無縫地帯

160兆の国民の年金を運用するGPIFで、セクハラを巡る怪文書騒ぎが発生

160兆円の国民の年金を預かる年金積立金管理蘊奥独立法人(GPIF)で、理事長・高橋則広さんのセクハラ騒ぎの怪文書が乱舞しましたが、実際には別の理事のセクハラの濡れ衣だったことで問題が広がっています。

日本人の年金を中心にした運用資産額160兆円という世界最大規模のファンドである、我が国の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)で、夏過ぎからセクハラ騒ぎが発生しており、このGPIF理事長である高橋則広さんが謎の処分をされるという問題が勃発しました。

先になぜか日本経済新聞がわざわざ社説で「GPIFの綱紀の緩み」を論難するという事態に発展し、さらに問題の詳細を週刊文春(文春オンライン)が「理事長高橋さんの女性との不適切で特別な関係」を報じていました。

[社説]GPIF理事長は襟を正せ(日本経済新聞 19/10/27)

「女性職員と特別な関係」で懲戒処分GPIF理事長がやったこと(文春オンライン 森岡英樹 19/11/15)

この処分の経緯はGPIF理事長高橋則広さんとGPIFに勤務する30代女性との間での面談などについて不適切な関係であると断じるものであって、その経緯はかねて疑義がありました。にもかかわらず、確たる事実認定が行われたようには見えないまま、なぜか高橋さんの行動には不適切であるとして減俸処分となり、また、日経や文春にこの内容が一部リークされて、それをそのまま記事にされてしまった、という流れのようです。

ところが、その理事長である高橋さんと不適切な関係を持ったとされる女性の側が、今度は弁護士を立てて「セクハラ行為は別の理事からの行為であって、その問題について、その理事の上役・理事長である高橋則広さんにしか相談することができず、個人的に相談したまで」であるとして内容証明を送られる騒ぎに発展しました。

さらに、この女性の採用にあたって、理事長高橋則広さんが縁故採用に及んだ情実人事という処分理由にいたっては、そもそも理事長高橋則広さんと女性の間に採用まで何の面識もなかったというオチまでついてしまったようです。この女性の訴え出が事実であるならば、本件処分のための事実関係を調査した監査委員である岩村修二さん(長島・大野・常松法律事務所顧問)らのメンツは丸つぶれであります。大丈夫なのでしょうか。

激震…GPIF「理事長スキャンダル」の裏に潜むセクハラと人事抗争(現代ビジネス 伊藤博敏 19/11/21)

衝撃事実!GPIF理事長「処分」は謀略だった 160兆円を運用する年金ファンドの異常事態 | 金融業界(東洋経済オンライン チームストイカ 19/11/21)

その後、ジャーナリストの伊藤博敏さんや、元FACTAの阿部重夫さんが新しく立ち上げた「ストイカ」名義で東洋経済に記事を掲載しておられました。ここで言うセクハラを行ったGPIF経営陣とは、厚生労働省からGPIF理事となった三石博之さんのことではないかと目され、本来であれば今年9月末で迎える2年の任期満了と共に、同じく理事の水野弘道さんも理事退任するはずでした。一連のセクハラ騒ぎでのGPIF理事長の高橋さんへの処分があったあとで、三石さん、水野さんが一転理事留任になったのは気になるところです。

高橋さんへの処分理由の一部は、文春の報道通り「女性との特別な関係」にあるわけですが、この女性へのセクハラ行為をしたのが実際にはGPIF経営陣の一人である三石博之さんであるとするならば、その三石さんは理事任期直前までセクハラなどの通報窓口となるコンプライアンスオフィサーでもあり、それはセクハラ被害者は通報に躊躇するはずです。女性がGPIFのコンプライアンス窓口に相談しにいったところで出てくるのは三石さんであったという時点で「その上役に相談しない限り、この問題は解決しない」となるのも当然ではないかと思うのです。

「渦中の女性職員は、GPIF経営陣のセクハラに悩み、それを高橋理事長に相談していました。

きっかけは、中途採用の女性職員の歓迎会で幹部が彼女を2次会に誘い、抱きつくなどセクハラ行為に及んだこと。しかもその幹部は、コンプライアンスオフィサーでした。2年以上、前なんですが、その後も執拗な誘いが続き、相手がコンプラ担当なので相談する場所がない。

そこで、女性職員は高橋氏に相談しました。それを知ったGPIF内の反高橋派が、探偵を雇うなどして2人の親密さを写真に撮り、『高橋排斥』に動いたんです」
激震…GPIF「理事長スキャンダル」の裏に潜むセクハラと人事抗争
仮に「セクハラをした相手が、コンプラ窓口の責任者だった」のが事実なら、女性にとって辛い立場だなと思うわけです。

しかし、この女性に対する理事長高橋さんによるセクハラ告発をしたい「反高橋派」は、おそらくいくら探偵をつけても核心に迫る写真が撮れなかったので、直接の窓口から実名で告発することができなかったことになります。結果として、「GPIF関係者有志」という差出人の匿名の文書という形で厚生労働省の年金局長・高橋俊之さん宛に怪文書を送ることになったわけであります。

で、私もこの手の話は大好きですので「高橋さんが女性との間で特別な関係であると疑わせる怪文書の写真」を持っているわけなんですが、どう見ても手を握ったり、腕を組んだりして街角を歩いている風の写真以上のものではありませんでした。中でも、手を握っている風に撮影した写真については、残念なことにフォトショップで加工したと思しき痕跡があり、素人が頑張ったんだろうなあという印象を拭えません。私は人生において手のひらを外側に回して紙袋を持って麻布十番を歩いている人を見たことがありません。しかもその紙袋を持った手で女性と手を繋ぐというのは怪奇現象の類ではないかと思います。

[[image:image02|center|怪文書に添付されていた画像の一部。上の写真では高橋さんが持っていた紙袋が消され、手首が左右反転してあたかも女性の手を握っているように見える。下の写真はその拡大。普通紙袋持ってる手で女性の手を握るかね。]]

しかも、この「匿名でのご連絡失礼します」の書き出しで始まる年金局長高橋俊之さん宛のメッセージは、GPIF理事長である高橋則広さんを追い落としたい人たちが組織内で何度か文面を推敲したのか、文章の変更履歴が一部組織内のネットワークに残ったままになっているようです。つまり、少なくとも誰が書いたのかは分かるのかもしれません。仮にも、国民の年金160兆円を預かる巨大ファンドの理事職を国民のために拝任したはずの人物やその周辺が、もしもそのような謀略に直接手を染めていたのだとするのであれば、非常に恥ずかしいことなのではないかと思います。「どうせやるならもっと上手くやって欲しい」と言いたいのではなく、「そういう手段で事態を打開しようとするのはやめましょう」という意味です。

そして、東洋経済の記事には気になる文言がありました。

9月29日の逆転人事である。これは4年前の「GPIF某重大事件」と呼ばれた騒動の再現に見える。巨大ファンドを運用した経験もないB(山本駐:水野弘道さんのことと思われる)をGPIFに押し込んだのは、大阪つながりの世耕弘成官房副長官(当時)。これに対して当時の塩崎恭久厚労相が激怒、すったもんだの末に理事長を日銀出身の三谷隆博から高橋に代えて、B理事の重石として据えたことでやっと収拾されるということがあった。これが「GPIF某重大事件」である。

B理事は、自身の任期が迫り、せっぱつまって、またもや政治力に頼ったことが疑われる。しかも、自身の留任だけでなくA理事の留任までセットにし、世耕 → 菅義偉官房長官 → 杉田和博官房副長官(内閣人事局長)→ 厚労省と伝わって、GPIF人事は差し戻しになり、書類を作り直し、ハンコも押し直す異例の事態が起きたという推測が、関係者の間でささやかれている。
衝撃事実!GPIF理事長「処分」は謀略だった
それもこれも当時厚生労働大臣であった塩崎恭久さんの人望の無さがすべての原点ではないかと思わない部分もないでもありませんが、確かに当時官房副長官であった世耕弘成さんがGPIF理事に水野弘道さんを推薦したのは事実であったとしても、今回の理事長高橋さんの女性問題による処分で一度退任が決まったGPIF理事をひっくり返すことにどうつながるのかは良く分かりません。そこに何らかのお友達人事の思惑があるにせよないにせよ、「理事長高橋さんが情実人事やセクハラ問題で処分になったので、9月末で退任の決まっていた水野さん、三石さんの人事をひっくり返して理事職に残す」という判断になるとはちょっと思えないからです。

しかしながら、実際には人事がひっくり返りました。そして、水野弘道さん、三石博之さんはそろって理事に留任し、理事長の高橋則広さんだけが半年間給料を減らされて日経で名指しで馬鹿にされるという悲しい事態になっているのであります。世の中おかしいと思うんですよね。

このあたりの力学は本当に謎で、安倍晋三さんが率いる政権特有の動きなのだとするならば、まだこれから見えない何かが理由で二転三転するのかもしれません。

塩崎厚労相と世耕官房副長官、低レベルすぎる誹謗中傷合戦で潰し合い塩崎氏更迭必至か(ビジネスジャーナル 2015/2/25)

逆に言えば、国民の年金を預かるGPIFの経営にあたって、そのヘッドである理事長・高橋則広さんを追い落とすために捻り出したネタが、実際には業務遂行上の問題ではなく、別人がまいた種であるセクハラ騒動の濡れ衣を着せることぐらいしかなかったとするならば、我が国の政治闘争や自浄能力・チェック機能の微妙さをひしひしと感じずにはいられません。国民の年金を責任もって運用する能力に欠ける、ということであれば、闘争でも論争でもどんどんやっていけばいいと思いますが、程度の低い謀略で処分だ解任だとなるのは国民不在であるだけでなく公器として残念なことだと思うのです。

理事長・高橋則広さんにとっては、身に覚えのない問題での処分ではないかと思うのですが、ご本人が神のように広い心で濡れ衣を甘受し国民の年金のために働こうとしていたところ、理事長退任に追い込めなかった人たちが逆に女性の側から弁護士を立てられてセクハラ関連や情実人事に関する事実を突きつけられ、慌ててマスコミにリークをして大音響が発生し、寝た子を無事全員起こすというのは画期的な事例です。私も、こんな騒ぎにならない限り本件記事なんか書かなかったと思うんですよね。この世に正義ってないのかな?って。

不可解なことの多い本件ですが、マスコミにリークをすれば一方的に自分に有利な情報だけが流れてくれると思ったら大間違いであることも含めて、いろんな示唆のある、学びの多い事例でありました。

引き続き、よろしくお願い申し上げます。

(修正19:30)

ご指摘があり、一部組織名の正式名称と、任期年数で誤記がありましたので、謹んで修正させていただきます。ご指摘、ありがとうございました。