EDITOR BLOG

最後からの二番目の真実

ときどき代行1――私のビフォー・アフター

創刊準備を控えて、当ブログの書き手の阿部編集長がてんてこ舞いなので、ときどき代行してくれ、と頼まれました。きょうはその初舞台です。

でも、「締切りは5日後。あなたの文章力が問われます」といきなり言われたら、あなたならどうしますか。悩んだのは私だけでしょうか。先輩がたからは「根拠のない自信を持ちなさい」とか「映画の話題だけは絶対に勝てないのでやめなさい」とか、アドバイスをもらいました。ためになりました。

でも、私にとって月刊「FACTA」は聖なる媒体です。練習台に使うなど自分にも他人にも許せない。いや、そんな思い込みは危険かもしれない。それこそ統帥権干犯(とうすいけんかんぱん)かもしれない。それに、ブログと雑誌は違う……などと、あれこれ悩んだ挙句、「ま、いいか。言い訳はやめよう」という結論に達しました。

きょうのトピックスは「私のビフォー・アフター」。たまたま、あるフリー(無料)マガジンに、「やんばる雑誌」という1ページのコラムがあって、月刊「FACTA」にスペースをあげるから、自分で宣伝文を書いてくださいと編集長が頼まれました。

このフリー・マガジンは大手出版取次の日販が出しているのですが、彼らにとって書店ルートで売られていない雑誌は、商売にならない“アウトサイダー”です。そういう雑誌に勝手に「やんばる雑誌」と命名しているのですが、めったにお目にかかれない天然記念物のヤンバルクイナをもじったものですから、編集長は「売れない珍品雑誌を連想させるなあ」とぶつぶつ言って引き受けたようです。

月刊「FACTA」も基本的には書店ルートに乗りません。その宣伝文を書くという役目が私に回ってきました。午後9時から午前3時までかかりました。内容は以下の通り。



プロの情報マンが情報交換する時、「確実な筋」と言われれば、情報源が誰であるかを詮索しないそうである。信頼すると決めたら、いちいち詮索しない、疑わない。世界を動かすような重要な情報は、そういうネットワークの中でだけやり取りされる。

日本のマスコミ界にも似たような世界が存在することを、会員制月刊誌「S」を通して知った。「一体どこからこんな情報を取って来るのか」とワクワクしながら読んだものだ。そんな同誌の全盛期を支え、数々の伝説を築いた最強のコンビ、阿部重夫と宮嶋巌が05年11月に出版社を設立、4月に経済総合誌を創刊する。



これで全文ではありませんが、編集長に提出したら2時間後、返ってきた原稿は以下の通り。



真実は安くない。

フリー(無料)マガジン誌上では失礼かもしれないが、タダで得られる情報は、しょせん広告や幻影であって、ホンモノではありえない。カラフルなグラビアに、一瞬目を楽しませて、あとは忘れられていく「消耗品の情報」である。

プロは情報交換する時、信じられる情報源しか相手にしない。ウソかホントかのグレーゾーンで、うろうろと付和雷同するのは素人である。それがデイトレーダーなら大損、生き馬の目を抜くビジネス界では致命傷、インターネット掲示板なら野次馬で終わる。



さわりだけですが、もはや原形をとどめないほどの大整形でした。でも、編集長は添削するのに2時間もかけた様子がなく、私の見る限りほとんど数分の作業だったはず。文章はさらにこう続きます。



月刊誌「FACTA」(4月20日創刊予定)はフリー・マガジンの逆をいく。一冊1000円、それも年間予約(12冊分、1万2000円)と高い。ワクワクするような情報は、思い切って万札をフンパツしないと買えない、と知る人のための雑誌である。

原則、書店では買えない。キオスクにもコンビニにも置いてない。読者の自宅に直接郵送されてくる。ぎりぎりまで肉薄した真実は、深窓の乙女のようなもの。街なかで気安く触れられないのだ。毎月、胸を躍らせながら封を切る楽しみは、ひとたびクセになったらやめられない。



私の言いたかったこと、そのまんまです。忘れられていく「消耗品の情報」と、「深窓の乙女のような」情報。そうそう。それが言いたかったのだ。今回は自己紹介も兼ねて2つの文章をコピー&ペーストしてみました。私の恥をさらすようだけれど、編集者をめざす人にとってはなかなか良い教材になるのではないかと思います。

ちなみに今回登場のフリー・マガジンは「さらてん」(サラリーマン天国の略)といいます。東京・新橋駅周辺だけで6~7万部も無料配布するそうです。確かに月刊「FACTA」とは究極のミスマッチかもしれませんが、手に取る機会があったらご覧になってください。

ライブドア崩落7――安しんかい?

「突破モンに『あれは自殺です』なんて断定されちゃなあ、逆効果でしょうが。かえって、きっと他殺だ、と信じた人が多かったんじゃないか」。誰かがそう言った。ライブドア出身のエイチ・エス証券副社長が沖縄で遂げた「不可解な死」について、コメンテーターとしてテレビに出演した「キツネ目の男」のことである。

それくらいなら、一場のお笑いですむ。しかし、週刊文春、週刊ポストと「他殺説」が花盛りになってきた。このブログでも「崩落3」で「沖縄の死」にいち早く疑問を呈したこともあって、アメリカの有力紙記者から電話がかかってきた。なんだかクロフツみたいな本格ミステリーの「密室殺人」を思わせる。

メディアによって棲み分けができたらしい。沖縄ミステリーに血相を変える雑誌やタブロイド紙、さらにネット掲示板の野次馬たちに対し、新聞など大手商業メディアはバッジ組の追跡に目の色を変えている。先週は「投資事業組合の出資者に政治家の名がある」という情報に色めきたち、口の軽い民主党議員たちが未確認の議員名を流したものだから、当の議員が事実無根といきりたつ場面まであった。

いくら隠れミノとはいえ、政治家が無防備にそんなところに名前をさらすだろうか、という疑問がわく。やはり、いくつかトンネルを組みあわせるのが常識で、そんな分かりやすい出資者リストが簡単に入手できたら、誰も苦労はしないだろうと思う。各メディアとも手持ちのネタを使い果たした段階なのだろうが、こういうときは、ワイルドな妄想で色をつけたような憶測が乱れ飛ぶ。

私自身には確認できないが、事実ならいちばんショッキングなのは、週刊ポストが報じた「(沖縄で死んだ)野口英昭氏は安晋会の若手理事」という報道だろう。

安晋会とは安倍晋三官房長官の事実上の後援会(政治団体の届出がなく、安倍事務所では「有志の親睦会」と説明している)である。週刊ポストの記事ではっとしたのは、東京大手町のパレスホテルで開かれた安晋会のパーティーで、野口氏はエイチ・エス証券の親会社である旅行代理店HISの「澤田秀雄会長と演壇にあがり、理事だと紹介されていた」というくだりだ。HISも澤田会長が安晋会会員で、野口氏とともに安倍氏のパーティーに出席していたことを認めている。

この接点は貴重に見える。名前の出方自体が、ライブドア事件の「政争」的側面を物語っているからだ。ライブドア強制捜索と同じ1月17日、耐震設計捏造疑惑で国会証人喚問されたヒューザーの小嶋進社長が、同じ安晋会に所属していることを証言、安倍氏の秘書に国土交通省への働きかけを頼んだとわざわざ口にしたことと妙に符丁があう。神妙な顔の小嶋社長がさんざん圧力をかけられて、窮鼠ネコを噛むような脅しのメッセージを安倍氏および首相官邸へ投げ返したとも思えるからだ。

ライブドアが昨年12月に業務提携した不動産会社ダイナシティをめぐって同じような人脈がうわさされているのも、ポスト小泉レースの最有力候補の足を引っ張る「政争」の一環なのだろうか。妙にきな臭いのが気になるが、メディアはこうした接点の真偽を丹念に追うべきではないか。

ライブドアがキューズネットやロイヤル信販の買収に投資事業組合を使い、エイチ・エス証券子会社「日本M&Aマネジメント」(JMAM)がそれを運営していて、野口氏が運用役だったらしいことはすでに知られている。だが、この投資事業組合という隠れミノ、かつての一部商銀信組や朝銀信組のようなマネーの「洗浄機関」に使われたカラクリと同じではないのか。

もうひとつ、週刊誌はせっかく記者を沖縄出張させたのだから、県警やホテルだけでなく、沖縄で何が騒がれているかを事前調査すべきだったろう。週刊ポストが「沖縄の闇」として構造改革特別区の「情報通信特区」や「金融特区」を暗示しているが、ライブドア自体が純然たるIT企業とは言えないだけに、利権が情報や通信関連だと推定する必要はないと思う。

1月22日、名護市の市長選が行われた。岸本建男市長の後継である元市議会議長、島袋吉和(しまぶくろ・よしかず)氏(59)=自民、公明推薦=が52%の得票率で勝った。その日はまた、死んだ野口氏の通夜と重なった。

沖縄の鼻先にいまぶら下がっている最大の利権は「辺野古」である。住宅密集地に隣接する米軍普天間飛行場の移転は、小泉自民党の総選挙大勝を受けて10月26日、額賀福四郎・自民党日米安保・基地再編合同調査会座長(現防衛庁長官)とローレス米国防次官補のあいだで妥協が成立した。米側の主張する「浅瀬埋め立て」案と、日本側の推すキャンプ・シュワブ「内陸」案の折衷として、キャンプ・シュワブの兵舎地区に滑走路をつくる「沿岸」案を日本が提示、米国が歩み寄ったことになっている。

このほか、第3海兵遠征軍司令部のグアム移転などで海兵隊約7000人を削減し、米陸軍第1軍団司令部を改編して米本土から神奈川の座間に移設することなどを盛り込んだ在日米軍再編の中間報告で両国政府が合意し、地元の同意を得てこの3月に最終報告を出すことにしている。しかし稲嶺知事ら県側は、これでは恒久使用につながると難色を示した。

こうなると、小渕政権の沖縄サミットと同じで、国は大盤振る舞いで地元を黙らせるしかない。すでに平成12年度から「SACO(沖縄特別行動委員会)補助金」と呼ばれる北部振興策で約450億円を投入しているが、新たに1000億円を超す地域振興費がばらまかれるとの観測が出ている。おまけに辺野古沿岸の滑走路工事で巨額の建設需要が生じる。普天間移設は橋本内閣以来のびのびになっていた懸案だが、関係者によれば10月の沿岸案はあまりにも唐突で、前後の脈絡がつかないものだったという。

ラムズフェルド米国防長官の名代として、ローレス次官補が来日したときには、すでに何らかの力学が働いていた徴候がある。防衛庁内で交渉責任者だった山内千里防衛局次長と、地元との調整の中心である那覇防衛施設局長がこの1月30日、事実上更迭されたことも異常事態をうかがわせる。守屋武昌事務次官ら防衛庁上層部との確執が原因との説がもっぱらだが、地元建設会社や大手商社がワシントンで事前に動いていたらしいことと連動しているのだろうか。

しかも同じ30日、空調設備をめぐる官製談合の疑いで、防衛施設庁のナンバー3である技術審議官ら幹部3人が東京地検特捜部に逮捕された。かねてから噂されていたとはいえ、在日米軍再編最終報告を控えた額賀防衛庁長官の引責問題すら取りざたされている。「これで3月までに地元の同意を得られなかったら、守屋(次官)更迭は必至だな」とある森派幹部は言ったという。

「辺野古」の利権は政権中枢に直結する。そういえば、ライブドア事件中にスイスに外遊していた別の森派有力幹部は、自分の選挙区でもない沖縄でやけに後援会づくりに熱心だった。

これらはすべて単なる偶然と言えるのだろうか。