EDITOR BLOG

11月号東電記事での訂正
最新号(11月号)の12ページ「『不意打ち』5千億円増資に東京電力株急落」の記事で、末尾に増資の公募価格が「1348円」とあるのは「1843円」の誤りです。訂正してお詫びします。編集部
FACTAleaks――対セラーテム戦争19 大証・東証への質問状
セラーテムは大証ヘラクレス、それと一体化したチャイナ・ボーチーは東証1部の上場企業である。どいう上場審査をし、上場管理をしているのか。当然、弊誌の取材の矛先は両取引所に向けられた。
結論から言えば、まったく話にならない。とくにひどかったのは大証である。決算説明会をあわてて打ち切って、投資家よりも上場企業を守ろうとした彼らに、日本の資本市場のゲートキーパーを務める資格はない。あえて名を挙げよう。「個別企業についてはお答えできない」の一点張りで、取材を邪魔した大証広報部の矢田真博、セラーテムを守りたい一心で、彼らとグルなのかと疑わせた上場グループの杉原、君らは許さない。
彼らには証券市場を守る気概もなければ、知識もなく、働かないくせに偉そうな馬ヅラをぶら下げているだけだ。北浜はこんな連中を闊歩させているのでしょうか。日本の資本市場の恥である。
あらためて大証と東証に質問状を発しましょう。少なくとも投資家には答える義務がある。本状は8月3日に発したが、なんの回答もなく、現在に至るまでセラーテムについて調査を始めた話も聞かない。中国の証券市場関係者は「当然、売買停止でしょう?」という反応だったが、大証が売買を許していると聞いてあきれていた。同じ文面は東証や証券取引等監視委員会にも送ったが、なしのつぶてなら、言っておこう。あなたがたに二度と「投資家保護」などと口にさせない。
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大阪証券取引所
ご担当者様
ヘラクレス上場企業「セラーテム・テクノロジー」について
平素はお世話になっております。
私ども月刊FACTAは現在、大証ヘラクレス上場企業の「セラーテム・テクノロジー」について取材しています。公開資料の分析と独自調査の結果、本誌はセラーテム社が中国企業「北京誠信能環科技」の事実上の“裏口上場(Back Door Listing)”に利用された可能性が極めて高いと見ています。
添付資料(セラーテム社への質問状、相関図)をご覧いただけば、利害関係を共有する中国人実業家のグループがセラーテム社を資本、経営の両面から支配していることがおわかりいただけるはずです。しかしながら、セラーテム社は事実を日本の投資家に公表せず、同社が主体性を持って中国事業を展開しているかのようにふるまっています。
また、北京誠信能環科技が手がける電力関連事業は、外資の参入が禁止されている事業にもかかわらず、そのリスク情報は全く開示されていません。さらに、中国関連のIRが行われる前後に株価がたびたび不自然な動きをしており、ネット上の掲示板等でも話題になっています。
裏口上場は中国や香港の株式市場ではしばしば行われていますが、我が国では一般的ではありません。一連の操作が仮に適法に行われていたとしても、実態とは異なる情報開示を日本の投資家に対して行うことは上場企業として不適切な行為であると考えます。また、日本または国際的な会計事務所の監査を受けたわけでもない中国の未公開企業の業績が、日本の上場企業の決算に連結され、株価形成に影響を与えるのはリスクが高いと言わざるを得ません。
そこで、以下の3点について伺いたいと存じます
1) 一般論として、大阪証券取引所は海外未公開企業の裏口上場を認めるか。認める場合の条件は何か
2) セラーテム社のケースは事実上の裏口上場に該当するか
3) セラーテム社が日本の投資家に対して実態とは異なる情報開示をしている点や、中国における外資の参入禁止事業のリスクについて開示していない点についてどう見るか(許される裁量の範囲内か)
以上です。締め切りの都合もございますので、8月9日(月)までにご回答いただければ幸いでございます。よろしくお願い申し上げます。
2010年8月3日
月刊FACTA発行人
阿部 重夫
FACTAleaks――対セラーテム戦争17 まだ残る謎 黒幕は誰か
この辺で“事件”をもう一度整理してみよう。セラーテムに取材を申し込む前の時点で、FACTAは下記の3つの疑惑に確信を得ていた。
1)セラーテムの北京誠信買収は、前者を「ハコ」にした裏口上場だったのではないか
2)スマートグリッド受注などのIR(投資家向け広報)は、株価つり上げを狙った誇大宣伝(風説の流布)ではないか
3)一連の操作には、東証1部上場の中国企業チャイナ・ボーチーが深く関与しているのではないか
案の定、セラーテムは疑惑に関してまともな釈明も反論もできなかった。ブログで全面公開したFACTAと同社のやりとりを読めば、それは一目瞭然でしょう。
だが、まだ解明できていない大きな謎が残っている。“事件”の本当の黒幕は誰なのかである。セラーテム取締役CFOで元中国人の宮永浩明、北京誠信会長兼セラーテム会長の于文革、中国系ファンド「Wealth Chime Industrial Limited(WCI)」のオーナーの趙広隆、同じく中国系ファンド「New Light Group Limited(NLG)」のオーナーの庄瑩、チャイナ・ボーチー取締役(前CEO)の白雲峰。これらの5人が、何年も前から直接間接に親密な関係だったことは明白だが、一連の操作を誰が主導したのか、それによって誰が一番得をしたのか、現時点では確証が得られていない。また、セラーテムの第三者割当増資を引き受けたWCIとNLGは、英領バージン諸島に登記されたペーパーカンパニーであり、実際の資金の出し手が誰なのか見えない。本当の黒幕は他にいるかもしれないのだ。
謎を推理するのに有効な手だての1つは、ばらばらの情報を時系列で並べ直してみることだ。いつ、誰が、どこで、どんな行動をしていたのか。関連性が薄いと思われた複数の出来事が同じタイミングで起きていたなど、見落としていた意外な事実に気付く事が多い。そこで、FACTAとセラーテムの攻防が始まった8月6日の決算発表会までの時系列情報を公開しましょう。興味のある方は、謎解きに加わってください。
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2000年10月宮永浩明がセラーテムに入社。取締役経営管理本部長に就任
2001年12月セラーテムが大証ヘラクレス(当時はナスダック・ジャパン)に上場
2002年(日付不明)庄瑩が「北京華電恒盛電力技術(代表者は于文革)」に入社、副総裁に就任
2002年6月「北京博奇電力科技(チャイナ・ボーチーの中国の事業主体)」が創業。趙広隆と庄瑩が同社のコンサルタントに就任
2002年11月宮永浩明が病気を理由にセラーテムを退社
2003年2月セラーテムが突然の赤字転落を発表し、株価が暴落。創業者が持ち株を売り抜けた疑惑が浮上
2003年10月北京博奇の経営陣がMBO。程里全(現チャイナボーチーCEO)が事実上のオーナーに
2003年12月チャイナ・ボーチー(持ち株会社)が英領ケイマン諸島に設立
2004年12月「北京誠信能環科技」が創業
2006年4月中国農業大学と北京誠心能環の提携式典に、于文革が総経理、庄瑩が人力資源部長の肩書きで出席(セラーテムは「庄瑩は顧問だった」と主張)
2006年9月宮永浩明がチャイナ・ボーチーの副総裁に就任
2006年末チャイナ・ボーチーCEO(当時)の白雲峰が、宮永浩明に趙広隆と庄瑩を紹介
2007年5月趙広隆が英領バージン諸島に「Wealth Chime Industrial Limited(WCI)」を設立
2007年8月チャイナ・ボーチーが東京証券取引所第1部に上場
2008年5月趙広隆が共同事業主を務める山西省の発電所建設プロジェクトにチャイナ・ボーチーが出資
2008年末セラーテムの株価がリーマンショックの影響で5000円台に下落、時価総額がヘラクレスの最低基準を割り込む
2009年1月セラーテム取締役(現社長)の池田修らが宮永浩明に連絡し、経営再建への協力を依頼。宮永浩明が趙広隆、庄瑩に連絡し、協議を開始
2009年4月15日庄瑩が英領バージン諸島に「New Light Group Limited(NLG)」を設立
2009年4月下旬趙広隆が来日し、宮永浩明、池田修らと詰めの協議。庄瑩も電話で参加
2009年4月30日セラーテムが社長交代を発表。7月1日付で今井一孝社長が辞任し、池田修取締役が社長に昇格
2009年5月于文革が北京市供電局を退官し、“民間人”に。関連会社である「北京京供誠信電力工程」の社長も辞任(登記簿上の代表者交代は2009年12月)
2009年6月1日セラーテム取締役で経営陣およびWCI、NLGへの第三者割当増資と、宮永浩明の顧問就任を決議。代表取締役社長の今井一考は反対したが、取締役の池田修と藤本秀一が押し切った。同日中にIRを発表
2009年6月5日既存株主が新株発行差し止めの仮処分を東京地裁に申し立て
2009年6月15日庄瑩が北京誠信能環副社長の肩書きで北京の環境フォーラムで講演(セラーテムは「庄瑩は顧問だが、便宜上、副社長の肩書きをつかうことがあったかもしれない」と主張)
2009年6月19日既存株主が東京地裁への申し立てを取り下げ
2009年7月3日セラーテムの第三者割当増資が完了
2009年8月5日于文革と于文翠(姉または妹とみられる)が北京誠心能環の株式の34.81%を取得(日付は登記簿上の記録)
2009年8月10日セラーテムが北京誠信との戦略提携を発表
2009年9月17日宮永浩明がセラーテムの取締役CFOに就任
2009年10月20日セラーテムが中国に100%子会社「科信能環(北京)技術発展(代表者は于文革)」を設立
2009年11月13日セラーテムが北京誠心能環の子会社化、WCIへの第三者割当増資を発表(外資規制を回避するため北京誠心能環には直接出資せず、科信能環と排他的契約を結ばせて支配するスキーム。費用は15億円)
2009年11月30日セラーテムの臨時株主総会で第三者割当増資を承認。北京誠信能環会長の于文革がセラーテム会長に就任。同社長の王暉と同取締役の蔡静偉がセラーテム取締役に就任。東京大学名誉教授の高橋満がセラーテム社外取締役に就任(取締役7名のうち4人が中国出身者に。高橋満はチャイナ・ボーチーCEOの白雲峰経由の紹介で就任)。セラーテム社長の池田修が北京誠信能環取締役に就任
2009年12月16日白雲峰がチャイナ・ボーチーのCEOを辞任し、副会長に就任(程里全による事実上の更迭か)
2009年12月21日セラーテムが北京誠信能環の子会社化完了と「負ののれん」の発生を発表。第三者割当増資の結果、WCIが49.56%を保有する筆頭株主に。NLGも引き続き4.56%を保有(裏口上場が完成)
2009年12月22日セラーテムが業績予想を上方修正。北京誠信能環の従業員にストックオプションを付与
2010年2月1日セラーテムが業績予想を上方修正
2010年3月26日セラーテムが「科信能環が発電所・製鉄所向け大型省エネ事業とスマートグリッド事業に参入する」と発表。株価は2週間で2倍に
2010年5月28日セラーテムが業績予想を上方修正
2010年6月25日白雲峰がチャイナ・ボーチー副会長を辞任(取締役の肩書きは残したが、業務は担当せず)
2010年6月末(または7月初)セラーテムが北京で科信能環の開業式典。于文革、宮永浩明らとともに白雲峰が出席
2010年7月15日華北電力大学(白雲峰の母校)で行われたイベントに、白雲峰が科信能環CEOの肩書きで出席(セラーテムは白雲峰の科信能環CEO就任を否定)
2010年7月16日セラーテムが「北京誠信能環が地域内スマートグリッドの建設プロジェクト2件を受注した」と発表
2010年7月30日セラーテムが「北京誠信能環が次世代送電網のプロジェクトを受注した」と発表
2010年8月3日セラーテムの株価が直近の最高値(14万9900円)を記録。7月からの1カ月で5割上昇。1年半前の30倍
2010年8月6日セラーテムが東京の大和証券の会議室で取締役会を開催し、白雲峰が科信能環のCEOとして出席。同日、2009年6月期決算を発表
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この続きはまた次回。
高橋洋一「日本経済のウソ」のススメ 日銀赤っ恥を予言
日銀の鳴り物入りの追加緩和が、なぜ円高の火消しにならないか、それを知りたい人は本書をひもとくといい。
FACTAは8月号でエール大学の浜田宏一教授と、嘉悦大学の高橋洋一教授の対談「白川日銀の迷走と危うい小野理論を憂う」を掲載している。浜田教授が東大時代の弟子、白川方明日銀総裁を批判する文章を公表したからだ。
その高橋教授(「埋蔵金男」)が、ちくま新書から出したのが「日本経済のウソ」である。そのページの多くは日銀批判にあてられているが、リーマン・ショック直後から白川日銀の頑迷と小出しと、結果としてシロをクロと言いくるめる強弁を批判してきた本誌としては、この本のロジックと軌を一にするところが多い。
本書を「視野が狭い」などと批判する、視野の狭い評者もいるようだが、8月10日の政策決定会合ではFRBに置いてけぼりにされて、円高と株安に追いまくられ、催促相場に負けて追加緩和になることが分かっていたのに、白川総裁はちっぽけな虚栄心にこだわってあえてカタストロフを選んだ(カンザスシティーにまで逃げだして緩和圧力を無視し、ダダをこねたあげくに、臨時会合を開いてやっぱり渋々緩和し、出遅れの証文に市場は冷ややかに反応した)。
そんな「地頭の悪い」総裁を見ていたら、どちらの視野が狭いか一目瞭然だろう。
本書の81ページにでてくるスタンフォード大学のジョン・テイラー教授の講演会は、FACTAが主催したもので、高橋教授にもパネラーとして出席していただいた。そこでは2003年の円売り・ドル買いの「非不胎化介入」で、当時の大蔵省財務官、溝口善兵衛氏(現島根県知事)とテイラー米財務次官の“協調”が話題になった。その時のテイラー教授の感触では、現状でその再現はムリらしいというものだった。
財務省は介入に踏み切ったが、さっぱり効かないばかりか、非不胎化も円高にブレーキをかけるにはいたらない。
いずれにせよ、FACTAが挑んだ論争にだんまりで通し、陰では「批判するのいい加減にしてほしい」と呟いていた白川日銀が、10月5日の政策決定会合でゼロ金利復活と非伝統的手段による5兆円の資産購入で、あれほど嫌がっていた量的緩和の姿勢をアピールせざるをえなくなった。本誌は「だから、いわんこっちゃない」と言いたい。
「緩和のフロントランナー」だって?笑わせますなあ。
ノビ太君総裁、とうとうパンツを脱がされたのに、まだイチジクの葉でなんとか取り繕おうとしている。結局、頑迷のうえ耳が遠く、ゼロ金利解除失敗の恥さらしをした速水総裁の二の舞ではないか。
その後退戦を早々と高橋氏の本は予言している。なぜ日銀の緩和が効かず、円安のカンフルにならないかはこの本にしっかり書いてあるのだ。それを拳々服膺するには、手ごろな新書だといえよう。
いっそタイトルを「日銀のウソ」としたほうがよかったかも。
FACTAleaks――対セラーテム戦争16 勘違い回答
予想通り、セラーテムから回答書が届いた。第一印象はまあ、于文革氏からの抗議文と大差ありません。
田原君の協力を得て中国で取材をしたことを、鬼の首でも取ったように騒いでいるのがおかしい。フリーランスの記者に取材を依頼して何が悪いのでしょうか。FACTAはFACTA、新世紀は新世紀です。新世紀が田原君に協力を依頼したとしても、どちらも自分の取材を土台にしているので、本来の出所は別々の記事だということがわからないんでしょうかね。
回答書がブログで公開されるのを意識して、FACTAがいかに「悪徳」であるかを強調しようと必死ですが、大証批判はこれとは別にとことんやりますのでセラーテムさんはご心配なく。回答書が感情的になってくるのはこちらも思う壺である。それで自分たちの信用が回復すると本気で思っているのだとしたら、別の意味でコワイ方々だ。
本誌が送った4通の質問状に、セラーテムは一度もまともに回答できなかったばかりか、中国の「新世紀」誌の記事が自主的に削除されたなどと真っ赤な嘘をついて大恥をかいた。冷徹な投資家にとって、それがすべてと言っても過言ではないでしょう。
さて、回答書を掲載しよう。なぜかファクスで送ってくるので、打ち直しに手間が掛かる。
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ファクタ出版株式会社
阿部重夫殿
平成22年9月13日
株式会社セラーテムテクノロジー
代表取締役社長池田修
1はじめに
貴社のFACTA9月号(平成22年8月20日発行)や「対セラーテム戦争」と題する貴社編集長ブログは、当社に対する敵意や偏見で満ちあふれており、真実を国民に伝えようという姿勢は見あたらず、過激な表現で読者の関心を引こうとしているだけです。しかも、貴社の取材は、北京誠信の1つのオフィスを外から見ただけで従業員がほとんどいないと判断したり、他人の写真を于文革氏であるとして掲載したり、当社決算説明会の司会担当者が大証の「宮川やすし調査役」であるとして、「ゴキブリ」、「愚かなスタッフ」と攻撃するなど(司会は宮川氏ではありません)、極めて杜撰であると言わざるを得ません。
当社が貴社に対して回答することにより、商業主義に偏向した雑誌社に協力することになるのは遺憾ですが、これ以上誤った情報が掲載されることを避けるため、必要な限りで回答させて頂きます。
2質問事項に対する回答
(1)質問項目1)について
北京誠信の従業員数は、平成21年12月末の買収完了時点で、すでに360名であり、平成22年6月末時点では424名です。北京誠信は実態がないという貴社の見解は、全くの虚像であり誤解です。これらの従業員は、北京誠信の登記上の住所である北京市豊台区科技園以外に、観湖国際1座含む北京市朝陽区内の3拠点で勤務しております。これらの拠点はすべて北京市主管部門に登記されておりますので、中国内でまともな調査を行えば、上記の事実はすぐに判明するはずですが、貴社には、そのような調査能力すらないものと思われます。
なお、当社社外監査役および当社監査法人により、上記の拠点の実地監査も実施されております。
また、豊台区科技園のオフィスにてお会いになられた北京誠信の女性社員の入社が数日前と質問状に記載されておりますが、彼女は、4年前にすでに入社しております。また、本人に確認したところ、そもそも入社時期についての質問は受けていないとのことです。
(2)質問項目2)について
前回の回答の通り、北京華電恒盛電力は2002年よりほぼ事業を休止し、現在抹消手続き中です。北京市供電局の方針により、抹消手続き中の法人代表の変更は行われません。
また、于文革は、北京市供電局を2009年5月に退官し、同時に北京京供誠信電力工程の法人代表および総経理を辞任しました。同社法人代表の変更手続きに関しても当社が北京誠信を買収した2009年12月までには完了しております。
于文革および北京誠信のオペレーションは、北京市供電局および北京京供誠信電力工程とは、一切関係ありません。
(3)質問項目3)について
中国雑誌「新世紀」の報道関しては、貴社は、記者側関係者である田原真司氏が中国の雑誌社「新世紀」に貴社8月20日発行のFACTA誌とほぼ同様な内容を投稿したにもかかわらず、その事実を読者に隠し、意図的に「ほか一名の記者の連名」と記載するなど偏見及び悪意をもった編集方針で当社に対する記事を作成しております。その後、この中国雑誌「新世紀」は、同社社内調査を行った結果、記事の内容は事実と異なることが判明し、自主的に同社HP記載の記事を削除しています。
また、当社が民政局住宅合作社の責任者に確認したところ、同社として本件に関する取材を受けた事実はなく、電話すらないとの事でした。
当社プレスリリースの通り、当社では中国のスマートグリッド事業を川上である発電所/川中である送電網および供電局/川下である智能小区と分類しており、当社が開示した2つのプロジェクトは川下の智能小区のプロジェクトであります。事業主および契約概要はプレスリリースに詳細に記載されており、当社開示に何ら問題はありません。
(4)質問項目4)について
前回回答の通り、白雲峰氏が科信能環の役員およびCEOに就任した事実はありません。
以上
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この回答書には、見るべき点が2つある。1つ目は、「于文革は、北京市供電局を2009年5月に退官」したというくだり。つまり、于文革氏はそれまで北京市政府の公務員であり、彼がトップを務める北京誠信は北京市政府の関連企業だったということだ。
回答書を受け取ったのは10月号の続報記事の校了直前。このため記事中では詳しく解説できなかったが、政府の関連企業を海外で裏口上場させるには複雑な操作が必要だ。正規ルートの上場は、北京誠信程度の規模では中国証券監督管理委員会(CSRC)の許可が下りない。だから、セラーテムのような海外の「ハコ」を使うわけだが、裏口上場は表向き、外資企業に買収される格好になる。政府系企業のままでは何かと都合が悪い。そこで、経営者が政府関連の持ち株を買い取って「民営化」し、政府との資本関係を消すことで、裏口上場への地ならしをする必要がある。
北京誠信でも同じ操作が行われた。同社の登記簿によれば、セラーテムが北京誠信と戦略提携する直前の2009年8月5日付で、株主の変更が記録されている。株主名簿に名前がなかった于文革氏が11.06%を取得するとともに、既存株主の于文翠氏(于文革氏の姉または妹とみられる)が持ち株を23.75%に増やして筆頭株主になった。同時に、大株主の上位4者を占めていた法人の名前が消え、北京誠信は個人株主17人が出資する“純民営企業”に衣替えした。
ちなみに、北京誠信の資本金は7000万元(約8億7500万円)。于文革氏(と于文翠氏)は額面ベースでも2000万元(約2億5000万円)の資金が必要だったはずだ。それをどうやって用意したのか。本誌は2度にわたって質問したが、回答はなかった。
沈黙の理由は容易に想像がつく。このような操作は、見方を変えれば政府のカネとコネで作られた企業の私物化にほかならない。まして、于文革氏は共産党員である。政府関連企業だった北京誠信をどさくさにまぎれて民営化し、日本で裏口上場させて私腹を肥やしたと証明されたら一体どうなるか。于さん、それはあなたが一番よくご存じですね?
見るべき点の2つ目は、「白雲峰氏が科信能環の役員およびCEOに就任した事実はありません」というところ。前回のブログの質問状を見ていただけばわかるように、本誌はチャイナ・ボーチー前CEOの白雲峰氏が、科信能環CEOの肩書きでセラーテムの役員会に出席していたことや、中国の複数の大学で行われたイベントでスピーチしていた事実をつかんだうえで質問している。だが、セラーテムの回答書はそれに一切触れていない。
白雲峰氏も共産党員である。政府にコネを持つ彼の経歴に傷をつけられないということですかね。まさか庄瑩氏の時と同様、白雲峰氏は「便宜上、科信能環CEOという肩書きを使う場合はあったかもしれません」とでも言い訳するつもりでしょうか。
こんなデタラメな会社を監査する会計士は、さぞかし大変でしょう。パシフィック監査法人の笠井浩一会計士からは、以下のような回答書が届いた。その評価は投資家にお任せするとしましょう。
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月刊FACTA発行人
阿部重夫様
9月10日付ご照会の件、下記のとおりご回答申し上げます。
(ご質問内容1)
1) 上記の事実から、セラーテムによる北京誠信の買収は、企業会計基準が開示を義務付けている「関連当事者との取引」に該当するはずです。しかし、セラーテムの有価証券報告書には全く記載されていません。笠井先生は監査にあたり、どのような判断を下されたのですか?「関連当事者との取引」に該当しないとすれば、理由を教えてください?
(ご回答1)
ご存じのとおり、監査基準において、「監査人は、業務上知り得た事項を正当な理由なく他に漏らし、又は窃用してはならない。」こととなっております。
したがいまして、申し訳ありませんが、被監査会社に関連するご質問に関しては守秘義務の関係からお答えすることが出来ません。
(ご質問内容2)
2) 北京誠信の子会社化と同時に、中国側から于文革氏ら3人がセラーテム取締役に就任し、日本側からは池田修氏が北京誠信の取締役に就任しました。親会社から子会社への派遣が1人で、子会社から親会社への逆派遣が3人というのは異例です。同時に、セラーテムは社外取締役のポストを新設し、東京大学名誉教授の高橋満氏を招聘しました。この社外取締役のポストは、笠井先生のアドバイスにより設けられたと聞いています。その理由は何ですか?IRでは「コーポレートガバナンスを強化するため」と説明していますが、具体的にはどういう意味でしょうか?
(ご回答2)
まず、そもそもとして、社外取締役に関して私どもがアドバイスをしたという事実はありません。当ご質問は、何らかのアドバイスをしたことが前提となっているかと思いますが、アドバイスをしていない以上、その理由等については当然お答えのしようがありません。
上記も含め、被監査会社に関連する事項については、守秘義務の関係からお答えするのは難しかと存じます。あしからずご了承いただければ幸いです。
よろしくお願い申し上げます。
2010年9月13日
パシフィック監査法人
代表社員笠井浩一
FACTAleaks――対セラーテム戦争15 四度目の質問状
于文革氏からの抗議文が届いた翌日、本誌はセラーテムに四度目の質問状を送った。今回も締切ぎりぎりである。于文革氏は「回答する義務はない」と啖呵を切ったが、痛いところを突けばおそらく反応すると読んでいたからだ。
同時に、セラーテムの会計監査を担当するパシフィック監査法人の笠井浩一会計士にも質問状を送った。そちらも併せて公開しましょう。
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セラーテムテクノロジー
取締役会長于文革 様
代表取締役社長池田修 様
取締役CFO宮永浩明 様
本誌の質問状に対する于文革会長の回答書(9月9日付)を受け取りました。本誌の報道にご気分を害されたのだとしたら遺憾ですが、質問の内容は日本の投資家が当然抱くはずの疑問ばかりです。それに一切回答しない、あるいは回答できないとすれば、株式公開企業の経営トップとしての責務をないがしろにしていると考えざるを得ません。
于会長は回答書の最後に「今後貴社の質問に対して回答する義務はない(対于今后貴公司的問題、我公司没有義務回答)」としています。しかし「回答しない」とは明言しておられませんので、ここに改めて追加の質問を送らせていただきます。ご検討のうえ、ご回答をお願いします。
1)北京誠信能環科技のオフィスについて
本誌は北京市朝陽区の観湖国際1座9層のオフィスを数度にわたり訪問し、8月12日以前はオフィスに社員が数人しかおらず、人の出入りもなかったことを確認しています。その後、8月24日に訪問した際には急に人が出入りしていて驚きましたが、オフィス内の見学は拒否されました。さらに8月27日、北京誠信能環の登記上の住所である豊台区科技園のオフィスを訪問しましたが、「数日前に入社した」という女性が1人いただけでした。北京誠信能環には400人を超える社員がおられるそうですが、彼らはいったいどこに出勤しているのですか?本当のオフィスの住所を明かせない理由があるのですか?
2)于文革氏と北京市供電局の関係について
8月12日付の回答書の中で、御社は「『北京華電恒盛電力技術公司』は、北京市供電局傘下企業200数社のうちの1社であり、于文革氏は北京市供電局の幹部として複数の傘下企業の代表者として登記されておりました。于文革氏は、『北京華電恒盛電力技術公司』の代表者としても登記されていましたが、同社は、2002年よりほとんど事業を休止しており(以下省略)」としています。北京市工商行政管理局の企業登記情報によれば、于文革氏は現在も北京華電恒盛電力技術の法人代表として登記されており、登記証は毎年更新されています。ということは、于文革氏は現在も北京市供電局の幹部なのですか?
北京誠心能環のオフィスがどこにあるかを明かせないのは、北京華電恒盛電力技術と同様に実体のない会社だからではありませんか?于文革氏は、セラーテムが2009年12月に北京誠心能環を買収する直前まで「北京京供誠信電力工程有限公司」の法人代表と総経理を務めていました。北京誠心能環のオペレーションは、現在も北京京供誠信電力工程および北京市供電局と一体なのではありませんか?
3)2010年7月16日付「スマートグリッド受注」のIRについて
上記IRにおいて、御社は「北京市民政局住宅合作社及び北京中弘投資有限公司との間で、北京市内における『地域内スマートグリッド建設』に関する契約をそれぞれ締結いたしました」と発表しました。しかし8月30日付の中国「新世紀」雑誌の報道によれば、事業主はいずれも「広い意味での智能化は取り入れているが、本格的なスマートグリッドではない」という趣旨のコメントをしています。また、北京誠信との契約についてもはっきり認識していないようです。これらのプロジェクトは正真正銘の「スマートグリッド」と呼べるものなのですか?
4)白雲峰氏の科信能環CEO就任について
8月12日付の回答書の中で、御社は「現時点で白雲峰氏が科信能環の役員に就任した事実はありません」としました。しかし本誌は、8月6日に東京の大和証券の会議室で開催されたセラーテム取締役会に白雲峰氏が出席し、科信能環CEOとして報告を行ったとの情報を得ています。また、白雲峰氏は7月15日に母校の華北電力大学で開催されたイベントに科信能環CEOの肩書きで出席したほか、8月18日から北京科技大学で開催された「科信能環杯」の開幕式にも出席し、冠スポンサー代表としてスピーチしています。これらは事実ではないのですか?
以上の4点について、9月13日までにご回答ください。
よろしくお願いします。
2010年9月10日
月刊FACTA発行人
阿部 重夫
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パシフィック監査法人
代表社員笠井浩一 様
お世話になっております。
先月ご連絡させていただいた際はどうもありがとうございました。
追加で確認させていただきたい件があり、再度連絡させていただきました。昨年12月の、セラーテムによる北京誠信能環の子会社化に関することです。
2009年6月、中国系投資ファンドの「Wealth Chime Industrial Limited(WCI)」および「New Light Group Limited(NLG)」の2社がセラーテムの第三者割当増資を引き受け、同社の大株主になりました。その後、セラーテムは北京誠信能環の買収資金を調達するため、WCIに対して再び第三者割当増資を行い、2009年12月21日付のIRで北京誠信の子会社化完了を発表しました。
この買収に関して、セラーテムは「WCI、NLG、北京誠信の3社の間に深い関係はなかった」と主張していますが、買収がWCIのオーナーである趙広隆氏の仲介で行われたことを否定せず、NLGのオーナーである庄瑩氏が北京誠信と顧問契約を結んでいたことを認めました。また、庄瑩氏が北京誠信副総経理の肩書きで行動していたことについて「あったかもしれません」と事実上認めました。つまりセラーテムは、大株主(庄瑩氏)が副総経理を名乗って顧問を務めていた企業(北京誠信)を、筆頭株主(趙広隆氏)の仲介で買収し、大株主(庄瑩氏)の元雇い主(于文革氏)を会長職につけたことになります。
以上の経緯については、担当監査法人の会計士としてよくご存じのことと思います。そこで以下の質問にご回答ください。
1)上記の事実から、セラーテムによる北京誠信の買収は、企業会計基準が開示を義務付けている「関連当事者との取引」に該当するはずです。しかし、セラーテムの有価証券報告書には全く記載されていません。笠井先生は監査にあたり、どのような判断を下されたのですか?「関連当事者との取引」に該当しないとすれば、理由を教えてください?
2)北京誠信の子会社化と同時に、中国側から于文革氏ら3人がセラーテム取締役に就任し、日本側からは池田修氏が北京誠信の取締役に就任しました。親会社から子会社への派遣が1人で、子会社から親会社への逆派遣が3人というのは異例です。同時に、セラーテムは社外取締役のポストを新設し、東京大学名誉教授の高橋満氏を招聘しました。
この社外取締役のポストは、笠井先生のアドバイスにより設けられたと聞いています。その理由は何ですか?IRでは「コーポレートガバナンスを強化するため」と説明していますが、具体的にはどういう意味でしょうか?
以上の2点について、9月13日までにご回答ください。
どうぞよろしくお願いします。
2010年9月10日
月刊FACTA発行人
阿部 重夫