が最新号に掲載した「朝日新聞の『某重大事件』」に対する抗議と訂正要求である。それをこのブログに掲載する予定だが、いきなりでは読者でない方々には分からないと思うので、正月明けに本誌が両社広報に送った質問状から順次載せていこう。


朝日新聞社
朝日新聞出版
広報担当者御中

AERA記者退職についての質問状

ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫

拝啓

初春の候、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。弊誌は調査報道を中心とした月刊誌で、オリンパス報道でもご承知かと存じます。昨年来、大相撲の野球賭博でも名前のあがりました日大相撲部出身者の取材を進めているなかで、この疑惑に関連して御社の週刊誌AERA記者が民族団体の取材中にトラブルが生じ、昨年3月に退社したとの情報を得ました。12月27日には著名ブロガーがこの件について「週刊AERA記者が美人局にひっかかったらしく、朝日新聞と標榜右翼が師走を暴走」とのブログをネット上で公開したことはすでにご存じと思います。当局ではすでに周知の事実のようですが、弊誌は御社に事実関係を確認したく、お忙しいところ恐縮ですがお尋ねする次第でございます。

そのあらましは以下の通りです。

1) 弊誌が当局などから取材したところによりますと、S記者は取材経験が浅く、D代表代行などとの接触によりトラブルに巻き込まれたとのことですが、そもそもはなぜ、誰が、何の目的で取材を命じたのでしょうか。

2) 朝日新聞および朝日新聞出版がこのトラブルを知るところとなったのは、相手側から朝日新聞出版に届いた抗議の文書だったとのことですが、その内容はどのようなものでしたか。

3) 朝日新聞および朝日新聞出版では、その時点でD会が警察当局から「反社会的勢力」との認定を受けていると認識し、恐喝の可能性があると考えましたか。そのうえでどのようなトラブル解決法を実施したのでしょうか。

4) 弊誌の取材ではD会の代表代行がこのトラブルに至る過程で深く関与しており、単なる男女間の個人的なもつれではなく、意図されたものと疑える事実があったにもかかわらず、警察への被害届を出さず、記者個人の謝罪文と謝罪金の支払いで済ませることはコンプライアンス上問題があると考えませんでしたか。

5) 弊誌の取材でも、上記のブログでも、池口恵観師インタビューなど民族団体関連の記事を度々書いているAERA元副編集長がこの件に関与したとされています。1987年の阪神支局襲撃事件(赤報隊事件)、93年の野村秋介事件以来、民族団体に対し朝日はいかなる情報収集と対応策をとってきたのでしょうか。

6) 秋山耿太郎社長ら朝日新聞本社幹部はどのように対処したのでしょうか。トラブルが明るみに出た時期は、読売新聞の内山斉社長退陣が確実とされた時期でもあり、秋山社長の日本新聞協会会長就任の妨げになるとの危惧が社長室にはありましたか。

7) 2015年まで2期4年の協会長を務める予定の秋山社長は今年、代表取締役会長に就任する意思を内々漏らし、昨年失敗した社主、村山美知子氏の養子が決まるまで辞めるわけにいかないとのお考えとのことですが、事実でしょうか。

以上でございます。大変恐縮ですが、弊誌の締切もありますので、来週1月12日(木)までにご回答をいただければ幸いでございます。できれば、朝日新聞取締役(出版担当兼社長室長)粕谷卓志氏、朝日新聞出版社長の宇留間和基氏、同コンプライアンス担当の高橋和志氏、AERA編集長(1月10日から前編集長)の尾木和晴氏、同記者の藤生明氏と大鹿晴明氏に取材させていただければ幸いです。もしスケジュール調整がつかないようであれば、メールまたはFAX、あるいは郵送などによる文書回答でも構いません。

よろしくご一考のほどお願い申し上げます。 敬具


1月6日


これに対する朝日側の回答は1月10日に届いたが、なかなか強硬なものだった。まず朝日本体から。

ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫殿
朝日新聞社広報部
部長中邨清一

冠省

貴殿から朝日新聞社広報担当者宛ての2012年1月6日付「AERA記者退職についての質問状」を受領しました。以下の通り回答します。

株式会社朝日新聞出版発行の週刊誌「AERA」記者の退社に関してご質問をいただきました。同記者は、当社とは別会社の朝日新聞出版が採用した社員であり、その退社については朝日新聞出版が対応しました。朝日新聞出版に関する他の質問事項についても、同社から貴殿に回答sると承知しています。

なお、ご質問の「6)」の中に、同記者の退社と日本人分教会人事を関連付けたお尋ねがありますが、当社の秋山耿太郎社長ら幹部が同記者の退社について何らかの「対処」をした事実はありません。

同記者が退社したのは3月である一方、日本新聞協会の内山斉・前会長が協会長退任の意向を表明したのは4月下旬です。従って、同記者の退社をめぐって当社の車緒汁が「秋山社長の日本新聞協会会長就任の佐俣紅なるとの危惧」を抱くはずがありません。

また、ご質問の「7)」で指摘されたような事実は一切ありません。

以上の通り、貴殿は著しく誤った憶測に基づいて質問されており、ご指名の当社関係者が貴殿の取材をお受けする必要はないと考えます。

当職が本書面で貴殿の質問の誤りを明確に指摘したにもかかわらず、貴誌が当社およびその関係者の名誉、プライバシーを侵害する記事を掲載した場合は、断固たる措置を講じます。決して事実に反する記事を掲載しないよう強く求めます。草々


ひとこと添えよう。読売新聞の内山社長が渡邉恒雄・読売新聞本社グループ会長兼主筆の逆鱗に触れて協会長を退くのではないかとの観測は、前年の秋から流れていた。本誌も10年9月号で報じている。ライバル紙の動向に注視を怠らない朝日社長室がそれを知らないはずがない。

だいたい、秋山社長自身、電通の故成田豊最高顧問とともに、ナベツネ、内山と席を囲み、ふたりの間のただならぬ緊張を目にしていたはずである。それを知らぬは広報部長ばかりなりだ。こんな自信たっぷりに「危惧を抱くはずがありません」などと断言すると、朝日の情報力を疑われますよ。

ともあれ、この返答により誰にも取材させてくれないことが分かった。同日、回答はもう一通届いた。朝日新聞出版からである。それは次回に。


岩下尚史『ヒタメン』――半玄人の告白

いまどき、江戸・明治風の擬古文など綴る人はめったにいない。ゆくりなく、とか、疝気筋、とか、後生楽、とかをつかう作者(岩下尚史)は、わざとらしいと言われるのは承知の上なのだろう。その文章修業、さしずめ泉鏡花あたりに属魂だった時期があるにちがいないと見た。

風姿花伝に言うとおりである。「よきほどの人も、ひためんの申楽は、年寄りては見られぬもの也」。なるほど、岩下氏も例外にあらず。長く住む三軒茶屋の人に聞けば、昔は白皙の美青年だったけれど、ちかごろはちょっとお肥りになって、だそうな。

が、文章は脂がのっている。芸者論とその続編の名妓の資格は、いまは亡きワンダーランドの楽しみを満喫させてくれた。そのあとの駄作の小説紛いはひょいと跨ぐとして、「三島由紀夫若き日の恋」の副題のついた今度の『ヒタメン』は、これまためったにお目にかかれない、というより羨ましいインタビュー本である。

座談の名人というのがいる。噺家ではない。昔なら漫画家の近藤日出造、大宅壮一あたり。今はさあ、どこぞに、という塩梅だが、インタビュイーを喋る気にさせる、そそのかしの才は、文章の才と同じく天賦のものと言うほかない。

岩下氏も自覚しているように、天は二物を与えず、とやら。彼の文章の才は技巧が先走って嫌味が鼻につくが、三島結婚前の幻の「X嬢」の口を開かせたそそのかし、これは尋常ではない。というより、その秘密(三島の秘密ではない)を覗きたい一心で読みとおした。

ジャーナリストがいかに嫌われ者かは、ガマ面の都副知事が、歯牙にもかけられなかったことでよくわかる。金田中や若林、伊勢半やゑり萬など固有名詞の注は、むろん素人にはありがたいが、花柳界や梨園にちょっと詳しいくらいで、どうしてオトせたのか。これはジャーナリストのプロも虚心坦懐、腰を低くして学びたい。

ヒントは49ページにある。いや、速読したいなら、そこから読むべきである。三島の『沈める瀧』の冷感症の主人公、顕子を評した、平林たい子の寸鉄人を殺す評がある。



だけども、あの女の部分は、第一、どんな女か、女が読めば判りませんよ。水商売の女か、つまりクロウトかシロウトか、全然判りませんよ。



赤坂の料亭若林の娘で、ふだんから芸者衆と親しく、歌舞伎役者の楽屋にも出入りして、想像を絶する着道楽の世界で何不自由なく育った“半玄人”の恋人をモデルとしたから、無理もないこと、というのが岩下氏の見立てである。本人の文章を引こう。



『仮面の告白』以来、“女嫌い”を看板の小説家が、自己変革を遂げるために、“運命愛”の相手として見出した貞子さんが、“おんな”のなかでも希少なる“半玄人”であったことは、三島由紀夫にとって、まさに“千載一遇”の女人であったにちがいない。



ここで巻を置いてもいい。あとは「目の下一尺の鯛」を釣るかわりに土左衛門を拾う、落語の「骨つり」のようなものだ。三島の片思いの残骸をがさごそ漁るだけである。

しかし、幼稚園から白百合育ち、慶応女子高を出て、あとは花嫁修業のこの十九歳の娘。待合の世界で育っただけに、落魄の貧乏官吏の息子で、筆一本で一家を支えていた作家を手玉にとるくらい、朝飯前のしたたかな女だったと思える(金田中あたりで知ったかぶりすると、どんなに恥をかくか、しっかり徳子ママに教えてもらおう)。

白百合?慶応?と聞いて、娘時代にさんざん遊んでも、いつのまにかお金持ちの令夫人に収まる怜悧な女たちを思い浮かべた人がいた。3年間、付き合っても結婚する気などさらさらなく、ふっと理由も分からず会わなくなる。



それにね、これは申し上げにくいんですが、当時のわたくしの胸の内を思い返しますと、公威(三島)さんがあれほど打ち込んで、わたくしを大切に想って呉れていたほど、こちらのほうでも恋していたかと申しますとね、正直、それが一寸あやしいんです。(中略)ちょうど小学生が朝になれば顔を洗って、鞄を提げて学校に通うのと同じよう……



三島はフラれたのである。やがて画家杉山寧の娘と見合い結婚し、その不毛に直面した三島が、別の男と婚約していた貞子と、日比谷のアメリカン・ファーマシーで出逢う場面は残酷すぎる。けれども、それを語っているのが、背を向けて立ち去った貞子なのだ。

岩下とのインタビューで、一度も三島を悪く言わなかったという。が、こうして秘密を明かすことは、夫も死んだから何ともないのだ。人生も終り近くなって明かしたくなったのだろう。『天人五衰』の終章を思い出す。膵臓癌を患った本多は、月修寺で八十三歳の門跡、聡子に対面する。彼女は男を覚えていない。「それも心々ですやさかい」と言われて、本多は茫然と夏の庭をみつめる。



この庭には何もない。記憶もなければ何もないところへ、自分は来てしまったと本多は思った。



忘却のほうがまだましだった。聡明なる岩下氏は、なぜ打ち明け話の相手役に指名されたか、いまは透けて見えるはずだ。己れをただの着飾った性悪女と見せない、もうひとりの心酔者が必要だった。しかも、男でもなく、女でもなく、無害な「両棲類」を。

大雪の緋チリメン

私は生前の三遊亭圓生にただ一度、インタビューさせていただきました。それがなんと、私が新聞記者になって初めての取材でした。

中野坂上に近いマンションを訪ね、ドアを開けたら奥様がソファに寝ていらした。落語家は長屋に住んでいるものと思っていたので、思わずうふっと思いました。

でも、それから先は厳しいの一語。何を聞いても(トンチンカンな質問で、師匠、ごめんなさい)、フン、てな顔でした。以来、私は記者の才能がない、とコンプレックスになりました。


でも、師匠の「松葉屋瀬川」を聞いて、思わず涙したのです。あの若旦那が、朝から雨が降って、やきもきして、ついに雪になり、そして八つ(午前2時)に廓から籠が着き、武家仕立ての客がさっと衣を脱ぐと緋縮緬(ちりめん)。待ちかねた花魁。善治郎が階段から転げ落ちて「あ、痛い」「会いたかった」の洒落は最高でした。

きょうも大雪。思わず「雪や、こんこん」と歌ってしまいますが、FACTAも緋縮緬を見せたいと思います。

Express FACTA

まだ試作品ですが、第一号は「政々堂々」の長谷川幸洋さんにお願いしました。本日、定期購読者限定でメールマガジンを配信いたします。ぜひ、お読みください。

東証の出来レース

ブラックアウト期間が終わってすぐ、東証自主規制法人がオリンパスの上場維持と上場契約違約金を発表した。予想通りで何の意外性もないが、結論先にありきだったことの釈明が何もないのでひとこと言いたくなった。

12月の産経を筆頭に大手新聞紙上で何度も事前に報じられ、そのたびに「一部報道は東証の発表したものではない」とのエクスキューズのリリースを1月10日13日18日19日20日に5度も出している。そして、事前報道とぴったり同じ発表をしたのだから、滑稽だと思わないのだろうか。

誰かがリークしたと考えるのが筋だろう。東証の上場部も広報も、単に責任逃れでこんな白々しいリリースを出しただけなのだ。自主規制法人の5人の理事による議論が始まる前からの情報漏れは、おひざ元の東証事務方からである可能性がもっとも大きい。理事の顔触れはこうだった。

東証自主規制法人理事長林正和(元財務次官)
同常任理事武田太老(元東証)
同常任理事美濃口真琴(元東証)
理事(外部、非常勤)藤沼亜起(元日本公認会計士協会会長)
理事(外部、非常勤)久保利英明(元日本弁護士連合会副会長)

最初からプロパー出身が二人もいる。東証の退場審査がユルユルで、幾多のハコ企業を黙認してきたが、その問題の上場審査部門の当事者だったのだから、そもそも資格がないと言っていい。

本誌は鳴り物入りで東証に上場した中国株、チャイナボーチー、新華ファイナンス、アジア・メディアがいずれもインチキ企業であることを誌面で追及してきたが、08年に上場廃止となったアジア・メディアを除き、残る2社についてはいまだに音沙汰なしで泳がせている。東証や幹事証券、監査法人への責任追及を恐れて及び腰だった彼らが、オリンパスに厳罰を食わせたら天に唾するようなものだろう。

理事長の林氏にいたっては、株式会社後の財務省(大蔵省)天下りポスト確保が最大の使命であり、もとから何もしない腰掛けだった。中国株の処分についても、本誌は本人に直に質したことがあるが、「うちがやることには限界があって」と言い逃れに終始していらした。

林さん、胸が痛まないのか。自主規制法人の名がおこがましい。これは歴史に残る「お手盛り」決定であり、本誌は「日本の資本市場を三流にした張本人」としてあなたを断罪する。

政府と事務方が上場維持の結論を導こうとすれば、最初から天下り票1、民僚票2の「基礎票」が3票は確保されていて、民間票は2票しかないから、いとも容易なことはよくわかるだろう。もとから、そういうからくりなのだ。そこに判断を委ねた段階で、もう勝負あったと言える。

しかも知り合いだから書きにくいが、民間票のうち藤沼氏は新日本監査法人出身。新日本はオリンパスの監査法人であり、調査委員会を設けて責任逃れに必死の当事者だから、議論しにくい立場にある。これが取締役会なら、当事者ゆえに資格なしとして外されてもおかしくない。

構造的に「結論先にありき」を許す構成なのは、霞が関の審議会の常套手段であり、社長のイエスマンだけで異論が出ないようにしてきたオリンパスの取締役会や監査役会などと、まったく同じなのだ。オリンパスのガバナンスを云々する資格が、東証の自主規制法人にはない。

だから、リークが起き、コップの嵐のような新聞の報道合戦が起きる。飼い犬根性の記者たちが、出来レースのなかで踊ってみせる光景には、吐き気を催す。

記者諸君、恥ずかしくないのか。後ろをふりむいたエミールは、探偵たちが誰もついてこないと知って、いたく落胆しています。

上場維持と同時に発売した本誌は、オリンパスの法律顧問だった大手法律事務所、森・濱田松本法律事務所の責任を追及する記事を掲載しました。取締役も監査役も社内委員会が責任を追及し、監査法人に関してもあずさ、新日本のそれぞれが責任の有無を議論されているのに、法律事務所がカヤの外でいるのは不思議だからです。

そこで森・濱田に送った質問状を公開します(ただし第8問については、本誌の勘違いがあり、弁護士の固有名詞が出てくるので、ここでは省略いたします)



森・濱田松本法律事務所
広報担当御中

オリンパス問題についての質問

ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫

拝啓

時下、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。さて、ご承知のようにオリンパスの不正経理問題については、弊誌の報道がきっかけになり、1月10日には取締役責任調査委員会の報告、および同社による現旧取締役に対する損害賠償請求訴訟の提起が発表されました。そこでオリンパスの法律顧問だった森・濱田松本法律事務所にも、この件についてのご見解を求めたいと存じ、お忙しいところ恐縮ですが、以下の8点についてお尋ねしたいと考えております。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。

1)事件発覚後、貴事務所はオリンパスの法律顧問を辞したとのことですが、この事実確認と、なぜ顧問を辞したかをお聞かせください。またオリンパスにアドバイスしていた宮内隆弁護士と高谷知佐子弁護士の責任をどうお考えですか

2)昨年12月16日にオリンパスの第三者委員会が発表した報告書では、10項目にわたって事件が発生した原因を分析していますが、法律顧問としての責任を貴事務所はどう考えていらっしゃいますか

3)一連の損失先送り目的のM&Aが審議された取締役会では、法律顧問として何をアドバイスしていたのでしょうか。なぜ、国内3社のM&Aについてオリンパスに開示させなかったのでしょうか

4) 英国ジャイラスのM&Aにあたって売買契約書を作成したのは米弁護士事務所ワイル・ゴッチャルですが、オリンパスに紹介したのは貴事務所でしょうか

5)第三者委員会に協力した須藤・高井法律事務所、デロイトトーマツFASなどの法律事務所やコンサルティング会社は、日ごろから貴事務所とM&Aの資産査定や案件紹介などで協力する親密先ではないのでしょうか

6)08年から10年にかけてジャイラスに関連する取締役会は毎回10-30分程度で終了しています。08年2月8日に開いた取締役会でも、問題の国内3社の子会社化が審議されていますが、審議時間は75分にすぎません。米国など海外の企業では、「取締役として十分に情報を収集しなかった」と善管注意義務違反で取締役責任が問われるケースにあたりますが、法律顧問の貴事務所が指導した形跡がないのはなぜでしょうか

7)ウッドフォード元社長は昨年10月11日に「当社のMA活動に関する深刻なガバナンスの問題」と題したプライスウォーターハウス・クーパース(PWC)による不正調査書を菊川前会長ら首脳陣に加え、貴事務所の宮谷弁護士にも送っています。宮谷弁護士はこれを受けてどのような行動をとったのでしょうか

8)=略

質問はあらまし以上です。弊誌の締切もございますので、大変心苦しいのですが、できれば14日までに、遅くとも16日までにご回答いただければ幸いです。ファクス、メール、郵送、は直接インタビューでも構いません。ご一考のほどお願い申し上げます。敬具

1月11日



これに対する森・濱田サイドからの回答書は1月14日に書面でいただいた。以下の通り(ただし、第8問の回答については同じく省きます)




ファクタ出版株式会社
月刊FACTA発行人阿部重夫殿

森・濱田松本法律事務所

拝復

時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

貴殿からの2012年1月11日付「オリンパス問題についての質問」(以下、単に「質問書」といいます。)に対し、以下の通りご回答いたします。

まず、弁護士は法律上守秘義務を負っておりますので、オリンパス株式会社と弊事務所との関係等に関する具体的なご質問についてお答えすることができない点につきまして、ご理解をお願いしたします。

ただし、ご質問を拝見しますと、弁護士業務について誤った事実認識がおありのように思われますので、その点につき指摘させていただきます。

弁護士は、いわゆる顧問弁護士であっても、依頼者からの具体的な委任を受けてはじめてその業務を遂行する立場にあります。この点、取締役、監査役、会計監査人のような会社法に基づく権限・責任を有する会社の機関とは全く異なります。したがいまして、依頼者が具体的に依頼しない限り、顧問弁護士が取締役会に出席したり、取締役会の議案や議事運営について業務を行うこともなければ、M&A案件や契約等へのアドバイスを行うこともありません(これらについて情報を得る立場にもありません。)

この点、貴殿は、質問書記載のご質問に置いて、いわゆる顧問弁護士であれば、当然に依頼者の事業活動全般について把握し、取締役会の議案・運営や依頼者の行うM&A案件、各種契約等について、網羅的かつ継続的にアドバイスを行っていたはずだとの前提に立っておられるようですが、上記のとおり、これは弁護士業務についてのの誤った事実認識であります。したがいまして、かかる誤ったご認識のもと、貴誌が、あたかもオリンパス株式会社の不正経理問題について、弊事務所に責任の一端が認められるかのような報道記事を仮に掲載したとすれば、結果として事実に反する誤った報道がなされ、貴誌の信頼性を著しく損なうとともに、弊事務所の信用を不当に毀損する事態を招来しかねないことを、厳に指摘させていただきます。

冒頭にお書きした守秘義務の制約のため、遺憾ながら、ご質問に対してはこれ以上の具体的な回答ができませんが、オリンパス株式会社の不正経理問題について弊事務所ないしその所属弁護士の責任を云々される事実関係は一切ないものとの認識でおります。

以下略

本書面が、貴誌による今後の正確な報道の一助となれば幸甚です。
敬具



この回答に対し、それでも責任があったと本誌が考える根拠は今号の記事をお読みください。第7問のCCリストを写真で掲載し、それが解任前の代表取締役社長兼CEOからの「具体的な依頼」があったことを明示していると考えます。それを宮谷弁護士がなぜ無視したかを答える義務は、オリンパスへの守秘義務とは別問題ではないでしょうか。

閑話休題 ビクトリア・フォールズ

ブラックアウト期間中ですが、オリンパスの取締役責任調査委員会報告が出たので少しコメントします。

報告の111pにウッドフォード氏の指摘に対する取締役の反応が出てきます。弊誌を「信用性に乏しいタブロイド誌で、面白おかしく書いたいわゆるガセネタではないか」と評したそうです。さて、誰でしょうか。

閑話休題バンジージャンプのロープが切れて奇蹟的に生還したオーストラリア人女性のニュースについてひとこと。

かれこれ15年前になりますか、実は独りで出張取材中に小生もあの橋の上からジャンプしました。もともと高所恐怖症で、とてもあんなところは御免でしたが、青年協力隊の誰かにどうせ行くなら肝試しと言われて、無謀にも試みた次第です。いや、怖かった…。

テレビで見るようなジャンプ台はなく、当時は鉄板一枚の上を進んで、えいやっと飛び出すだけ。足がすくんで前に進まず、やめようと思ったら、カウントダウンで背中を突き飛ばされました。

心臓がとまるかと思い、一瞬、記憶喪失。ザンベジ川の彼方の空しか覚えていません。高さ110メートル、ジャンプ前に心臓発作や事故があっても賠償を求めない誓約書を書かされ、当時は1ジャンプ100ドルでした。

共同の記事ではワニの生息する川とありますが、そりゃもっと下流はそうかもしれないけど、橋の真下にワニが口をあけているわけではありません。これを書いた記者は、行ったことないのかもしれませんね。その数百メートル下流では、ラフティングをやっていて、小生もライフジャケットをつけて挑戦したぐらいですから。激流をパドルでかいてみごとに転覆。ボートの6人が投げ出される憂き目にあいました。

ま、アフリカで何をやってたのかしらん。ジンバブエはいまよりはまだ治安もよく、ボートで乗り合わせた白人夫婦に「どちらから?」と聞いたら、オーストラリアと言ってたので、南半球同士で来やすいのでしょう。

とにかく、あの高さから水面に落下して助かったなんて、信じられません。画面でみるたび、あのときの恐怖がよみがえってブルル。

映画『ミッション・インパッシブルゴースト・プロトコル』で、イーサン・ハントがブルジュドバイの高層階からガラス窓を外して、身を乗り出すシーンがありますが、ああいういたたまれなさ。胸が締め付けられ、血圧が上がります。

生還した女性、美人でしたが気が強そう。小生なら寝込んでしまうところです。ああ、altophobia!

株価でみると、オリンパスも上場維持で生還ですかね。

ウッドフォード元社長にひとこと

正月明けですが、例によって編集期間に入るので、しばらくブラックアウトに入ります。

このブログで年末に触れた菊川剛前会長兼社長に対するオリンパスの「隠れ家提供」は、読売新聞と朝日新聞が7日付で追いかけたようです。会社側は「第三者委員会の事情聴取に応じるため用意した」と提供を認めて弁明していると書いてありますが、川崎の自宅マンションからの往復にどんな支障があったのでしょうか。

さらに第三者委員会の聴取と、菊川氏が隠れ家に持ち込んだペット(どうやら猫らしい)代支払いにどんな因果関係があるのか、記者が突っ込んでくれていないのが寂しい。後追い記事を載せるなら、それくらい付加価値を付けないと。

ウッドフォード元社長がプロキシ―ファイト(委任状争奪戦)からの撤退を表明したこと、東京証券取引所の自主規制法人も上場維持を決める模様であること、高山修一社長ら経営陣10人に賠償請求すべきとの報告書がまとめられたことなどが報じられています。

これらはすでに12月から予想されていたことで、格別コメントするまでもないでしょう。幕引きを急ぐ政府、そして主取引銀行の意向が反映されるであろうことは、弊誌前号の「オリンパス『外資排除』工作」ですでに報道しました。今後の弊誌報道はこれら黒幕たちへ焦点を移すことになります。

オリンパス内外で醸成された「反ウッドフォード」の壁の前で、撤退を決めたウッドフォード元社長にひとこと。貴殿が取締役社長としてウィッスルブロワー(内部通報者)の役割を果たしたことは立派でした。「善管注意義務」という当たり前のことをしたにすぎないとはいえ、日本企業の大半でなおざりにされてきたことを浮き彫りにしました。

それはオリンパスがいかに誹謗中傷しようとも、誰にも否定できない貴殿の功績です。洗脳されたオリンパスの役員や中間管理職がどうあがこうとも、貴殿の主張が正しかったことは社外の心ある人々、世界のビジネスの常識を知る人々はみな知っています。

プロキシ―ファイトに勝ち目がないとみて、ここで手を引くのは賢明だと思います。FACTAが創刊以来戦っているこの日本の「見えざる障壁」は、失われた20年の元凶だけにそうやすやすと壊れません。この無念はいずれ当方で晴らします。

お別れに中島みゆきの「あばよ」でも。



なにもあの人だけが世界中でいちばん
やさしい人だと限るわけじゃあるまいし
たとえばとなりの町ならばとなりなりに
やさしい男はいくらでもいるもんさ



そう、腐ったオリンパスは君に似合わない。